本編

第四十二話「霧の中の小野篁」

 篁は、霧深い中を歩いていた。

「ここは、炎獄鬼の霧の中か……」

 晴明や美夕達は無事だろうか、早く合流しなければ。

 うん?幻術解除はできないようだ、やっかいだな。


 そういえば、冥府の通信で、風獄鬼が炎獄鬼にすでに殺されていたと聞いたな……

 道満……あのお人よしは今、どうしているだろう……


 赤毛の猫が浮かび上がった。

 おっ、晴明のとこに初めて行った時のオレじゃないか。

 ああ~この後、晴明が齢十になった頃。妖弧の力が暴走して

 変化を解いて、助けに入ったんだっけ。


 あいつは未だに自分が、罪を犯したって思っているようだが

 まあ、この戦いが終わったら、お前に話してやるよ。

 お前は、罪人じゃないってな!待ってろよ。晴明!


 篁と雪花が現れる。

 チッ、雪花との記憶まで。あのヤロー、とんだゲス野郎だぜ!

「おまえのことが好きなんだ、雪花。オレと逃げてくれ!」


 篁が雪花に駆け落ちを持ちかける。

 雪花が悲しそうにまつげをふせる。

「いけませんわ、篁様。わたくしは地獄の鬼、あなた様は閻魔様直属の官吏……。地獄の掟を犯してしまいます!」

 もう少しのところを閻魔様の部下にとらえられ、オレと雪花は牢屋に入れられた。



 ◇ ◇ ◇


 その夜、炎獄鬼が暴動を起こし雪花を牢屋からさらった。

 雪花は炎獄鬼、風獄鬼に協力して地獄の官吏や役人達を殺害し、地獄を脱走した。

 オレは牢屋から出され、閻魔様に炎獄鬼、氷獄鬼、風獄鬼の抹殺を命じられた。

「やめてくれ! オレは雪花を殺したくない!」

 篁の目の前が真っ暗になった。


 こんなはずではなかった。まさか愛する者を、

 雪花をこの手で殺める日が来るなんて思いもしなかった。

 これもさだめというものなのか!

 いや、違う! あんなに美しく優しい女が、理不尽に殺されていいはずがない!


 オレは雪花のためなら、掟を破ってもかまわないと思っていた。

 雪花、雪花……雪花!オレが今行ってやる。

 だから、もうその手を罪で汚すな。一緒に生きよう。今度こそ。


 篁様、わたくしはここです。

 どうか、しっかりなさってくださいませ……

 雪花の魂が呼びかける。

 足元の地面が崩れ、篁はまっさかさまに落ちていった。

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