第9話

何だかんだで無事、異界の中心まで来ることが出来、配信に関しても皆からのリクエストは、ほぼほぼ消化することが出来て、後はこの異界の王、サイクロプスだけだ。


今目の前にある異界の王の間と呼ばれる場所は門を開けて中に一歩でも踏み入ると戦闘が始まる。


そう…ここの異界の王のサイクロプスに関する解説をすれば良いのだが…。


「あれ、どうしたんですか?中に入んないんですか?」


思わず足が止まっていたようで甲斐さんがそう聞いてくる。


「ああ、その、サイクロプスの解説なのですが…。上手い具合に解説できそうに無くて、戦闘中にあまり解説に手間取っているとここに居る皆さんに危険が及ぶ可能性があったので、少し悩んでいたんです…。」


これは本当だ。

変に解説しながら戦う場合、撮影班の皆さんとお二人を無傷で守るという自信がない。


今回戦うサイクロプスと言うのはそれほど厄介なのだ。


――――――――――――――――――――

・トップチャット


・サイクロプスってそんなにヤバイん

・剣王がきついって…

・解説がきついってだけで倒せないわけではないやろ

・S級冒険者がA級の魔物に負ける訳

・確かに

・それはそう

・うーん…でもせっかくだし解説して欲しいな…。


――――――――――――――――――――


やっぱそうだよな…。


「それじゃあ、ここで解説していただくと言うのはいかかでしょうか?」


俺が必死に悩んでいた所、月宮さんがそう言った。

確かに、それなら…平気か?


――――――――――――――――――――

・トップチャット


・確かに、それなら良いかも

・実戦付きでやってもらえないのは残念だけど背に腹は代えられないよね

・いいんじゃね?

・いいと思うよ

・先程質問したものです。解説していただけるだけでもありがたいので、それでお願いします。 5000円


――――――――――――――――――――


「あ、質問者さんありがとうございます。その…せっかくお金を頂いたのに申し訳ありません。偏に自分の実力不足です…本当に申し訳ないです。」


そう、もし、S級1位のあの人であれば、敵の攻撃片手間に防ぎながら解説できたはずなのに…。

そう思うとやはり俺では力不足な気がしてならない。


「そ、そんな事、言わないでください。」


「そうですよ、剣王さんは凄く強いですよ。」


二人がそう言って励ましてくれる。

本当にありがたいな…。


「お二人ともありがとうございます。それでは、解説の方へ移ろうと思います。」


俺たちは扉の前に座りこむ。


「まず、サイクロプスはとても強力な雷属性の魔法を使ってきます。それらの範囲はとても広い為、回避するのはとても難しいです。なので、出来る限り強力な守護魔法を使って対応する他に手はありません。」


一通り攻撃への対処法を言った後、次はサイクロプスへの攻撃方法を伝える。


「次は攻撃方法なのですが…正直に言ってしまうと、これと言った対策方法はありません。一つしかない眼球を攻撃した所で攻撃先が分からなくなってしまう為、お勧めは出来ません。ですので、強力な攻撃をサイクロプスが倒れるまで続ける他手段はありません。ただ、一つ言える事とすれば奴も人型と言う事しか…。」


本当にこれしか言うことが出来ない。

俺は属性魔法が使える訳でもないから、奴にどの属性が通りやすいかなんて知らないし…。


――――――――――――――――――――

・トップチャット


・強すんぎ

・何でこんなのがB級異界に居るんだよ…

・悲報、物理攻撃最強ですらまともな攻略法が無い。

・これで図体がデカいんやろ?

・無理ゲーじゃね?

・丁寧な回答ありがとうございます。こちら、お納めください。 10000円

・うわぁお…


――――――――――――――――――――


「いえ、本当に…まともな解説が出来ずに本当に申し訳ないです…。それじゃあ、戦闘に移ろうと思います。」


俺は短剣を仕舞い先程出した剣をもう一度取り出す。


「出番だぞ、布都御魂剣。」


そう呟くと剣に凄まじい勢いで魔力が吸われていく。

剣は輝きを増し、神々しい蒼い輝きを放つ。


《無属性魔法・スラッシュ》

《全身強化+腕力一点特化》


……準備は整った。

勝負は一瞬。

奴が雷を放つ前に潰す。


目の前にある扉を勢いよく開く。


一歩踏み込んだ瞬間、接敵、視線が重なり、奴が大きく息を吸う。


鞘から剣を引き抜き、居合の要領で一気に切り上げる。


「ガ「斬っ!!」ぁ…?」


雷を放とうとしていたサイクロプス巨体は脳天から真っ二つにたたき斬る。


こっちに血が降ってこない様に、軽く腕を振って巨体が向こうに倒れるようにする。


俺は体に纏った魔力を霧散させ、剣を鞘に戻し、皆の方を向く。


「一応ですが、自分の場合はこんな感じですね。」


顔を見ると全員口を半開きでポカンとした顔をしていた。


「ど、どうかしましたか?もう安全なので、入っても大丈夫ですよ?」


そう声をかけると全員ようやく意識を取り戻したようで、恐る恐る中に足を踏み入れていた。


ふと気になって、コメント欄を見てみると凄まじい勢いでコメント欄が動いていた。


―――――――――――――――――――

・トップチャット


・うわぁぁぁぁーーーー??!!

・すげえぇーーーーーー!

・半端ねぇ!

・ナニコレ!?

・舐めた口きいてすみませんでした 8000円

・素晴らしい物を見せていただきました 50000円

・これがS級か…あ、閲覧料金ここに置いておきますね 10000円

・これで見逃してください 20000円


――――――――――――――――――――


「あの…あの、そんな事しませんから…大丈夫ですよ?」


――――――――――――――――――――

・トップチャット


・いや、毎日戦ってもらってるので……はした金ですけど 10000円

・流石にこれを無料はちょっと… 30000円

・凄くカッコよかったです! 50000円

・本当に凄すぎます!

・マジで尊敬してます! 10000円

・陰ながら応援してます! 20000円

・次回の登場も楽しみにしてます! 6000円


――――――――――――――――――――


「あの!本当に、ちょっと待って、駄目ですって…。だ、誰か止めるの手伝ってくれませんか?」


皆の方を向くが皆、微笑ましい物を見るような目でこっちを見てくる。


「お二人からも、何かお願いしますよ。」


二人の方を向けば、二人とも菩薩の様な笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「いや、何でですか!?」


慌てふためく俺を見ながら更に笑みを深める周りの皆と止まらないコメント。


止まることなく加速していくこの状況に思わず俺はその場で頭を抱えてしまうのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



966名無しの冒険者

解説凄かった…


967名無しの冒険者

>>966

レッドミノタウロスの解説とか、めっちゃ丁寧だった


968名無しのB級戦士

>>967

「動きは直線的なので、回避に重点を置きましょう。奴は3度の突進をした後、ほぼ確実の言って良い程その速度を落とすので……このように狩りましょう。」

実際にやってくれるとマジで分かり易い…ホンマに助かる…。


969名無しの冒険者

お、王の間に着いたっぽくないか?


970名無しの冒険者

てか、ここの異界の王のサイクロプスってそんなに強いんやな


971名無しのB級魔法使い

>>970

せやで、滅茶苦茶メタ張って勝負を挑んでもB級でも勝率五分五分やと思う。


972名無しのB級戦士

>>971

五分五分と言ってもパーティーを組んで、そのパーティーがちゃんとした連携が取れるようになって初めて五分五分になるんや。

あいつはA級って言われても驚かない。


973名無しの冒険者

>>972

まさかのランク詐欺やん


974名無しのB級戦士

>>973

冒険者業界でなら良くある事やで

Ⅾ級の依頼がⅭ級レベルだった、何てざらにあるで。


975名無しの冒険者

>>974

冒険者業界こっわ


976名無しのB級魔法使い

>>975

だから、情報収集は大事なんやで、だから皆今回の剣王の配信でお金を払ってでも攻略法を聞きたがってたんや。


977名無しの冒険者

>>976

はえー冒険者って夢がある職業やと思ってたけど、意外とキツイ世界なんやな…。


978名無しのB級魔法使い

>>977

キツイのはワイらみたいな専業の奴らくらいやで、副業とか、肉体作りとか、そう言うライトな層だったら全くないとは言い切れんけど、ここまで危険ではないと思うで。


979名無しの冒険者

お、剣王がなんかやっとる


980名無しの冒険者

剣を取りだしたな


981名無しの冒険者

……ん?なんかサイクロプス真っ二つになってるんやけど…。


982名無しのB級魔法使い

おい戦士、今の見えたか?


983名無しのB級戦士

>>982

腕が剣に伸びたところまではギリ、何時抜刀して振り上げたのかは全く見えなかったし、何時魔法が発動したかも全く分からん


984名無しの冒険者

ヤバ…


985名無しの冒険者

嘘だろ…


986名無しの冒険者

これが…S級なの…?


987名無しの冒険者

何か…本当に人間なのか怪しくなってきた…


988名無しの冒険者

>>987

分類上人間です


989名無しの冒険者

《朗報》 剣王、コメント欄のスパチャビンタに屈する


990名無しの冒険者

>>989

何や、可愛いとこあるやん(既に送金済み)


991名無しの冒険者

>>989

無慈悲な殺戮マシンじゃなかったな(2万貢ぎ済み)


992名無しの冒険者

>>990 >>991

お前ら何貢いでんだ情けないぞ(諭吉5人分)


993名無しの冒険者

>>992

そう言うお前も送ってて草(諭吉2名逃亡)


994名無しの冒険者

>>990 >>991 >>992 >>993

お前ら揃いも揃って送り過ぎやって…剣王困っとるやん。


995名無しの冒険者

>>994

だって、ねぇ…。ようやく年相応の行動をしてくれたなって…


996名無しの冒険者

>>995

あの子未成年ですし…


997名無しの冒険者

>>996

ちょっとくらい甘やかしても…


998名無しの冒険者

>>996

え!?剣王未成年だったん!?


999名無しの冒険者

>>998

ええ……まだ知らない奴おったんか…。


1000名無しの冒険者

ワイが1000だったらまた剣王が動画に出る



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・用語紹介


・サイクロプス


全体に高威力な雷魔法を放ちつつ、巨体に見合わぬ速度で攻撃を放つ。

生半可な防御力では貫通され、B級冒険者であろうと一撃で倒されることもある。

防御力も高く、目立ったスキルは無いとは言え、純粋な力量は十分にA級上位の魔物足りうるものを持っている。



・剣王の装備


・『布都御霊剣』

主人公が最初の頃から愛用している剣。

しかし、実はこの剣、元々は十握剣と言う名前だった。

この剣の能力は二つあり、一つは所有者の魔力を取り込むことで切れ味を極限まで高めるという能力。

もう一つは……また作中で登場するまでお待ちください…。


・『黒鉄剣』

S級に成ってから作ったもう一振りの剣。

ダンジョンで採れる特殊金属をふんだんに使った業物。

これの凄い所は、布都御霊剣と違って頑張れば量産できる点にある。

この剣、実は硬度に全振りしているので切れ味は主人公の魔力によるバフで補っている。

【最上級鍛冶師】に作ってもらいました。


・『認識阻害の仮面』

装備者に対する認識を限りなく薄くする。

分かり易く例を挙げると、近くで見てるのに装備者の全体像がぼやけたり、装備者の声にボイチェンが入っているように聞こえたり、そもそも装備者自体が記憶に残りにくくなる。


・『白のロングコート』

何か凄い繊維で編んであるロングコート、主人公はその価値を具体的には理解していないが、凄いらしい。

【最上級錬金術師】に作ってもらいました。


・甲斐亮太と月宮優奈(LUNA)のステータスと不明なスキルの説明


甲斐亮太 17歳 lv191


力1940

速1980

防1600

功1750

魔1430


スキル

中・無属性魔法…lv3

中・魔力操作…lv4


…魔力の操作が上達し、魔法発動までの時間が短縮される。


中・炎魔法…lv5

魔力探知…lv5


…敵の居場所を探るスキルで、二つの方法がある。

一つが魔力をエコロケーションの様に放って具体的な位置を探る魔力探知、もう一つが、相手が発する魔力を探知する魔力探知。


中・身体強化…lv8



月宮優奈 17歳 lv198


力1580

速2120

防1340

功1960

魔2250


スキル

中・無属性魔法…lv6

中・魔力操作…lv8

中・炎魔法…lv3

中・水魔法…lv5

中・雷魔法…lv7

中・魔力探知…lv5

中・身体強化…lv2


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る