第5話
政府に対し心の中で恨み言を言いながら、教室へ向かうと何やら教室が騒がしい。
何事かと思って教室を見ると、クラスの真ん中の方で大きな人だかりが出来ているため、その外側に居る陽太に何があったのか話を聞きに行く。
「陽太…この騒ぎは一体…何かあったのか?」
陽太は面倒そうに頭を掻きながら騒ぎの中心を見つめている。
「いやー…何かさ、”高橋”っているじゃん?」
高橋…ってこのクラスの男子で、確か前までテニス部に所属してて、秋ぐらいに帰宅部になったはず…。
「ああ……それで、高橋がどうしたんだ。」
「それがさ…高橋、今朝の異界に遭遇したらしくてさ、それで剣王を見かけたらしくて、声をかけられたって言ってて…。」
――――んん!?
「へっ、へー…そそそ、そうなんだ~凄いな~。」
陽太から伝えられた衝撃の一言に俺は動揺を隠す事で精一杯だった。
「どうした湊?そんなに動揺して?もしかして、湊も剣王のファンだったのか?」
「え?あ――…そう、そうだよ、いやー羨ましいね。」
陽太の勘違いもあって何とかこの場を切り抜けることが出来た。
それにしても、【剣王】…だけじゃないけど、S級の冒険者に会ったからって、そんなに盛り上がる事か?
芸能人とかの方が盛り上がりそうだけれど…。
……取り敢えず何も触れないでおこう…。
変に何か言っても、墓穴を掘りそうだし…。
俺は席に戻って次の授業の準備をする。
しかし、俺の席は若干中心に近い為、聞き耳を立てなくても高橋たちの会話が耳に入って来る。
「いやー…マジでヤバいって、あの剣王から認められるなんて高橋マジ凄いじゃん!」
はぁ…?俺、誰にもそんな事、言った覚えないんだが?
しかも、高橋の奴、何処にいたんだよ。
現場に高橋らしき人物何て…。
―――ん?もしかして、あの…。
「リザードマンから逃げ遅れてた奴か?」
そう言えば、途中ですっ転んで斬られかけてた人居たけど…あれか。
「……あっ、そう言えば天城も今日、異界に巻き込まれてたよな。生の剣王見れた?」
ヤベっ…小さく呟いたつもりだったけど、聞こえてたか…。
うわぁ、高橋の奴めっちゃこっち睨んできてるって…。
ここは適当にやり過ごすか。
「いやー……俺は、ホームの外に居たからさ、見えなかったかな…ハハハ…。」
「そっか、でも羨ましいぜ、S級冒険者に助けられるなんてさ、俺も見たかったなー…。」
そう言うと、クラスメイトはまた高橋の方へと戻っていく。
結局、高橋の自慢話は授業が始まるまで続くのだった。
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お昼になり、生徒たちは各々、自分の昼食を持って友人達の下へと向かっていく。
かく言う俺も、陽太と一緒に飯を食おうと思い、お弁当を取り出していると、ポケットに仕舞っていたスマホが2,3度震えた。
気になって、スマホの画面を見ると、冒険者協会からメールが届いていた。
『先程、城全山運動公園にて異界侵攻が発生、近くに居るC級以上の冒険者は至急、現場に急行せよ』
との事、城全山はここから4駅ほど先の小さな山だ。
今回は指名でもないし、ここから城全山は遠いし、俺は行かなくても大丈夫そうだ。
……まあ、念のためスマホのマナーモードをオフにして陽太の方へと向かった。
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連絡が来てから1時間程経ち、陽太と食事を終えてスマホの画面を見ると通知が来ており、無事、異界を閉じることが出来たようだ。
……今朝の異界と言い、最近の異界発生率が明らかに高い…。
気のせいならば別に良いんだけど…。
窓の外を見ると、何処かのクラスが外でソフトボールの授業を受けていた。
彼らを眺めながら、思考の片隅で先日のメディア展開について思い出していた。
つらつらと並べられたメディア展開の利点の中に小さく書かれた言葉がやけに記憶に残っている。
『異界顕現発生時における民間人の魔物に対する知識の増加』
……もし、あの時の様な、大規模な異界顕現が起こった場合…。
俺が動画に出ることでもし、冒険者じゃない、一般の人たちの被害が減るのであれば…俺は…。
脳裏に浮かぶのはあの日の光景。
美しい桜が、青々と広がる空が、鮮明な赤に染まって行く。
思わず吐き気を催すほどの光景が脳裏を駆け巡っていく。
それで、俺が、最後に、見たのは…
「……うぇ…。」
……これ以上は、駄目だ。
口の中が酸っぱくなり、胃の中身がこみ上げそうになる。
急いで思考を切り替え、思い出しそうになったトラウマに蓋をする。
心を落ち着かせるように大きく深呼吸をする。
吐き気が落ち着いたところで、再度思考を元に戻す。
―――やっぱ、あの話は受けることにしよう。
俺が動画に出るだけで、あの日の様な惨劇が、少しでもマシになるのなら…安いもんだ。
でも…叔母さん、納得してくれるかな……。
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一口キャラクター紹介
・高橋
クラスのお調子者で割と自己中心的な性格をしている。
主人公から見たらクラスの中心で何時も大きな声で話している元気な人、と言うイメージである。
実は澪の事が好きで何度かアプローチしているが全く効果がない。
・用語紹介
・あの日
今から5年前の春の事、主人公の心に消すことの出来ない傷を付けた日。
この日、日本で三つ同時に大規模異界顕現が発生し、日本に甚大な被害をもたらした。
・S級冒険者の人気
ネットに疎い人でも知ってるくらいには人気。
各S級冒険者にファンクラブが作られているくらいには人気。
しかし、公式でファンクラブがあるのは3人くらいで、他は全て非公式である。
それでも多くの人が利用しているのだから、公式は速く公式ファンクラブを設立するべきである。
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