第五十八話・第四話「篁の落とし物」

※朝陽編では、ジェラシーなどの言葉を、話を分かりやすくするために使っています。


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次の日の昼のこと。外から鳥の声が聴こえる。

美夕は揚げ菓子を持って、朝陽の部屋を訪ねた。


「朝陽、母さんよ。入っていいかしら?」

「ああ、どうぞ」

「どうしたの? 母様」


美夕はお盆に乗せた茶と、揚げ菓子を文机の上に置くと朝陽に進めた。

「少し、朝陽とお話しがしたくてね。お茶でも飲みながらお菓子でもどう?」

「ありがとう。食べるー」



朝陽と美夕は、揚げ菓子をつまみながら話をし始めた。

「母さんね。あなたくらいの年の頃は、子供っぽくて、良く父様を困らせていたわ…

今思えば、本当に申し訳なかったわね。」

「え―っ!? 本当に、母様が? 信じられないっ!母様と父様のお話もっと、聞きたーい」

朝陽は、キラキラと瞳を輝かせて美夕を見た。


「長くなるわよ? おいおい、話してあげるわね」

「うんっ。じゃあ、私も母様みたいに賢くて綺麗になれるかなあ?」

「ふふ、ありがとう朝陽。今もこんなに可愛いもの。なれるわよ、父様と母さんの娘だしね」


美夕は嬉しそうにくすっと笑った。

「父様も、あれからだいぶあなたのことを考えていらしたわ。

父様も篁様もあなたのことをとても、大切に思っての言葉なの。

だからね、あなたの気もちもわかるけど。あまり心配をかけないようにね……」


「うん、母様ありがとう。少し気が楽になった。私、母様も父様も篁様も大好きよ!」

「母さんも、朝陽が大好きよ」

「うん! ちょっと、お水飲んでくるね」


朝陽は美夕と別れたあと、炊事場に行こうと、廊下を通ると客間から出てくる篁をみかけた。

「あれ? 篁様だ。」

篁のふところから紙が落ちた。

「なんだろう? これ」



朝陽は、四つ折りの古ぼけた紙を広げてみた。

そこには氷獄鬼ひょうごくき雪花せつかの姿絵が描かれてあった。

「――綺麗な人……角がある。鬼女? まさかこの人。篁様の……」

朝陽は胸がチクリと痛んだ。


「やだ、考えたくないっ! 篁様は私の事、大切だっていつも、言ってくれるもの!」

「――でも、もしも篁様の想い人だったら……?」

朝陽はぶんぶんと、強くかぶりをふった。


「ダメダメ! 悩むなんて、私らしくない。篁様に直接聞いてみよう。

当たって砕けろよ!」

朝陽は、慌てて篁を呼び止めた。


「待って!」

「篁様、私。篁様の落とし物を拾ったんだけど」


二人は縁側に座り話を始めた。

「そうか、ありがとう。その前に、昨日の事だけどな」

篁は思わぬことを聞いてきた。


「朝陽、あの疾風とかいう小僧はお前の事が、好きなんじゃないか?」

「えーっ!? まさかー? 私あんな、子供っぽい奴。興味ないもの」

困ったような顔でないないと首を横に振る。


「夜に黒兎の森までお前を追って来たのは、心配だったからじゃないのか?

それに、好きな女ほど意地悪したくなるってな。

男のさがだぞ? オレとしては、ジェラシー感じるけどな!」


「からかわないでよ篁様。それに、私の好きなのは

昔から篁様だけだもん。わかってるでしょ?」

朝陽は頬をふくらませて怒った表情をする。


「ああ、ごめんな。朝陽のその言葉が聴きたかったんだ。まあ、ライバルはそっこう潰すさ」

篁がにんまりしながらクックックと、悪役じみた笑い方をした。


「怖い怖いよ! 篁様が言うと、冗談に聴こえないし!篁様、凄く強いんだから、手加減してあげてよね」

「朝陽は、相変わらず優しいなあ。よし、津島が変な気をおこさないように明日にも潰しとこう」



「もー、篁様――!」

「ふふ、まあ。冗談はさておき」

「オレの落とし物を拾ってくれたんだってな。」

「これなんだけど……もしかして、篁様の大切な人なの?」

朝陽が不安そうに聞いてくる。




「そうだ。これは、オレの恋人の雪花だよ」

朝陽の胸がズキンと痛み、涙がじわりとにじみ篁の姿がかすむ。

それを感じ取った篁は、朝陽の頬を優しくなでた。


「これは確かに、オレの恋人だが。雪花はお前の前世の姿なんだよ」

「まさか本当に? 信じていいの」

「ああ、たのむ。オレはお前を泣かしてまで嘘はつかない」


篁は朝陽の雪花だった過去と生まれたいきさつを話した。

彼女は不思議そうに話を聴いていたが、悲しい過去に涙を浮かべた。


「そうなんだ。私が雪花さんだったなんて。篁様がそういうなら信じるけど。

記憶がないのよね。変な夢みるくらいでごめんね。篁様……」

謝る朝陽の涙を指ですくった。


「泣くなよ。お前が雪花の生まれ変わりなのは、間違いない。オレとお前、惹かれあっているのが何よりの証拠だ」

「オレは昔も今もお前を愛しているよ」

篁は優しく微笑みながらそう言うと、朝陽の額にそっと口づけをした。

「たっ、篁さまっっ!?」


朝陽は嬉しいのと恥ずかしいのとで、あわてふためき真っ赤になった。

篁が自信ありげな表情でほくそ笑む。


「ははっ、まだ、子供だなあ、朝陽は。

これくらい、早くなれてくれないとオレが困る」

「ゆっくりで良いから、大人になれ朝陽。

オレはお前が、大人になるのを楽しみにしているんだ」

篁は朝陽の髪をひとふさ手に取り、ちゅっと音を立てて口づけした。



その行為に朝陽の頬がポッと赤く染まる。

「成人の儀式の裳着もぎまで後、一年だよ。私、すぐ大人になるから……

だからその時は、私をお嫁さんにしてね。篁様」


「ああ、もちろんだ。好きだ。朝陽」

「私も……大好きです。篁様」

朝陽は篁にぽーっと見とれている。

「朝陽、夢幻の花の花びら内緒でひとひらお前にやるよ」



篁は、夢幻の花の花びらをちぎると、花びらは青色の結晶になった。

それを器用にちょこちょこと、細工をして細い革紐に付けて首飾りにすると朝陽の首に付けた。


「わー、綺麗! でも、篁さま…大丈夫なの?」

「ああ、オレの権限で何とか、誤魔化しとく」



篁はニヤッと笑った後、朝陽の花びらのような唇に指をすべらせると唇を優しく重ねた。

そして、ふたりは唇を離し見つめあう。


「これは、枯れないから大切にしろよ」

「はいっ、篁さま……」

朝陽は頭がぼーっとして夢見心地になっていた。

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