第7話
「人、人、人、人、人……ングッ…っはぁ…。」
今、俺は、めっっっっちゃ緊張している。
もう…心臓がバクバクしてる。
何か、もう、羽ばたきそう心臓が。
緊張のせいで指先は冷え切り、温めようと吐いた息は白く染まっていた。
さっきから緊張をほぐそうと色々と模索している物の、全く効果が無い。
それどころかガンガン緊張が増して行っている様な気がする。
気を紛らわせようと周りを見回してみると撮影班が5人、そして、凄まじいオーラを放つ芸能人が2人が少し離れた所で談笑している。
いや……いやいやいや!
こんなにガチなもんなの?
え、誰も居ないんじゃないの?
何で他の演者さん達の事を教えてくれないの?
そして、お昼前で、しかも異界の前で撮影の準備をしてるから、道行く冒険者たちがめっちゃこっち見てくる。
「なぁなぁ、あれって剣王じゃね?」
「うわ…本物じゃん。写真とっとこ。」
「ねぇ、あれって…」
「え!甲斐君とLUNA様じゃない?!テレビで見るのとじゃ全然違うわね…。」
うぅ…なまじっか耳が良いから周りの人の呟きが聞こえてくる…。
俺が緊張と周りからの視線で一杯一杯になっていると、スタッフさんがこっちに来た。
「剣王さん、撮影の準備が出来たので打ち合わせ通りよろしくお願いします。」
「ハッ、ハイ…分かりました。」
俺、あのとんでもない空間に足を踏み入れなきゃいけないのかよ…。
俺は共演して頂く2人にタイミングを見失っていた挨拶に向かう。
「あ、あのー…本日はよろしくお願いします。」
恐る恐る声をかけてみると、二人は目に見えて驚いていた。
な、何か拙いことをしてしまったかな…。
「……――あ!すみません、ちょっと驚いてしまって…。」
二人は形の良い眉を曲げて、申し訳なさそうに謝って来る。
…そんな反応をされると、こっちの方が居た堪れなくなってくる。
「ええと、一応、自己紹介をさせていただきますね…。自分はS級3位で、冒険者協会からは剣王と言う渾名で呼ばれてる者です…。その、改めてよろしくお願いします。」
そう言ってもう一度深々と頭を下げる。
「あ”……ちょっ、あの、そんな、頭を下げないでください!」
LUNAさんにそう言われて顔を上げると、甲斐さんは口を開けて放心していて、何故かLUNAさんは息を切らしていた。
「はぁー…ええと、私は”月宮 優奈”、LUNAと言う芸名でモデルをやってます。で、こっちが…。」
「あ”、あ”っ、その、お、俺…”甲斐 亮太”って言います!その、会えて本当に光栄です!」
そう言ってキラキラした眩しい視線を向けて来る甲斐さんを俺は直視できなかった。
……って言うか、LUNAさんに関してはそんな簡単に本名とか伝えるもんなのか?
俺も伝えた方が良いのかな?
そんな俺の視線に気づいたのか、LUNAさんは
「本名に関しては気にしないで下さい。ただ、私が伝えたかっただけなので。あ、でもネットに流したりはしないでくださいね。」
そう言ってウィンクするLUNAさんはとても絵になっていた。
「そうですか…その一応聞きたいんですけど、LU「カメラ外は優奈で良いですよ」……月宮さん達のランクは幾つ何ですか?」
少し残念そうにしながら月宮さんは答える。
「私たちのランクはどっちもC級ですよ。」
美しく笑う月宮さんの横で甲斐さんは何も言わずに激しく頷いている。
……成程、B級異界にC級の2人と撮影班5人を連れて行くって…意外と危ないのでは?
……兎に角、出てくる魔物を片っ端から潰せば大丈夫か…。
この2人には傷一つ付けてはならない。
心の中で決意を固めていると、もうすぐカメラが回るそうだ。
俺は、二人から離れて、カメラから映らない場所で待機する。
カメラマンさんがカウントを始める。
「5…4…3…」『…2…1…。』
「皆さんこんにちは、冒険者協会公式チャンネルへようこそ。」
――――――――――――――――――――
・トップチャット
・こんにちはー!
・こんにちはー!
・今日も元気そうで何より
・こんにちは
・こんにちはー!
・てか、配信タイトルにある豪華ゲストって誰だ?
――――――――――――――――――――
「皆、そろそろ冬休みって事でテンション上がってるんじゃない?俺も今日はスッゲーテンション上がってるよ!」
二人は生放送に慣れているようで、さも当然の様にカメラの向こうの人々と話をしている。
彼らの手首に着けた腕輪から透明な液晶が出てきていて、そこからコメントがリアルタイムで見ることが出来るらしい。
俺もその腕輪を貰っていて、コメントを見ることが出来る。
しかし、本当にすごいな…話しながらコメントを確認するなんて。
どっちかだけに集中してしまいそうになるだろうに、二人はどちらも丁度いい塩梅で話し続ける。
そんな事を考えているとスタッフさんがこっちに合図を出してきた。
集中してて気付かなかったが、どうやら出番らしい。
大きく深呼吸をして精神を整える。
……良し、行くか。
「それでは!ゲストの方、こっちに来てくださーい」
ゆっくりとこっちにカメラが向いてくる。
俺も少し早足で二人の方へと歩いていく。
――――――――――――――――――
・トップチャット
・wkwk
・wkwk
・wkwk
・誰?
・ぼやけてる
・ナニコレ?
・えっ!!
・ま!!??
・嘘だろ
――――――――――――――――――――
「皆さん初めまして、S級冒険者、剣王と呼ばれてる者です。今日はよろしくお願いします。」
俺はカメラに向けて頭を下げ、ちらっと液晶を確認する。
しかし、とんでもない速さでコメントが流れてくるせいで、確認する気が失せてしまった。
てか、下手なD級の魔物よりも早いの凄いな…。
うーん…ぱっと見だけど否定的なコメントは一つも無い…かな?
「そ、それでは異界の方へ行きましょうか。」
二人が先に言ったことを確認した後、俺は後ろに気を配りながら異界の扉をくぐるのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この新宿のB級異界はとてもシンプルな異界だ。
魔物には変な特性や魔法を所持している訳ではなく、ただシンプルにステータスが異常に高い。
魔物達はステータスのみで考えればA級レベルだろう。
まぁ、今回はそれがありがたいのだが…。
――――――――――――――――――――
・トップチャット
・今思ったけど、ここB級異界じゃね?
・大丈夫なの?
・ここって強い魔物多くなかったっけ?
・ここの魔物マジで硬いから心配だな…
・S級がおるんやぞ大丈夫やろ
・けど…カメラマンとか諸々守れるんかな?
―――――――――――――――――――
視聴者の皆様に不安を与えているようだ。
どっかで実力を見せる機会があれば良いのだけれど…。
そう思っていると、俺の感知に魔物が引っ掛かった。
素早くアイテムボックスから一振りの剣を取りだす。
飾り気のない無骨な剣だが、その刀身は仄かに神々しく輝いていた。
静かに目を閉じて、五感を研ぎ澄ませ、己の感覚と、スキルとの差異を少しずつ擦り合わせる。
…数は7、距離120m、魔力的に恐らく”オーガ”だろう。
オーガの肉質は硬いから、距離が空きすぎているから魔法を発動する。
『無属性魔法・スラッシュ』
刀身に魔力が纏い、刀身の色が明るく輝く。
静かに息を吐き、右腕に力を籠める。
「……フッ!」
短い呼気と共に放たれた21の剣閃の速度は音を超え、高速でオーガへと迫り、奴らに知覚されること無く、その体を細切れにした。
この間、およそ0.005秒。
「あれ、剣王さん、何かありましたか?」
甲斐さんからそう聞かれるが俺は何食わぬ顔答える。
「ちょっと、露払いを…。」
俺は二人の頭の上にはてなマークを幻視した。
ま、後で気付くだろう。
案の定、二人はバラバラになったオーガを見て、とても驚いていた。
ちょっと…やり過ぎたな…。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《神回》 S級冒険者【剣王】アイパイプ出演
1. まさかの動画にS級二人目登場
2. 今、リアタイしとるわガチで神回
3. 何て言うかオーラが違う
5.>>3
マジそれな、立ち振る舞いから違うわ。
6. 俺、剣王が頭下げた時、思わず土下座しそうになった。
12.>>6
それはヤバイww
だけど確かに纏ってる物がなんか違うわ
17.
てかさっきからコメ欄で心配してるやつら多いけど楽勝やろ。
S級だぞ舐めんな。
20.>>17
まぁまぁ、今回の生放送でそいつらも腰抜かすやろ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
127.
突然のグロ映像、何あれ?
128>>127
さっき剣王が露払いしたって言ってたけど、それじゃね?
135>>128
???
話してた所から結構離れてたんですけどそれは?
138>>135
S級だから
140>>138
それだ
147>>138
ベストアンサー
152>>138
マジでバケモン過ぎんか…?
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・一口キャラクター紹介
・LUNA(月宮 優奈)
若い人に人気の冒険者モデル。
今年で17歳となる現役の高校生である。
やっぱり冒険者と言う事もあってS級の主人公に対し、滅茶苦茶ビビっていた。
本来なら、もっと自信の満ち溢れた感じが売りの人なのだが、主人公の前ではかなり落ち着いた人となっていた。
・甲斐 亮太
広い世代に人気な冒険者俳優。
LUNAと同じで今年で17歳となる現役高校生である。
こちらも彼女と同じように主人公にビビっている…と言うよりかはリスペクトしすぎてて、ちょっと口調が可笑しくなっている。
・【剣王】
若い世代に熱狂的な人気を持っている冒険者…なのにも関わらず本人は自分の需要を全く理解していない。
一応、S級冒険者と言う自覚はあるのである程度は、有名なんだろうな…とは思っている物の彼奴の人気はそんなもんじゃないので、ほぼ意味がない。
因みに、同時接続者は今も急速に増えており、3桁万人を超えそうらしい…。
・用語紹介
・魔法
沢山の種類があって、努力次第ではどの属性も扱うことが出来る。
属性によって難易度に天と地との差があり、一番簡単なのが無属性魔法である。
魔法の行使にはスキルを持っている場合、使いたい魔法をイメージして、口に出せば使うことが出来るが、スキルを持っていないと、いろんな手順を行う必要があり、難易度が一気に跳ね上がる。
そして、魔法ごとに難易度が決まっており、下から順に、初級→中級→上級→最上級となっている。
因みに、スキルのlvによって省略できる魔法の階位が決まっており、lv1だと初級すら省略するのに手こずる。
・無属性魔法
初級の無属性魔法は小学校で習うくらい簡単で、いろんな人に愛用されている。
この魔法はシンプルに魔力を発散し、それらを操って形を作るだけと言う簡単な物が多い。
因みに、主人公が使った【スラッシュ】は中級魔法となっている。
・【スラッシュ】
剣に魔力を纏わせて斬撃を放つ魔法。
籠めた魔力の量によって斬撃の威力や、範囲、放てる回数が変わる。
かなりオーソドックスな魔法で、剣士の多くはこの魔法を使っていると思われる。
・魔物の死体
その場に残る為、ちゃんと解体して魔石を取り出す必要がある。
死体の状態が良いと素材を綺麗にはぎ取れるため、一気に儲かるが、専門的な知識が必要なので、解体する場合は注意が必要。
因みに、解体が出来なくても冒険者協会には解体師と言う職業が有り、ライセンスを持った専門家たちが素材の金額の5%を支払う事で解体してくれる。
余談だが、主人公は3年ほど前に上から二番目のA級解体師のライセンスを取得している。
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タイトルが一話ずれてしまっていたので、編集させていただきました。
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