最終話第五十二話「桜咲く小道」

 藤原道長は炎獄鬼の術から解放され、操られる前と変わらずまつりごとを始めた。

 三吉の村の事は、上流貴族の身分とあやかし絡みもありおとがめ無しということになる。


 この出来事は、晴明達に何とも言えないような感情を残したが、

 下級貴族である晴明には、どうにもならないことだった。


 ただ、晴明は、道長おかかえの陰陽師ということで

 道長自身に、炎獄鬼に操られている間の事柄を話すことを許され

 それを知った、道長は沈痛の面持ちで、三吉の父の墓に参り、鎮魂ちんこんの涙を流した。

 その姿を晴明と美夕は複雑な表情で見ていた。


 保憲は元の身体に戻り、妻の優子と息子の光栄の看護で回復した。

 幼い頃から優しかった光栄は、父が晴明ばかりを大切にしていると

 思い込み、嫉妬心から心に闇を持ってしまった。


 そこに炎獄鬼が漬け込み、光栄の闇は、さらに広がってしまったのだ。

 保憲を救えた光栄は、約束通り晴明、美夕達とも和解した。


 保憲は息子と向き合い謝り、腹を割って話し合った。

 炎獄鬼が倒され、光栄はようやく呪縛から解き放たれ、改心して

 罪を償いながら、父や晴明の仕事を手伝い始めることができた。




 ☆+☆+☆


 それから数年後…。

 都では、陰陽寮おんみょうりょう陰陽頭おんみょうがしら、賀茂保憲が纏める陰陽師。

 安倍晴明、賀茂光栄が、京の二大陰陽師と人々から呼ばれていた。



 桜の花が咲き、ゆるやかに桜吹雪が舞っている。

 晴明と美夕と、子供が花見をしている。

 子供は、晴明ゆずりの紫の目の色と、美夕ゆずりの愛らしい容姿をしていた。


 弁当の焼き味噌のにぎり飯や、鶏と野菜の煮物。乾物の果物などを用意している美夕。

「ねえ、母さま、だれか来るみたい」

 子供が茶を飲む手を止め、美夕の着物の袖を引っ張る。

「あら、どうしたの? 朝陽あさひ


 美夕は、不思議そうに娘を見ている。

 しかし、すでに晴明は、近づいてくる気配に気づいていた。

「ほら朝陽、迎えに行ってあげなさい」

 晴明は優しく娘の背中を押した。


「は~い、父さま。いってきます。母さま」

「いってらっしゃい。朝陽、って……え、まさか。この気配は!?」


 美夕も気配に気づいて瞳がうるむ。朝陽は、道の向こうから歩いてくる。

 二人の人影を見つけ走っていく。

 細身の男と大柄な男は、気がついて近寄ってきた。

 大柄の男性が朝陽を抱き上げた。

 細身の男性が朝陽の頭をなでる。


 朝陽は、嬉しそうに笑っている。

 二人は遠目で見てこれはやはり、あの二人が帰って来たのだと、

 美夕の顔がぱあっと、涙交じりの太陽のような笑顔で輝いた。

 晴明の月の光を宿した、切れ長の瞳が優しげにまたたいた。




 安倍晴明物語☆~夢幻の月~本編・了



 ☆・・・・・・・・・・☆・・・・・・・・・・・・☆

 最後までお読みいただきありがとうございます。


 今年、2023年の2月14日から連載して参りました、

「安倍晴明物語☆~夢幻の月~」も本編は、今日で完了となりますが。

 まだ、完結済みにはしません。


 この後、続編を少し、ご用意しています。

 よろしければ、お願いいたします。

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