結末
西しまこ
第1話 爪 ――香織
あの女、本当にムカツクんだよね。
そもそも、アキヒコはあたしの男だったのに。ダンナが「トモダチなんだ」と元カレのアキヒコを紹介したときは、びっくりしたよ。
そこから、またアキヒコと連絡を取り合うようになった。もちろん、ダンナにもアキヒコの妻のあの女にもつきあっていたことは内緒だ。アキヒコもあたしも、初対面のようにふるまった。
あーあ、あたし、アキヒコと結婚しとけばよかったな。
きれいにネイルした爪をうっとりと眺めながら思う。
あんなに好きだったのになんで別れちゃったんだろう?
アキヒコはダンナより、断然稼ぎがいい。結婚するならアキヒコだった。失敗した。ダンナなんて、口先ばっかりでちっとも給料よくならない。あーあ、つまんない。
しかも、アキヒコの妻のあの女!
なんだよ、あいつ。お嬢様ぶって。まあ、実際社長のムスメらしいけどさ。
スマホを手に取り、アキヒコにLINEを送る。
――ねえ、何してる?――ゲームしてる――オクサン何してる?――わかんね――ねえ、ちょっと出てこれない?――いいよ――じゃ、あそこで――りょーかい
「ねえ、あたし、ちょっと買い物行ってくる」
「おう」
ダンナはスマホから目を離さず応える。こいつも浮気してるな、と確信する。まあいいけど。
あたしは待ち合わせ場所でアキヒコの車に乗り込む。この間のキャンプでは後部座席に座ったけど、今日は助手席だ。
「きれいなネイルだね」
「うん、でしょ?」
あたしは嬉しくなって、爪をアキヒコの方に向ける。
「うちのオクサンはネイルしないからなあ。やっぱりきれいな爪はいいね」
「ふふ」
「そういえばさあ、こないだのキャンプで燃えちゃった包丁のこと、まだぐずぐず言ってんだよ」
「えー」
「もう空気悪くてさ」
「かわいそう」
あたしはアキヒコの肩をそっと触る。
料理自慢しているあの女がウザくて、あたしはあの女が自慢げに持ってきた包丁をわざとたき火に入れた。あの女が悲しむ顔が見たかったのだ。
「今日はうんと慰めてあげる」
甘い声を出しながら、想像以上にうまくいったと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます