第五話

「と言う事でC級冒険者ライセンスの発行よろしくお願いします」


「りょうかーい、気をつけて帰れよ~」

「いやちょっと待ってください!湊君、バレてしまったんですか?!件の高宮君とやらは本当に大丈夫なんですか?!」


話が纏まろうとしていた時、古宮さんが取り乱しながらそう叫んだ。


古宮さん、また隈が濃くなってるのだけれど…大丈夫だろうか?


「湊君!真剣に答えてください!私は今!!激しく!!!動揺しています!!!!」


「古宮さん?!落ち着いてください!彼は大丈夫ですよ。ごく普通の善良な高校生男子ですから…。それに彼は信頼に足る人物だと自分は思います」


古宮さんは一度落ち着きを取り戻し、ずれていた眼鏡を戻した。

そして深いため息を吐くと、何とか落ち着きを取り戻した。


「…まあ……心配ですが、取り敢えず納得致しました。ですが、私は心配なんです。ただでさえ広報の仕事が追加されてしまったのに……もしその人物に君の正体がバレてしまっては…君の学校生活は普通から更にかけ離れてしまう…」


古宮さんはそう言って悲しそうに俯く。

俺は咄嗟に何を言えば良いのか分からず、視線を右往左往させていると、土御門さんが不意に立ち上がった。


「まあ、古宮の言い分も分からんでもないな。私だって、湊には幸せに暮らして欲しい…。しかし、これは湊が自分で考えた上で選んだことだ。それならば、優しく見守ってあげるべきだと私は思うがね」


そう言うと、土御門さんはC級冒険者ライセンスと魔力封じの腕輪を渡してくれた。


「けれど、これだけは覚えておいて欲しい。私たちは君の事を家族の様に大切に思っている。何かあったら、絶対に伝えてくれ」


約束だぞ?

そう言って、微笑むと土御門さんは席について、書類に視線を移す。

古宮さんは納得がいっていない様子だったけれど頬を膨らませ、俺の肩をポスっと叩いてから自分の席へと戻って行った。


俺は二人に頭を下げて、音をたてぬように気を使いながら部屋から退室した。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



あれから連絡が有り、今週の土曜日に一度実際に異界に行く事となった。


色々と脳内でシュミレーションして、遂にやって来た土曜日。

今日は土御門さんにお願いして午後を非番にしてもらい、何とか時間を作った。


早めに協会のロビーに来て、適当な机に座って昼食を摂っていた。

周りには冒険者たちが待ち合わせをしていたり、パーティーを組もうとソワソワしている人など、午後2時にしては沢山の人が居た。


「あ、湊君!見つけた!」


手を振りながらこちらへと向かって来る優人。

俺は椅子から立ち上がって、優人を迎えに行った。


「おはよう、昨日はちゃんと寝れたか?」


俺がそう言うと優人は恥ずかしそうに頬を掻いた。


「いやー…緊張してあんまり眠れなかったよ…」


「まあ…気持ちは分かるよ。けど、冒険者は基礎体力からだからな…少しずつ慣れて行こう」


俺はそう言って、取り敢えずカウンターへと向かった。


受付の本田さんは俺を見るなりギョッとした表情をしたが、隣に居る優人を見て、嬉しそうに鼻を擦り、満面の笑みを浮かべて俺たちに向けて受付特有の定型文を言った。


「ようこそ!冒険者協会へ!本日はどの様なご用件でしょうか!」


どうしてか何時もよりテンション高いな本田さん…。

そんな本田さんを見て優人は嬉しそうにしているし…。


取り敢えず、優人の装備のレンタルとロッカーを借りて、丁度いい塩梅の依頼を幾つか見繕った。


「はいこれ、優人の装備ね。向こうに更衣室が有るから、そこに貴重品と着替えを置いて来て、んで、これがそのロッカーの鍵」


優人に必要な物一式を渡すと、目を輝かせながら彼は更衣室へと向かって行った。

俺は待っている間、依頼が載っている掲示板をずっと見ていた。


其処には異界内にある鉱物や植物の採取、魔物の素材の採取依頼など多岐にわたっ様々な依頼が掲載されていた。

しかし、行方不明者の捜索願の依頼だけが平時よりも多く、植物の採取依頼の数に並ぶほどとなっていた。


これは明らかに可笑しい。

異界に特殊個体が生まれたのか…?ならば調査に行った協会職員が気づくだろう。


20件ほどあった依頼の内、8割がD級以下で残り2割がC級冒険者だった。

これらから推測できることは一連の事件は低級冒険者を狙った計画的犯行と言う事だ。


しかし、これだけの数の犯行が行われていると言うのに、犯人像が全く浮かんできていない。

協会に残された記録には行方不明になった彼らは全員独りだけで異界に入っており、その後に誰か特定の人物が異界に入ったという記録はないのだ。


俺が考え込んでいると、どうやら優人が装備を着替え終わったらしい。


「ごめん、着替えるのに時間かかっちゃった」


「初めてなんだから、仕方ない。それじゃあ、行くか」


そう言うと、優人はソワソワし始める。


「えっと…どの異界に行くの?」


「まあ、優人は初めてだし…品川F級異界に行こうかな…」


「品川F級異界って、前テレビで見たよ!お年寄りとか、子供とかが利用しやすくて凄く人気な異界で予約が必要とか聞いたけど…」


「うん、そうなると思って先に予約取っておいたよ。ほい、これが参加証」


そう言って、チケットを優人に渡すとそのまま目を丸くして放心している。


「湊君って…凄いね…」


「…そうかな?」


…次からはここ以外のF級異界にしよっと。


「…あ、そうだ。異界に行く前にこれから方針について伝えておこうと思う」


俺がそう言うと優人は目を丸くした。


「俺は…優人を半年以内に一人前のD級冒険者にして見せる」


優人は驚いていたようだけど、覚悟を決めたようにしっかりと頷いた。

俺はその反応を見て。依頼書をマジックバックに仕舞い、品川駅に向かう電車に乗る為に優人と一緒に駅へと向かった。



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・用語紹介


・冒険者協会の掲示板


F級~B級までの依頼が掲載された掲示板で、半年前までの依頼が其処に貼ってある。

依頼を受ける場合は、貼られた依頼書を受付へと持っていき、依頼の詳細情報を受付から受け取り、契約書に必要な情報を記載していく。

依頼内容によって締め切り変わるが、大体一週間以内である。

締め切り以内に完遂出来ないと罰金が発生する為、依頼を受ける場合は慎重に。


F級冒険者なら、素材採取から始めるのがお勧め。依頼内容に比べ報酬内容が良いから。

因みにC級冒険者以上になると一月以内に4つ、D級難易度の依頼を達成しなければD級に格下げされるので注意が必要。


・品川F級異界


F級異界の中で三本指に入るくらい安全な異界。

出てくる魔物の殆どは殺傷能力が低く、初心者でも安心して挑戦することが出来る。

以前テレビで放送される程人気の異界で、東京のセレブ達が大枚をはたいてその異界で子供に異界攻略の経験を積ませている。


作中で湊がしれっと品川F級異界へ行こうとしているが、実はS級冒険者の特権でごり押しして予約を入れてもらっている。


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