第11話

「え――…明日から冬休みです。君たち学生の本分は勉強、それを忘れないよう短い休みを有意義に使うようにし、……――――――」


終業式、そしてクリスマスイブでもある今日。

本来ならば今日の様な人通りの多い日は冒険者は見回りに出たりするのだが、年末年始の為に土御門さんが休みを与えてくれたのだ。


だから今日は珍しく普通に学校に来れている。

冬休みが来ると言う事でソワソワしているクラスメイトを尻目に俺は学校側から出された他よりも多めの宿題に人目をはばからず、頭を抱えてしまう。


元々、俺は頭が良い方ではない。それに加えて、俺は冒険者の仕事の関係上、授業に出席できない日が多くなりがちだから、こうやって課題を出されている。

仕方のない事だが、何だか理不尽さを感じてしまいどうにも気が乗らない。


盛り上がっている教室の中で一人、渡されたプリントと睨めっこをしていると、陽太が声をかけて来た。


「なあなあ湊、冬休みどっか遊びに行こうぜー。」


陽太からの誘いに俺は直ぐに頷くことが出来なかった。


「まぁ…ちょっと用事があるからな…厳しいかもしれない。」


「そっか…それじゃあ、初詣だけでも一緒に行こうぜ。せっかくだし東京のでかい神社にでも…「東京は駄目、絶対に。」…お、おう…まあ人通り多いもんな。」


陽太は少し驚きながらも別の案を色々出してくれている。

本当に良い奴だな…。


俺は案を出してくれている陽太にどうやって初詣が行けないことを伝えるか思案しながら、陽太の話を聞き続けるのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



無事、2学期の学校も終わり、残念ながらクリスマスを共に過ごす恋人がいない俺は、家に帰って来て夕食の準備をしていた。


街中で流れるクリスマスソングと仲睦まじく過ごすカップルを横目に、俺はスーパーへと歩を進め、本日の夕食の食材を買って来たのだ。


半ば逃げるように入ったスーパーだが、スーパーの中にも数え切れないほどのカップルが居て、周りの甘い空気に俺は凄まじい胸やけを感じた。


そんな苦労の甲斐あってか、スーパーで良い刺身パックが安めで購入することが出来た。


早速お米を炊いておいて、その間に他よりも多めに買って来たマグロをたれに漬けておいて、漬けマグロにしておく。


味噌汁も準備しておきながら、冷蔵庫を確認する。

お酒は……3缶か、足りるかな…。


ちょっと不安になって来たので、ちょっといい日本酒を戸棚から取り出して折角なので熱燗にして、準備しておく。


すると、米が炊き終わり、別の皿に移してから、お酢、酒、砂糖をいい塩梅で混ぜ合わせ、うちわで冷ましていく。


次々と食事の準備が終わり、出来た料理をお皿に盛りつけていく。

ちゃんと叔母さんの好きなおつまみは忘れることなく、お酒の近くに置いておいて…これにて準備完了。


そして、丁度いいタイミングで叔母さんも帰ってきたようだ。


「お帰り。」


玄関まで迎えに行って叔母さんのコートと鞄とケーキを預かる。

叔母さんのコートや頭は雪で少し白くなっていた。


「ただいま、外は雪が降ってたわ、折角だから後で見てきたらどうかしら?」


「うん、折角だしそうしようかな、お風呂とご飯どっちも出来てるけど…どうする?」


「それじゃあ…お風呂先頂いてもいいかしら」


「分かった、ゆっくり使ってきて」


叔母さんは自分の部屋から部屋着を取り出し、風呂場へと向かって行った。

その間に俺は料理に使った物を片付けておく。


「お風呂ありがとう。気持ちよかったわ」


30分ほど経つと叔母さんがお風呂から出て来た。


「それは良かった。ご飯並べといたから食べよう」


二人とも食卓に着いて、手を合わせる。


「「いただきます」」


俺は叔母さんのお猪口にお酒を注ぐ。


叔母さんはそれをグイっと飲み干し、俺にお猪口を差し出して来る。

俺は何も言わずにもう一度注ぎ、自分のコップにもジュースを注ぐ。


クリスマスの特番を見ながら、何気ない事を話し、食事は穏やかに進んでいく。

その後、俺が風呂に入った後、ケーキを食べた。

因みに、叔母さんのお酒の量は俺が泥酔しないよう調整していたはずなんだけど…。


「むにゃむにゃ……みなと~…」


……どうしてこうなった?


叔母さんは俺の右腕を抱きしめながら、ソファで酔いつぶれてしまった。


叔母さんからの拘束から抜けようとすると…。


「駄目よ~みなと……お風呂で暴れちゃ…」


何時の頃の夢を見ているのか知らないけど、夢の中の俺、幼すぎでしょ…。


どうにも抜け出す事は出来なさそうなので、手の届く範囲にあった布団を引っ張り、二人で身を寄せて諦めて一緒に寝ることにした。


何だか、こう言う所を見ていると、叔母さんの中で俺はまだまだ小さな子供なんだと言う事を再認識した。


今年の冬も、桜が咲く季節も、何事も無く過ごせたらいいな、何てことを思う。


寒い冬で二人、身を寄せて眠っていると心が温かくなるのを感じた。


段々と瞼が重くなり、

最近、疲れていたからだろうか…俺もそのまま直ぐに寝てしまうのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「あたま…痛い…」


「あれ、私…昨日、そのまま寝ちゃったのね……うーん、起きないと…っ!え!」


「何で湊が此処に………あ”っ」


「またやっちゃったぁ……。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・一口キャラクター紹介


・天城 彩希


お酒に弱い残念美人。

主人公の想定よりも遥かにお酒に弱く、主人公を戦慄させた。

一定ラインまで酔うと身内には甘えてしまい、他人には怒鳴ってしまうと言う体質。

そして、泥酔していた時の記憶は残る為、とても質が悪い。


・天城 湊


ほぼ主夫。

最早、冒険者辞めて主夫に転職したほうが幸せな人生を歩めるのではないかと思われる程である。

家事能力は自分を養ってくれる叔母の為、一生懸命身に着けた。

恋人はいない。


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