第十話
「まず最初に、天城に、冒険者活動で忙しい中でこのような時間をとってくれてありがとう」
空き教室に入った瞬間、荒鐘君がそう言って頭を下げて来た。
俺が頭を上げるよう促すと、彼はゆっくりと頭を上げた。
「それで、今日はどんな用があって俺を呼んだんだ?」
荒鐘君は俺がそう言うと目線を下に移した。
俺はその光景を見て、何となくデジャヴを感じた。
つい二、三週間ほど前にもこのような光景を見たような…見なかったような…。
荒鐘君は小さく息を吐くと、真っすぐ俺の方を向いた。
「頼む天城、俺に冒険者のノウハウを教えてくれないだろうか」
そう言って勢いよく頭を下げる荒鐘君。俺は再び天を仰いだ。
「……………――――それで……俺は理由を聞きたい」
適当な理由だったら断ろう。
これからの予定が多すぎるから、安請負したら数日の徹夜は覚悟する必要がある。
悪いけど…そう簡単に了承する訳には…。
「実は…父が鬱病になってしまったんだ。所謂ブラック企業で精神をすり減らしてしって…」
そう…簡単には…。
「その父を介護しようと母は努力していたのだが、母も時期に精神を病んでしまって…」
「………」
「先日、自殺を試みていて……その時は止められたのだが、母も入院することになってしまって…」
「…………ぁぁ…」
「俺は……元の生活に戻ろう何て高望みはしない…ただ、二人に長生きして欲しい…」
「喜んでお手伝いさせていただきます」
絶対無理。
重い…重すぎるよ…普通の高校生に背負わせていい重みじゃないって…。
…と言うか、数日間の徹夜なんて彼の心労に比べたら、どうでも良いこと過ぎる。
「それじゃあ、今週の土曜日に冒険者協会で…」
「本当か!ありがとう!本当に……ありがとう!!」
彼の眼もとには少し湿っていて、それに加えて、恐らく化粧か何かで隠しているだろうが、薄っすらと隈の跡が見えた。
彼はそう言うと、足早に教室を出て行った。
俺は優人に気にするなと再度念押しをしてから、仕事があると言って、教室を出た。
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「すみません……非番の追加って出来ますか…?」
恐る恐る土御門さんにお願いする俺に対し、土御門さんの表情は意外に悪くなかった。
「ああ、別に構わんよ」
土御門さんはそう言って俺に書類が入ったファイルを投げつけた。
「お前は少し働き過ぎだったからな、少しは休め…と言いたいところなんだがお前に頼みたいことがあってな…」
書類を見てくれと土御門さんが言うので、書類にざっと目を通す。
「1月2日、日本海に謎の浮遊する扉が確認された。近くのB級ギルドが調査に向かったが、パーティーは半壊。ギルド長含む数名が意識不明の重体となっている」
俺は土御門さんの話を聞きながら資料を読み進めていく。
B級ギルドが半壊する程の異界となると、A級の魔物が出ても可笑しくはないはずだが……。
「土御門さん、入り口付近の魔物の情報はこれで全部ですか?」
資料にはD級とC級の魔物しか書かれていなかった。
土御門さんは俺の問いに頷くと、資料をさらに読み進めるように促した。
「……海中異界…?」
そう言うと土御門さんは静かに頷いた。
「調査ギルドは扉のデザインを見てあってB級レベルだと思っていたそうだ。しかし、一歩踏みしめた先には大海原が広がっていたらしい。即座に足場を作り、体制を整えようとしたが、其処に魔物達が雪崩れ込んで来て一気に攻め込まれたらしい」
「……成程…結構面倒な異界みたいですね…」
「…湊、お前は水中でどれくらいの時間過ごせる?」
「……最低でも数時間は行けます。”耐性”が付けばまた伸びてきますが…」
土御門さんは俺の話を聞いて、少し考えて直ぐに答えを出したようだ。
「良し、3時間だ。私は式神を一体お前に付ける。3時間でお前を引き上げるよう命令をしておくから、お前はそれまでに異界の調査を終える……行けるか?」
「了解です。作戦日は?」
「今週の日曜日に新幹線を予約しておく。後は式神に乗って現場まで行ってくれ」
土御門さんはそう言うとまた忙しなく手を動かし始めた。
俺は資料を持って部屋を後にした。
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・用語紹介
・日本海海上異界
現状異界ランクが不明の危険な異界。
扉のデザインや感じる魔力からあまりランクの高くない異界の様に見えたが、その実態は海上と言うアウェイな状況で戦闘を強いられるとても凶悪な異界。
今回対応したB級ギルドは海での戦いに特化したギルドでは無かった為、総崩れとなってしまった。
・一口キャラクター紹介
・荒鐘 健也
立て続けに不幸な出来事に見舞われた青年。
彼自身はこの事態にショックを受けた物の自分にできる事を模索し、たどり着いたのが冒険者だった。
・天城 湊…【剣王】
非番の日を増やそうとしたらとんでもない仕事が振り込んできた苦労人。
今回は異界侵攻では無い為、まだ精神的には楽だが、荒鐘の話を聞いて結構精神的に参りそうになっていた。
けど彼が前を向こうとしているのに自分がショックを受けている場合ではないと、己を一喝した。
・高宮 優人
荒鐘の話を聞き、滅茶苦茶葛藤した末に湊を紹介することに決めた。
彼自身、本来ならば湊にこれ以上負担を掛けたくなかったが、荒鐘の家庭環境が余りにも酷い状況になっていると知り、一発貰う覚悟で湊に話をした。
・世界観紹介
・冒険者の部活
冒険者達はすさまじい身体能力を得てしまう為、冒険者とそれ以外で大きな差が生まれてしまうが、ステータス封じの腕輪を付けさせる事で公平を保つことにした。
一部の人からはその対応に批判の声が出ているが、大体は納得している。
・冒険者の納税義務
一部低級冒険者は申請をする事で様々な義務を免除してもらうことが出来る。
まあ、命がけで戦っているので仕方ないとする者も居れば、批判する者も居る。
因みに、その代わりに【九尾の狐】や【聖女】様々な義務が課せられており、その一部に【聖女】による無償治療と言う物が有ったりもする。
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皆様へ
第十話を持って第二章前半は終了となります。
以降は後半と言う事になるのですが、まだ完成しきっていないので続きは少し待って頂くこととなります。
以前のような長い休止とはなりませんので少しだけお待ちください。
これからもよろしくお願い致します。
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