第四話
それは何の変哲もない、ごく普通の日の事だった。
その日は俺がパトロールの当番だったため、夜遅くまで冒険者協会まで残っていた。
自室で着替えを終え、スタッフの出口から冒険者協会を出ると、ふと違和感を感じた。
何処からか感じる強い視線、反射的にその方向を向くがそこには多くの人々が居て視界が極めて不明瞭だ。
怪しい人影も見つからず、結局何も出来ず、家まで帰った。
そんな事があった翌日。
俺の下駄箱の中に一通の手紙が入っていた。
そこには〔貴方の秘密を知っています。もしお時間がよろしければ放課後に屋上まで来ていただけませんか〕と書かれていた。
もしや脅しか?…何て考えたが、手紙に書かれていた文字は手書きで文章内容もとても丁寧だったため、その線は薄い。
一体この手紙の差出人の目的は何なのだろう…?
結局、俺はその事しか頭が働かず、授業中も上の空だった。
そして放課後、一緒に帰ろうと言う陽太の誘いを断り、急いで屋上へやって来た。
何時もは閉まっているの屋上の鍵は開いていた。
それは差出人が既に屋上で待機していることを意味している。
俺は静かに魔力を練り上げ、一気に扉を開いた。
「――っ!……?高宮君…だよな?もしかして、君が俺を呼んだのか?」
其処に立っていたのは、うちのクラスで委員長をやっている、”
とても物静かな印象があったのだが…。
そんな彼がどうして俺を…?
「天城君…その…君にお願いしたい事が有ってここに呼んだんだ」
彼は目を伏せながらそう言った。
俺はどんな要求が来るのか全く想像できず、咄嗟に体に力が入った。
「ぼ…僕を…っ!一人前の冒険者にしてくださいっ!」
―――………えぇ?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ごめん、ちょっと待って、頭の中を纏めるから」
湊は思わず頭を抱えてしまった。
彼の想像の斜め上を突き抜ける絶妙なお願い。
頭を抱える湊を見て優人は恐る恐る言った。
「その…昨日の事なんだけど…湊君が冒険者協会から出てくるのを見つけて…僕、冒険者になりたくて、出来ればノウハウを教えてもらえればなぁ…何て思って聞いてみたんだ。けど!湊君が冒険者をやってることを秘密にしているのは理解してるから、もちろん誰にも言ってないよ!」
湊はたっぷりと時間をかけ事実を飲み込んでいく。
「………俺の事を知っているのは分かった。…だけど、理由を聞きたい。どうして冒険者になりたいのか、それを聞きたい」
湊は彼に冒険者になって欲しくなかった。
バイト感覚ならまだしも、高宮の言葉からは強い意思を感じており、彼の覚悟が生半可ではないことを示している。
それに加えて最近、低級冒険者の行方不明事件が急増しており、原因究明に難航している。
こんな時じゃなければ、湊だってそのお願いを渋々だが受けただろう。
しかし、事件が収束しておらず、犯行手順すら分かっていない現状で冒険者になるにはあまりにも危険だ。
彼の本心を見極める為、湊は疑問を投げかけた。
異界に物語の様な展開は現実には存在しない。
進んでいった先で突きつけられるのは救いようのないバッドエンド……そんな事もありえる。
湊は彼にそんな、経験はして欲しくなかった。
彼が助ける余地のない極悪人とか、そう言うのだったら後ろ髪を引かれる事も無い。
しかし、彼は普通の高校生で、まだこちら側の道を選ぶには早すぎる。
優人は小さく息を吐いて、真っすぐ湊を見つめた。
「お金が…必要なんだ」
絞り出すような声、湊はその返答に反応しようとしたが、優人はそのまま言葉を紡ぎ続ける。
「僕…父さんが3年前に死んじゃって…母さんが頑張ってくれてたんだけれど、一月ほど前、体を壊して病院に搬送されたんだ…。それに…姉は大学に進学しようとしてて、それの学費とか諸々のお金が必要で…僕、どうすれば良いのか分からなくて…それで……」
優人はそのまま俯いた。
湊はその話を聞いてゆっくりと口を開いた。
「そっか……話してくれてありがとう…。高宮君、君の冒険者活動を俺の出来る範囲だけれど手伝わせてもらうよ」
「ほ、本当!ありがとう!」
きっと優人にとって冒険者と言うのは最終手段だったのだろう。
高校生で冒険者になる人は決して少ないと言う訳では無い。
現にこの学校の約1割程の生徒は冒険者として活動している。
しかし、その大半がお小遣い稼ぎ目的である為、真剣に冒険者として活動している者は極めて少数である。
確かに、冒険者は稼げる。
だが、それ故にリスクも多く、簡単に命を落としてしまう。
冒険者になるリスクと、家族の生活を天秤にかけ、優人は家族を選んだ。
湊はその選択を応援したいと心の底から思った。
「そう言えば…湊君って何級の冒険者なの?……あっ!…もし言いたくなければ言わなくて大丈夫だよ!こういうの聞くの良くないって言うし…ごめんね」
「いや、大丈夫…そりゃ気になるよな…」
湊は深いになど思っていない、むしろ凄まじく焦っていた。
自分の等級を低く伝えると、自分への信頼が薄れてしまうと思ったからだ。
実際、優人はそんな事は無いのだが…。
兎も角、彼は高校生冒険者の等級の相場なんか知らない。
どの等級が平均なのか、どれくらいの頻度でダンジョンに潜るかすらも全く分からない。
およそ0.3秒の逡巡の末、湊は答えた。
「今年の夏にC級になったばっかだよ」
この勘とざっくりの予測で答えたC級と言う等級。
実はこの答えが最善手と言っても過言ではない。
高校生でC級冒険者と言うのは学校に一人居るか居ないかレベルの逸材であり、本来であれば滅茶苦茶目立つが、殊この学園においてはA級冒険者である秋月澪他、有望な冒険者が何人も居る為、凄い事は凄いが比較対象が凄すぎる為、そこまで目立たないのである。
それ故に、優人はかなりの尊敬を湊に向けつつも、普通のクラスメイトとしてやっていける程度には落ち着いている。
「それじゃあ、天城君これからよろしくお願いします」
「ああ、よろしく…と言うか湊で良いよ、俺も優人って呼ぶようにするからさ」
「……うん!よろしくね湊君!」
満面の笑みでそう言う優人に湊もつられて微笑んだ。
これから先、色々と大変かもしれないなと、その微笑みに微かな不安と高揚感を隠しながら空を見上げ、湊はそう呟くのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
キャラクター紹介
・高宮 優人
主人公が所属する一年二組のクラス委員長。
彼の物腰の柔らかさから生徒から先生まで、多くの人から頼りにされている。
彼には姉が一人と妹が二人おり、父親は数年前に他界している。
今まではアルバイトを掛け持ちして何とかやって来たが、母親が過労で倒れ、その際に腰の骨を骨折した為、病院で入院する事となった。
母親と姉と自分の収入で何とか賄ってきたが、姉の進学費用と、生活費でお金が回らなくなってしまい。どうすれば良いか途方に暮れていた。
意気消沈していたアルバイト帰りに冒険者協会から出て来た湊を見かけた事で、半分脅しのような形で湊に一縷の望みをかけた。
因みに、湊に頼み込む前に冒険者ライセンスを発行する条件はクリアできており、ちゃんとF級冒険者になっている。
・天城 湊…C級冒険者?
冒険者になってから一番肝を冷やした。
最悪手紙の送り主を自分の手元に置けるようにギルドでもなんでも作ろうか…何て事も考えていた。
・用語紹介
・世界観説明
・冒険者ライセンス発行のなる条件
1.犯罪歴が無い事。犯罪歴がある場合、面接となります。
2.ステータス値が全て100を超えている事。
3.契約書にサインが出来る事。(15歳未満の場合保護者の同意が必要です)
4.生命保険及び、複数の保険に加入する事。
5.素材を売却する場合は協会以外の場所を利用しないこと。
6.冒険者に課せられる義務をしっかりと果たす事。
以上6条を守れれば貴方も晴れて冒険者です。
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