第六十二話・第七話「津島疾風の心」
その日から
朝陽は美夕に頼んで、来る日も来る日も疾風を断り続けた。
見かねた晴明は美夕に話した。
「美夕、津島殿の所のせがれが。毎日訪ねてくるが。
「はい、わかりました」
昼過ぎ、美夕は朝陽の部屋に話しをしに行った。
美夕は、朝陽に何があったのかをたずねた。
「ねえ、朝陽。疾風君この頃、毎日あなたを訪ねてくるけれど。何かあったの? 篁様も、最近よく家にいらっしゃるようだし。心なしかピリピリしていて、あなた達の様子が普通ではないように感じたわ」
朝陽は、しかめっ面をしながら美夕に事の次第を話した。
「そうなの、そんなことが……」
「私が好きなのは、篁様だけなの……そりゃ、疾風に好きって。言われた時は、少しドキッとしたけれど……私が好きなのは、疾風じゃない」
朝陽は困ったようにうつむいた。
「それなら、朝陽のためにも、疾風君のためにも話しあった方が良いわ。幼馴染なのだから疾風君は、傷つくかもしれないけど……いきなり無視されるよりずっと、良いと思うわよ?」
「そう……だよね? 私明日、疾風と話してみる! ありがと母様」
美夕の提案に朝陽は少し吹っ切れた様子で礼を言った。
日が出ているうちに朝陽は、疾風に手紙を書き式神を飛ばした。
☆
朝陽は休日の昼過ぎに疾風と話すために街の茶屋で待ち合わせをした。
茶屋は旅人や町人でにぎわっている。
疾風は待ち合わせの時刻よりも遅れて現れた。
時々あくびをしていて、どうやら眠れなかったのだろうということが見て取れた。
「よお、朝陽。遅れて悪かったな。母ちゃんに用事を頼まれちまって」
疾風はいつもと違い悪びれることなく、素直に伝えた。
「おっそーい! もう、蜜団子十本も食べちゃったわよー?
まあ、用事ってことなら許してあげるわ!」
疾風が見ると、二本ある琥珀色の蜜がとろりと掛かった団子を一本たいらげ
朝陽は茶をすすっていた。
朝陽の傍らには、団子の串が乗った皿が積み上げられている。
「げっ……お前、そんな食って太るぞ」
少しあきれ気味に苦笑いする。
「あら? 女の子には甘い物は別腹なのよ。知らなかった?」
朝陽はケラケラと、悪戯っぽく笑っている。
朝陽と疾風は、茶を飲んだ後。茶屋を出て貴船神社に向かった。
ここは、都にある貴船神社。朝陽はたまにここに晴明の使いで来る。
都を潤す水を司る場所だ。赤い鳥居をくぐり神社の裏手にまわる。
鳥のさえずりが聞こえ、木々の隙間からは柔らかな日の光が差し込んでいる。
「ここならあまり、人も来ないでしょ。さあ、話しましょうか!」
「ああ……」
朝陽と疾風は、柔らかい草の上に腰かけて話し始めた。
疾風は無遠慮にジロジロと朝陽を見てから口を開いた。
「あいつ、小野篁っていう野郎はお前のなんなんだよ。前世から結ばれてるとか
訳わかんねえ事を言ってたが。冗談なんだろ?」
朝陽は、疾風の目を真っすぐ見て話した。ドキッとして少し頬が染まる疾風。
「篁様は私の大切な人……前世から結ばれているというのはね。
冗談じゃないらしいの。あの人が教えてくれたのよ。
私は雪花さんという、女性の生まれ変わりなんだって。
私と篁様は、前世は恋人だったらしいの。」
「そんなの何とでも、言えるじゃねえか。あいつ、口が上手いみてえだし。
お前、昔から信じやすいからな。騙されてるんじゃねえのかよ?」
「何よ! 篁様はそんな人じゃないわ。私には、嘘をつかない人だもの。私は信じてる!」
朝陽はついカッとなって身を乗り出しそうになった時、美夕の言葉を思い出した。
―――朝陽、熱くならずに落ち着いて話すのよ。
深呼吸をして、懸命にたかぶる気持ちを落ち着かせた。
「心配してくれてありがとう。でも、大切なことなの。落ち着いて聴いてくれるかな」
疾風はいつもと違う朝陽の落ち着きぶりに真剣さを感じ取り、自身も徐々に落ち着いてきた。
「お前はガキの頃から正直だもんな。それが心配なんだよ俺は。
俺の気持ちはこの前言っただろ? 俺はお前を……」
「でも、私は人じゃないし半妖なのよ。」
「そんなの関係ねえよ!」
疾風は真剣に朝陽を見つめた。
「ありがとう……疾風。気持ちは嬉しいけど、私が好きなのは」
疾風は朝陽の手首を掴み抱き寄せ、篁の名前を言いかけていた唇は突然彼の唇でふさがれた。
疾風は唇を離した後、朝陽の肩を掴んだ。
熱っぽい視線で朝陽の目の奥を覗き込んでいる。
「あいつの名なんて聴きたくないっ! もう、ごまかすのはやめる! だから俺だけを見ててくれねえか」
「いやっ! 放して!!」
「それでも、私は篁様が好き! 篁様以外の人に口づけされたくなかった」
ぼろぼろと涙があふれてこぼれる。疾風は泣きじゃくる朝陽をまた抱き寄せた。
「すまん。優しくできる自信がねえ……」疾風は朝陽を強く強く抱きしめ
「こんなの諦めきれねえよ。朝陽」疾風の視界が涙でかすんだ。
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