第九話
「天城ってさ、冒険者なの?」
朝学校に登校するや否や突然あまり話した事の無いクラスメイトからそう聞かれた。
やはり聞いて来たか…横目で優人の方を確認するとあっちもクラスの奴らに質問攻めにされているらしく、対応に追われていた。
俺は適当に目の前のクラスメイトを流し、真っすぐ高橋の方へ向かう。
高橋は心底愉快そうに笑い、その軽薄な視線を俺に向けた。
「あー!!冒険者の天城君じゃん!実はさ、俺も冒険者なんだけどさ、お前って何級なの?俺、気になるな~」
高橋は俺たちのランクをバカにする気で聞いて来たんだろう。
滅茶苦茶面倒だが、仕方無い…言うしかないよな…。
「先月辺りにC級なったばかりだ…んで、そっちは何級なんだ?俺も言ったんだから隠す必要ないだろ?」
俺がそう言うとクラスでざわめきが起こる。
「C級…ってヤバくない?」「冒険科でもあんま聞かないよね?」
そんなざわめきが聞こえてくるが正直そんな事知ったこっちゃない。
問題は目の前に居るこいつらだ。
奴らは慌てて耳もとに口を寄せ小さな声で話し合う。
……悪いが、普通に聞こえてるぞ?
「おい、どうすんだよ、あの天城に赤っ恥を書かせられるって聞いて来たのに、どうなってんだ」
「俺も知らねえよ、天城がこんなに強かったなんて…」
もしかして俺って…意外と嫌われてるのか?
学校生活に一抹の不安を覚えながらも、ここで委縮してはいけないと心を奮い立たせ、更に彼らに詰め寄る。
「なあ、速く言いなよ、別の勿体ぶらなくても良いじゃないか」
「……そ、それは…」
高橋はたじろぎ、視線を右往左往させる。
言い淀む高橋にさらなる追求をしようとすると、突然教室のドアが開いた。
「皆!おはよー……何だこの雰囲気…」
朝練を終えた陽太たち運動部が続々とクラスに入って来る。
結局高橋たちは俺を無視してサッカー部の所謂一軍男子、と呼ばれる奴らに声をかけに言った。
「なあ、湊…これ何があったん?」
陽太が不思議そうに聞いてくる。
俺は面倒になって、陽太に一言断りを入れてから、保健室に向かった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あの教室に居ても不利益しか被らないだろうと考え、一旦保健室に逃げようと思ったのだが…。
「あ…湊…」
「み……秋月か…」
保健室へと向かうと何故か秋月だけが居て、先生は何処にもいなかった。
俺は気まずくなって顔を背けて秋月から一番離れた椅子に座った。
少しの間保健室を静寂が包み込んだ。
すると、突然秋月が口を開いた。
「湊は…まだ冒険者やってるんだよね…」
そこまで噂が回っているのか、と思わず頭を抱えそうになったが、ギリギリで耐える。
「まぁ…そうだよ、もしかしてそこまで噂が回ってるのか?」
「噂…何それ、私は知らないよ」
「え…?じゃあ、何で急に…」
俺が秋月に聞き返そうとすると、丁度保健室の先生が戻って来た。
「ごめんねー秋月さん。朝練で怪我をしてた他の生徒を見てたら遅く…って天城君も!?大丈夫?怪我?それとも気分が悪くなっちゃった?」
不安そうにこちらを見つめる保健室の先生。
半分仮病のような物なので、適当にはぐらかしてベッドで眠らせてもらった。
……パッと秋月を見た限り、怪我はしていないし体調も悪そうに見えない。
恐らく学校生活で何か相談事が有るのだろう。
人の悩み事何て盗み聞くもんじゃない。
俺は極力外の話を聞かないようにしながら、夢の世界へと意識を飛ばすのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……君…天城…天城君」
微睡から意識が引っ張り上げられ、段々と自分の体が揺すられていることに気付いた。
「もう2時間目終わっちゃうけど、どうする?」
「あ”ー…流石に3時間目は行きます」
口を開いて寝たせいでガビガビになった声でそう答える。
うちの高校の入試が近い為、今週は早帰りなのだ。
流石に丸一日出席しないのも駄目だよな…。
先生は「分かったわ、ゆっくり休んでね」と言ってカーテンを閉めた。
あーーー…教室戻りたくないなぁ…。
そんな事を思ってもやっぱり戻んなくてはいけない。
ずる休みしてぇ~…でも叔母さんに心配かけられねぇ~。
俺は腹をくくって保健室を出ると、教室へと向かった。
「……ねえ、あれって…」「そうだよ…一年生の」
「普通科なんでしょ?」「すげぇな…」
道行く人にジロジロ見られ、凄く嫌だ。
二年生や三年生ならばまた違ったのだろうが、普通科で更に一年生と言うのが悪かったようだ。
俺は他人から向けられる好奇の視線に怯む事無く、ずんずん一年二組へと歩いていく。
こんなに視線を感じたのは、初めて生放送に参加した時以来だ。
あの時はカメラの向こう側から途轍もない熱量を感じて何となく怖かったが、今回は人の顔が見える。
人の顔が見えるなら大丈夫だ。
感知内に居る奴なら何とでもなる。もう耐性は出来上がった。
そんな物騒な事を考えている間に、一年二組の扉の前まで来てしまった…。
入る前に最悪のケースだけ考えておこう。
もし、クラスで浮いてしまっていじめの標的にされたら。
……………学校辞めるか。
まぁ、既に死ぬまで豪遊できる分は稼げてるし…。
あ、でも叔母さんが悲しむよなー…土御門さんに何処かの冒険者高校斡旋してもらって、其処に編入してみようかな…。
うん、それで行こう。そうすれば解決だ。
でも、土御門さんにおんぶにだっこと言うのもな……。
そんな事を考えていると、チャイムが鳴り始めたので、俺は急いで教室に入っていた。
俺が教室に入ると、騒がしかった教室が静まり返り、先生が不思議そうな表情を浮かべる。
俺は先生に小さく頭を下げて、席に着いた。
椅子を引くだけでビクビクとする隣の生徒。
正直こんな反応されると思っていなかった為、滅茶苦茶面倒くさい。
一々ビビらないで欲しい。
理性では仕方のない事だと理解しているが、心のどこかで面倒だと思っている自分が居る。
俺は頭をブンブンと振って授業に集中しなおすのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おーい、湊~昼飯行こうぜ~」
「…お、おう…陽太って今日部活だったっけ」
何時も通り話しかけて来る陽太に少し驚いたが、直ぐに切り替え、普通に会話する。
「どうする?何時ものラーメン屋行くか?」
「いや~流石に部活前にラーメンはきついから、駅前のファミレス行かね?」
「おっけー、それじゃあ行くか」
俺がそう言うと、陽太はバッグを担いで外へと向かう。
「すまん、天城、ちょっといいか?」
声がした方を見ると、其処にはサッカー部の所謂一軍男子が立っていた。
傍には優人が申し訳なさそうにこちらを見ている。
―――…喋っちゃったか…まあ仕方ないよな…。
「ごめん陽太…昼飯はまた今度にしよう」
「おう、そんじゃまたな」
俺は陽太に手を振って、別れを告げると改めて、彼らの方を向いた。
「それじゃあ、行こうか”
「ああ、俺も部活が有るからそこまで時間はかからんから安心してくれ」
俺は荒鐘君の後に続きながら、優人の背中を軽く叩く。
優人は顔を青ざめさせながら、こっちを見た。
「気にするな、遅かれ早かれバレるとは思っていたことだ。優人は自分が一人前の冒険者になった時の事だけ考えればいいんだ」
俺がそう言うと、優人は安心したようで顔に生気が少し戻ったような気がした。
―――さて…どうなるかな…面倒なことにならなければいいけど…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ー
・人物紹介
・秋月 澪…A級冒険者パーティー
高校生でA級冒険者パーティーに所属する冒険者。
しかし、彼女自身のライセンスはB級冒険者の物となっている。
理由としては、解体師としてのライセンスがF級時から昇級されいていないからで、実力はA級中位はあるはずなのにB級に押し込まれている。
ずっと前から何かを求め続けている。
荒鐘
一年生にしてサッカー部のエースを任せれる程の実力者。
基本的に寡黙でとても真面目、どんな事にもストイックな為、物事の切り替えがとても上手い。
クラスからの評判は良く、めっちゃモテる。
・高橋
F級冒険者。
自尊心が強く、自分が一軍であることを疑わず、クラスで威張り散らかしているが、周りからの目は冷めている。
残念ながら彼の周りには一方的な友好関係を結んだものしか居ない。
・天城 湊…C級冒険者?
一部の生徒からは元不良なのでは?と思われている我らが主人公。
ごく一部だが彼の態度をすかしていて鼻に着くと感じ、何処かで一泡吹かせようとたくらむ輩が居る。
彼自身は平和な日々をゆっくりと過ごしたいだけなので、正直面倒事は避けたい。
しかし、誰かが困っていている中で見捨てる様な性格では無い為、お節介でも良いから何とかしようと思ってしまう。
・夏原 陽太
学校の中で主人公の事を二番目に理解している大親友。
湊が忙しくてあまり遊べていないが、滅茶苦茶仲がいい。
たった一年しか共に過ごしてきていないが、互いに互いの事を深く信頼している。
因みに、湊が冒険者だと聞いた時、彼は別に驚かず、普通に接した。
補足しておくと、彼の所属部活動はバスケットボール部である。
・一口用語紹介
・冒険科
冒険者を育てるためのカリキュラムが組まれた特別クラス。
殆どの私立では一年生の大半が二年に進級する際にD級冒険者になり、卒業時には全員がC級冒険者になっている。
有名私立では半分ほどがB級冒険者になっているらしいが、退学者も相当いるらしい。
・世界観紹介
・私立陵科高等学校の部活動
基本的にどの部活動も強いがサッカーの名門と言われている。
最近は県大会上位入賞で留まっているが三年前は全国大会に出場した事もある程。
しかし、今年はB級冒険者、秋月澪が入学した事で冒険者部が一気に強豪に大変身した為、一年生の多くが冒険者部に入部している。
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