第2話 結婚相手 ――昭彦


 カオリからLINEが来て、俺は妻の友梨絵に「ちょっと出かけてくる」とだけ言って、マンションの駐車場から車を出した。


 最近、友梨絵はキャンプで駄目になった包丁のことをぐちぐちと言うから、うちの空気が重くてうざい。俺は溜め息をひとつついて意識を切り替え、カオリのことを考えた。


 それにしても、祐樹のヨメがカオリだったとは驚きだ。祐樹に結婚相手を紹介されたとき、びっくりして挙動不審だったかもしれない。でも、カオリが元カノだった、てことは、たぶんバレていない。

 カオリとは体の相性もよかったし趣味も合ったから、結構楽しくつきあっていた。ただ、カオリは結婚相手ではないと思っていた。カオリは浮気性だし浪費癖があるし、料理も下手だ。片付けも苦手だった。

 だけど、遊ぶにはいいんだよな、カオリは。


 友梨絵とは、上司の紹介の形で知り合った。

 俺は本物のお嬢様というやつを初めて見た。友梨絵は美人で上品で賢くて、しかも料理も掃除も完璧な女だった。こんな女が存在するとは驚きだった。友梨絵の実家は裕福で、父親は大手企業の役員をしていた。「普通の家だよ」と言ったが、あれが「普通」だと思って育って来た女はこうなるのか、と妙に納得をしたのを覚えている。カオリと全然違った。

 友梨絵と出会ったとき、カオリとまだつきあっていたけれど、すぐに別れを切り出した。しょっちゅうケンカをして、「別れる」「別れない」などと言い合ってきた仲だったから、カオリはほんとうに別れるとは思っていなかったと思う。俺は、引っ越しをしてスマホは解約し加入し直し、カオリとは完全に切れるようにした。そうして、友梨絵を手に入れたのだ。


「わたし、おつきあい初めてで……ずっと女子校だったから……」と恥ずかしそうにする友梨絵を心底愛おしいと思った。両親の受けもよかったし、自分の選択に満足していた。

 だけどなあ。

 大きく溜め息をついた。友梨絵が「大切な包丁だったのに」と言って、めそめそ泣いている姿が脳裏によぎった。買ってやるって言っているのに、なんだ、あの態度は。ほんとうに鬱陶しい。


 でもまあ、あいつは上司の紹介で知り合ったし、父親がすごいからな。なんとか機嫌直してもらって、うまくやっていこう。子どもでも作ってやれば、気が変わるだろ。今日はカオリとセックスするけど、でもそのあとで、友梨絵ともしよう。カオリとは違って、友梨絵とのセックスは決められた手順で優しくする。


 いつもの間に合わせ場所に着いていた。カオリはまだ来ていないみたいだ。






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