第五十九話第五話・一「赤い藤の花」

 朝陽はまどろみの中で、夢を見ていた。


「朝陽は、人であって人ではない。お前には朝陽は幸せに出来ない」

「それじゃ、あんたには幸せに出来るっていうのか!」

「そうだ、少なくともオレには出来る」

「やめてよ! 二人とも、何をやってるのよ!」




 その時、美夕の声が聴こえた。

「陽…朝陽、起きなさい」

「んー…母様、なあに?」

 朝陽は眠い目をこすりながら美夕を見た。


「父様がお呼びよ、朝陽にお話しがあるんですって。お友達のことで」

「父様がっ!?」


 朝陽は慌てて飛び起き居間に行った。

 居間に晴明と朝陽が向かい合って座っている。


「父様、夕顔のことを聞いてくださるそうで…」

「――うむ。まずは、詳しく聞かせてくれ」

「赤い藤の花から女の霊が現れて、夕顔に息のようなものを吹きかけた。それから、夕顔は床にふせってしまったの。」


「そうか…それは、恐らく藤の花の化身だな。夕顔殿は、藤の精に呪いを掛けられてしまったのかもしれぬ。しかし、赤い藤の花か…気になるな。詳しいことは、見てみなくてはわからないが、その夕顔殿の家へ父さんを連れて行ってくれないか?全てはそれからだ。」

 晴明は考えを巡らせながらあごを撫でた。



「父様! 本当に夕顔を助けてくれるの? 私に力を貸してくださるの?」

 朝陽の瞳から、しずくが流れ頬を伝って落ちる。

 晴明はすっと、朝陽に近寄り抱き寄せた。


「ああ、ほかでもないお前の頼みだからな。お前が本気なのは理解した」

「つ! ありがとうございます、父様。これで、夕顔を助けられる」



 その時、道満と篁、美夕が居間に入ってきた。

「朝陽ちゃん。俺も行くよ」

「オレも行くぜ朝陽。いとしいお前のピンチだからな」


 篁はウインクをした。

「朝陽…母様も行くわ。浄化の術が必要でしょう?」

 美夕は心配そうに朝陽を見ている。

「ありがとう。母様! 母様は炎の術も強力だもんね。でも、吉昌は大丈夫?」

「ええ、少しなら白月さんに見ていてもらうから大丈夫よ」



 しかし、晴明は首を横に振った。

「美夕…お前は残りなさい。道満もだぞ。大人数で行ったら夕顔殿の親御さんが不審に思うだろう」

「はい、承知しました」

「ちえっ、わかったよー」


 二人は渋々納得した。

「もしもがあれば、朝陽は私と篁で守るから…おまえは屋敷で帰りを待っていてくれ」

「承知致しました。美味しい魚の鍋物でも、こしらえて待っていますね」

「ああ、美味い酒も頼むぞ」

「あら、うふふっ。それでは、とっておきのお酒を用意しておきますね」



 美夕はくすくすっと軽く笑った後、朝陽の両肩をやんわり触って話しかけた。

「…朝陽、大丈夫よ。あなたには、父様方がついているわ。それと、雨が必要になったらこれを使って使い方はわかっている?」

「ありがとう。母様」



 朝陽は残念そうな表情をして、肩を落としている。

 そんな娘を見て美夕は、朝陽に人魚のうろこを渡してぎゅっと抱きしめた。


「晴明様も…どうかお気をつけて」

「うむ。行ってくるぞ」



 晴明は腰を少しかがめて美夕に口づけをした。

 今でも充分、新婚のような両親のその姿を見て頬を染める朝陽。

 横目で篁を見ると目が合った。恥ずかしくて思わず目をそらす。



 目をそらす前に篁の唇が(後でな)と動いた。

 それを理解した、朝陽の頬がポッと染まる。 

























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