「えへへ、全部脱いじゃいました」

脱いだ下着を、折りたたんだセーラー服の下に隠すように入れると、彼女はこちらを振り向いてそう言った。

窓から差し込む黄金色の西日が彼女の裸体を斜め横から照らし出す。

慎ましやかな膨らみは陰影によって強調され先端が影を作り、薄めのアンダーヘアはつややかに輝いている。


そして意外にも、全てをさらけ出した彼女の表情は穏やかで、声も落ち着きを取り戻している。

すぅー、はぁー。

彼女は大きく深呼吸をした。裸のお腹が空気で膨らむのが、なんだか妙に艶めかしい。


「私、先輩のことが……先輩のことが、ずっと、好きでした!これからもずっと好きです!」

彼女は絞り出すように言った。

「うう、言えたぁ!裸になるより恥ずかしいことは無いと思ってたけど、やっぱり恥ずかしい……でも言えて良かった!」

涙を流しながら歓喜の声を上げる。

「先輩、大学行ったら引越しちゃうから滅多に会えなくなりますけど、たまにでいいですからまた遊んでくださいね?」


彼女は想いを告白したが、一方で「付き合って下さい」とは言わない。

地元を離れて新生活を始める僕と交際を続けることは現実的ではないと理解していてのことだろう。

なんて健気なのだろう。それを伝えるために勇気を振り絞って、恥ずかしさを誤魔化すために生まれたままの姿すらも晒したのだ。


彼女は言うだけ言うと、一旦僕に背を向けてカバンの中から何かを取り出した。

「今年のは義理じゃないです!どうか受け取って下さい!」

「今年の"も"でしょ?」

「……先輩?」

「僕も、ずっと好きだった。ごめん、とっくに気づいてたよね。本当は僕のほうから言わなければ駄目だったね」

そんな彼女の想いに答えずして何が先輩だ。

「うう、せんぱぁい……」

僕は彼女の眼鏡を外し、ぐしゃぐしゃになった顔をハンカチで拭いてやる。

それにしても、全裸の後輩女子を泣かせているという状況は客観的に見るとかなりまずい。

この資料室は図書室からしか出入りできないので、いきなり誰かが入ってくることはないだろうけれど。

「ほら、もう帰らないと。早く服着なさい」

裸で泣きじゃくる彼女を諭す。そもそも、僕が不甲斐ないからこそ、彼女にこんな惨めな姿をさせてしまったのだ。

見ていられなくなったので、僕は資料室を後にした。


*


「うう、すみません。私のわがままで、とんだお目汚しを……」

しばらくすると、彼女も資料室から出てきた。もちろん制服はちゃんと着ている。

そして、最後の点検をして図書室を出て鍵をかける。

いつも通りの委員会活動の終わり。彼女と二人で行う最後の委員会活動の終わり。


「気にしなくていいよ。それに、僕も……きれいなものを見せてもらって嬉しかった」

不思議なことに、僕は彼女の裸を見ても性的に興奮しなかった。

あまりにも異常な状況なので脳の理解が追いつかなかっただけかも知れないが、夕日に照らされる裸体はまるで芸術作品のように美しかった。

「本当ですか?」

「うん。機会があったら、その、また見せてもらいたいかなって」

ここは正直に答えるべきだろう。

「つまり、それってどういう……」

「僕と、付き合って下さい。大学に行ったらあんまりデートとかできなくなるかもだけど」

「ほんとですか?!私なんかでいいんですか?!」

彼女の目から再び大粒の涙がこぼれ出す。

「僕の方こそまだまだ未熟者だけど、これからもよろしくね」

「う、ううぅ、せんぱぁい……!」

声にならない声を上げる彼女に今の僕がしてあげられるのは、そっと抱きしめることくらいであった。


*


「それにしても先輩と付き合える日が来るなんて……うふふ、えへへ」

駅までの帰り道を歩く僕たち二人。

ひとしきり泣いた彼女はすっかり我に返り、僕と付き合っているという事実を噛み締めている。

「でも本格的に付き合っちゃったら、逆に今日みたいに脱ぐのは無理そうです。めちゃくちゃ意識しちゃいますし」

「えー、それは残念だなぁ」

女心は難しい。いや彼女が特殊過ぎるだけかも知れないが。


「だから先輩、いつになるかわかりませんけど、その時が来たら……」

「その時が来たら?」

「今度は先輩の手で脱がせてくださいね♪」

そう言って小悪魔のような笑顔を浮かべる彼女の手を、決して離すまいと心に誓った。


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物語は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。

次は作者による解説です。

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