第六十五話・第十話最終話「朝陽、修行の旅へ」《完》
秋も本番を迎え、緑赤黄の色とりどりのイチョウや
朝陽と道満は皆に旅立ちの挨拶をしていた。
「晴明ちゃん、美夕ちゃん。朝陽ちゃんをしばらく預かるよ」
「父様母様、吉平、
「ああ、頑張って来い。気をつけてな。道満、朝陽を頼んだぞ」
「朝陽、道満兄様。身体とお水にはくれぐれも気をつけてね!」
「あなたならきっと、大丈夫よ」
晴明と美夕は朝陽をぎゅっと、強く抱きしめた。
「ありがとう。父様母様も吉平、吉昌も身体に気をつけてね!」
「姉上もお身体に気をつけてくださりませ」
「姉上~、おみやげ待ってるね!」
優しい吉平は涙ぐんでいる。まだ幼い吉昌は無邪気にしていて、美夕は朝陽の事がまだ、心配そうだが笑顔で別れを惜しんでいる。そんな家族を晴明は傍らで見守っている。
その時、篁と朝陽の良い雰囲気を感じ取って、複雑そうな表情の晴明とそわそわと頬を少し染めて嬉しそうな美夕は吉平と吉昌の目を手で隠した。不思議そうにしている息子達。
「篁様……私、行くね」
朝陽は篁に向き直り紫の瞳に篁の姿を映した。篁も朝陽を見つめる。
「朝陽……夢幻の花の首飾りは、肌身離さずつけていてくれ。必ずお前を守るものだから」
「朝陽オレは、お前を前世という呪で縛っていたのかもしれないな……お前はお前なのだから」
「ありがとう。篁様、大好き」朝陽はそれを聞いて涙ぐんだ。
「篁様、しばらく帰って来られないから。口づけ……してくれるよね?」
朝陽は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにもじもじしている。
「わかった」
篁は朝陽の肩を抱き寄せ、朝陽の願いを叶えて唇を重ねた。
二人は名残惜しそうに見つめあう。
「続きは帰ったらな」
と篁は朝陽の耳にささやくと朝陽は灯がともったように顔を真っ赤にした。
「さあ、行って来い!」
朝陽を元気づけるように背中を強めに叩く。
そして、朝陽を愛し、
「朝陽帰ったら祝言をしよう。待ってるからな!」
「うんっ、日本一幸せなお嫁さんにしてね! 篁様」
「ああ、もちろんだ」
篁は視界に入った、
「は、入り込む余地がねえ……! ちくしょー。あいつ……」
用事を終えて見送りに来た疾風は、朝陽と篁の約束と口づけを見聞きして思いっきりショックを受け、呆然と立ち尽くしてしまった。
こちらには、道満との子を身籠っている身重のハルが見送りに来ていて道満と旅立ちの抱擁を交わしている。
朝陽は、陰陽師の霊力を身に着けるため道満と共に
晴明は手を振りながら感慨深げに娘の後姿を見ていた。
私は、人間でいう八十代になったら
その時は人の世に別れを告げ、生きながら美夕と共に冥府へ住居を移す。
あやかしの血の薄い息子達は、一緒には来られない。
それにその頃には、家族も出来ていることだろう。
親より子が先に老いて逝ってしまうのを見るのが、何よりも辛い……
その時、寿命の長さが兄弟達とは違う朝陽はどうするのだろう。
篁の妻となり冥府の住人になるのか。それとも……
私と美夕は子供達の自由にさせたいと思っている。
そのための協力は惜しまない。何一つ自由にならないこんな時代だからこそ。
私達は、未来を担う子供達を見守っていきたい。我が子達、頑張るのだぞ。
「朝陽を陰陽師に……か。私も甘くなったものだな」
晴明はそうつぶやくと、言葉とは裏腹に嬉しそうにふふと微笑んだ。
今宵は夢幻の花が咲く夜、花言葉はあなたを見守る。無償の愛。希望。
篁と疾風とハルが、朝陽と道満を想いながら手を振っている。
晴明は吉平と吉昌の頭を撫でながら、自分に寄り添い涙を流す美夕の肩を抱いて
—―終わり―—
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「安倍晴明物語☆夢幻の月」を最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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