一章 最終話

あれから片付けも全て済み、俺は班の二人の下へとやっと戻ってこれた。


二人は俺を見つけた瞬間、「怪我は無いか?」とか「見失ってすまなかった」などといの一番に俺の心配をしてくれた。


二人に途轍もない罪悪感を感じながら、大丈夫ですよ、と言いながら笑いかける。


そう言うと廻さんは小さく笑っていたのだが、何だか景士さんの様子がおかしい。

何故だか顔を青ざめさせながら、俺の顔をじっと見つめている。


何だろう…何か変な所でもあっただろうか………あ”っ!


認識阻害の白いブレスレッドが無くなってる!

壊れたブリキの様なぎこちない動作で動く俺は、景士さんの目には一体どのように映っているのだろうか。


そんな俺たちを何処か不思議そうに見つめる廻さん。

状況は混沌を極め、俺が出した答えは…。


「ちょっと、場所変えません?」


その時の俺の背には今までにない程の冷や汗が流れていたと思う。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



俺たちは冒険者協会にある個人部屋までやって来た。

此処まで来ると廻さんも違和感に気付いたのか、景士さんに聞いていたが、景士さんは静かに首を横に振るだけだった。


誰に会う事も無く俺の部屋に着き、二人をソファに座らせ、お茶を出したら二人の対面に俺は座った。


「……さて、最初にお二人を騙してしまい、申し訳ありません。改めて自己紹介を…C級冒険者、天城湊。改め、S級三位【剣王】天城湊と言います」


そう言って俺は深く頭を下げる。

二人は驚いたのか呆気に取られていた。


俺は今回の事を予知の事を暈しながら説明していく。


二人は何処か納得していないのか、少し不満そうな顔をしていた。

すると、廻さんの方が先に口を開いた。


「……大体事情は分かりました。私たちが情報を与えられず、囮にされていたことも納得できます…。しかし、私が言うのも難ですが、今回の作戦において貴方の安全が担保されていない…それだけは、どうしても私は納得できない」


二人は沈痛そうな表情をしていた。

俺が何かを言おうとするとそれに覆いかぶさるように廻さんは言葉を続けた。


「確かに!あなたは強い……しかし、貴方はまだ高校生だ。今回の戦いにおいても、貴方の双肩には多大な重責がのしかかっていたはず…そんな中で血涙を流してまで戦う貴方を見て…私はっ!」


「……これは私のエゴだ。それでも、私は……貴方にこれ以上、無茶をして欲しくないっ…」


少し間を開けて廻さんは「出過ぎたことを言いました」と言って顔を俯かせた。


俺には、二人を納得させることは出来ないかもしれない。

それでも、言わなくちゃいけないことがある。


「…ありがとうございます。そう言ってもらえて、俺はとても嬉しかった…」


「それでも……俺の手の届く範囲は、守りたいんだ。だから、戦うよ」


多分、景士さんは泣いていたと思う。

廻さんの表情は伺えなかったけど、少なくとも良い表情はしていなかった。


俺は二人に仕事用スマホの連絡先と金券をこっそり渡して、裏口から帰ってもらった。


俺はソファに寝っ転がって、目を閉じる。

先程まで感じていなかった疲労感がどっと押し寄せて来る。


これだけ疲労したのは久々だな…。

視界の端でスマホを操作してアラームを30分後にセットして、俺は意識を落とした。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「……ぇ、……さぃ」


「…せん…、……くださいっす」


「先輩、起きてください!」


「……?鷹田?何でここに…」


此処は…俺の部屋だよな…何でここに?


「今から臨時でS級冒険者の会議を開くんすけど、土御門さんが先輩が疲れているだろうからって、俺にマスターカードを渡してきたんすよ」


そう言われて視線を向けると、鷹田の手には確かに見覚えのないカードが握られていた。


「これから会議室Aで始まるんすけど…先輩いけそうっすか?」


俺は体を起こして、二、三回頭を振る。

先程まで感じていた疲労感は無くなり、意識はハッキリとしている。


「大丈夫だ。それじゃあ、行こう。」


掛けておいた白いロングコートを羽織り、俺たちは会議室Aへと向かった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



会議室に着くと12個ある席の内、4席しか埋まっていなかった。


と言うか、殆ど今回の作戦に参加した人だけじゃないか…。


「お、湊も来たね。それじゃ、始めようか。」


俺と鷹田は空いている席に適当に座り、会議が始まった。

机は円卓となっていて中央にホログラムが出ている。


「ええっと、本日の不参加者は…【九尾の狐】は参加できないとして、【最上級鍛冶師】は……仕事で工房から出られない。【聖女】は場所が遠くて来られない。【守護天使】は【聖女】が行かないから来ない…」


土御門さんは口を手で覆って「ヤダ、S級会議、参加率低すぎ…」と呟いた。


分かっていたことでしょうが…と内心突っ込んだが、口には出さない。


土御門さんはすぐさま切り替えて、元の凛とした表情に戻る。


「それじゃあ、会議を始めよう。まあ、今回は情報共有みたいなものだけどね、だから、特別に作戦参加者として犬淵君にも参加してもらっているからね」


美誠さんは小さく頭を下げた後、俺の方を向いて先程よりも深く頭を下げていた。


「それじゃあ…今回の事件の全貌について、説明して行こうか…―――」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「まあ、大体こんな感じ、相手方の目的も手段も分かっていないけど、幸いな事に、二人捕虜が居るからね、まだ尋問していてる途中だけど、次期に情報が出てくると思うよ。」


土御門さんが一通り話しきった後、今まで何も言っていなかった【拳聖】こと五十嵐いがらし 早雲そううんが手を上げた。


「俺は、天城が大怪我を負ったっつうから来たんだが、そこら辺、一体何があったんだ?」


…え?土御門さんそんなこと言ったのか?

俺が思わず土御門さんに視線を向けた。


「ああ、その事か、これはまだ不確定だからあまり言いたくなかったんだがな…」


土御門さんは少し悩んだ素振りをしてから言葉を紡いだ。


「異界顕現の状態が変化した。それも大幅に」


五十嵐は一瞬、顔を顰めた後、目を大きく見開いた。


「おい、そりゃ…どういう事だ…」


「そのままの意味だよ、小規模異界顕現の中でも更に小さなサイズで中規模異界顕現と同様に魔物が出現したと言う事さ」


五十嵐は黙りこくって、そのまま考え込んでしまった。


無理も無いだろう、こんな事、今の今まで起こった事が無い。

明らかな異常事態だからだ。


今まではある程度のスペースが合って、技を出すときに民間人と十分な距離が取れた。

しかし、この場合、狭い範囲で十全に技を振るえない状況で尚且つ、辺りを敷き詰めるように現れる魔物を対処しなければならない。


正直、この状況を乗り切るにはS級が二人いてやっとだろう。


そんな事を考えているとまた土御門さんが口を開いた。


「今回は私の判断ミスだ。このような事態を私は想定できていなかった」


そう言って、「次からはこれも考慮して作戦を立てねばな」と苦笑いを浮かべていた。


その後、微妙な空気の中で、会議は筒がなく進むのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



年が明けの夜。

初日の出を見ようといそいそと家を出る支度をする者達を横目に俺は家へと帰って来た。


鍵を開けると、既に電気は消えていて、俺は薄暗い廊下を歩いてリビングを目指した。


リビングの電気を点けると、ソファで寝ている叔母さんが目に入った。


辺りには何本もの酒瓶と缶が乱雑に転がっていて、泥酔してしまった事を物語っていた。


俺は叔母さんを抱き上げて、叔母さんの部屋へと向かう。

叔母さんの部屋には、誕生日の時に毎年撮っている俺の写真が順番に机の上に飾ってあった。


俺は叔母さんをベッドに降ろし、引き取られたばかりの頃の俺の写真を見て、思わず苦笑いを浮かべる。


「…ひっでぇ顔」


感情が抜け落ちた様な表情と、病的に白い髪は、少年の異質さをより強くしていた。


俺は一通り誕生日の写真を見て、感傷に浸ると、静かに自分の部屋のベッドにもぐりこんだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


・一口人物紹介


・【拳聖】…五十嵐 早雲


五十嵐流武術の38代目当主。

祖父も冒険者をやっており、未だに現役。

【剣王】とよく比較されるが、本人曰く、「別に気にしていない」との事。

実際は結構気にしている。


・【獄門犬】…犬淵 美誠


主人公に対して恭しい態度をとる女性。

実は【獄門犬】と言う渾名がある一方【忠犬】と言う渾名もある。

因みに、S級に昇格されそうになったが、自ら断わっている。

何故なら、「彼の役に立つならば、拘束の少ないA級の方が都合が良いから」らしい。


・主人公と【鷹ノ目】のステータスと説明。


鷹田 修斗 22歳 lv17983


力49870

速109870

防47200

功104700

魔84380


スキル

上・無属性魔法…lv4

上・魔力操作…lv7

上・魔力探知…lv9

上・身体強化…lv6

上・魔力装填…lv4


…魔道具などに魔力を補充する際に魔力の節約や、速度を上げることが出来る。


上・魔弾…lv6


…魔力を固めて銃弾を創り出すことが出来る。練度が上がれば更なる兵器を創り出すことも可能。


上・鑑定眼…lv9


…あらゆる物の情報を得ることが出来る。lvが上がれば隠蔽や認識阻害を打ち消すことも可能


千里眼


…遠くのものを見通す眼。距離は使用者の実力に依存する


天城 湊 16歳 lv―――――――


力1209570 

速1003490

防1134570

功994380

魔897810


スキル

無属性魔法…lv19688

身体強化…lv24893

魔力操作…lv8905

高速再生…lv19780


…怪我を即座に再生することが出来る。


魔力探知…lv7890

戦闘継続…lv14963


…lvに依存して体力を増やす。


魔力回復…lv9948


…lvに依存して魔力を回復する。


全異常耐性


…全ての状態異常への耐性。


限界突破


…スキル、ステータス、の限界を突破。成長速度上昇。


超越突破


…一時的なステータスの上昇。使用後、大きな反動がある。



継がれる意志


…現在は使用不可能。使用した場合、成長速度超上昇。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


これで一章が終了いたしました。

それと同時にこちらの作品のストックも底を尽きました。

ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました。


次回以降の更新は来年の春なりますので、首を長くしてお待ちください。

近況ノートの方に理由は書いてありますので、気になった方はご覧ください。


それでは皆さん、またお会いしましょう。

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