第六十四話・第九話「朝陽の決意」
「篁様っ……私」
涙を溢れさせる、涙を人差し指ですくい取り朝陽の頬を両手で包み込んだ。
「オレが津島の口づけなんか、忘れさせてやる。だから泣くな」
篁は朱色の瞳で、朝陽の紫の瞳をじっと見つめた。
朝陽の額に自分の額をくっつけ、そのまま唇を奪う。
篁は朝陽をその胸に抱いて布団に横になっていた。
しばらくして、朝陽が落ち着いたことを感じた篁は朝陽に笑いかけた。
「もう、大丈夫か? 晴明と美夕が心配してたぞ。ちゃんと飯を食って安心させてやれ。それと、礼と詫びも忘れずにな」
「はい、色々とありがとうございます。篁様」
朝陽は恥ずかしそうに笑顔で言った。
篁と一緒に部屋から出てきた朝陽を晴明と美夕は笑顔で迎えた。
◇
それから朝陽は、一週間考え道満が屋敷に来た時に思い切って伝えた。
「私、道満ちゃんの弟子になる! 女の子が宮廷陰陽師になれないなら民間陰陽師になって将来、父様や弟たちと一緒に都の人達を助けていきたいの!」
道満は目を丸くして酒を飲む手を止めて朝陽を見つめる。
「考えが少し甘いとは思うけど……朝陽ちゃん俺の修業は厳しいよ。それでも良いの?」
道満がこれまで、朝陽には見せない厳しい顔つきと口調で朝陽に問う。
「はい、それに冥官の妻になるには強くなくちゃ!」
「わかった! それでは、これからは師匠と呼ぶんだ」
「はい、お師匠様!」
「父様、母様。お師匠様と修行の旅に出ることを許していただけますか?}
「兄様が一緒でも、危険な旅なのでしょう? 私は行ってもらいたくないわ」
美夕が反対すると、晴明は口を開いた。
「美夕、朝陽はそれほど覚悟をしているのだろう。
お前の気持ちも分かるが、理解してやれ」
「はい、そうですね……あなたがそうおっしゃるなら」
美夕は晴明の目を見て、自分にも言い聞かせるようにうなずいた。
「陰陽師になりたいという願いは、既に聞いているが。そうか……それほどまでとは。」
「承知した! 三年の期間をあたえよう。三年、道満の修業を受けて。
陰陽師の霊力を身に着けられなければ、おとなしく巫女になるのだぞ」
「見事、霊力を身につけられたあかつきには、私が陰陽寮生として鍛えてやる。」
「ほっ、本当ですか! 父様!!」
朝陽は喜びの声をあげたが、次の言葉で絶句することになる。
「ただし、男としてだがな。陰陽寮には女人は入れない。お前一人特例とするわけにはいかないのだ。陰陽寮で三年間、終了するまでお前は男として入るのだ。
私と光栄、陰陽頭の保憲殿以外、陰陽寮生の誰にもお前が女人と悟られてはならない」
晴明は真剣さを含んだ視線と表情で朝陽を見ている。
「そ、それでも。陰陽師になれるのならやります!」
朝陽の顔が強張り、少し身体が震えたのを見た美夕は助け船を出した。
「朝陽、厳しいようだけど。父様はあなたの将来を案じているのよ。
資格が取れれば、後は昔より比較的安定して行動出来るから頑張りなさいね」
美夕は陰で晴明の袖を軽く二回引っ張った。
「寮生期間に他の者に知られた時は……私が責任を持つから、な」
晴明は美夕に背中を押されて本音を吐露し、少し優しい表情をのぞかせた。
その言葉と表情に朝陽は、父と母の愛情を感じて嬉しくなり目を潤ませた。
「ありがとうございます。父様、母様」
「良かったね、朝陽ちゃん。頑張るんだよ!」
道満は心底嬉しそうに朝陽の頭を撫でた。
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ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
次回は、完結編最終話です。
良かったら、最後までお付き合いください。
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