第三十五話「晴明の死」

「道満、美夕! やめろ、やめてくれ! 私は、お前たちを傷つけたくない」

 晴明の身体が美夕の伸びた鋭い爪で切られる。

 晴明は避けながら好機チャンスを探しているが鬼女化した美夕は、スピードが速く避けきれない。

「死ね! セイメイ!」


 美夕は腕を振り回し、大きく引っかこうとした。

 が、晴明は後ろに飛びのいて体制を整える。


 ガバッ!


 晴明は道満に太い腕で羽交い絞めにされ、迫ってきた美夕に爪で胸を引っかかれた。

 道満は大きく口を開け、鋭い牙で晴明の肩に噛みついた。

「うああっっ!」

 晴明は痛みをこらえながら自嘲的じちょうてきに笑みをこぼした。

「ああ、私は美夕や道満、愛する者の手にかかって、最期を迎えるのか……それも、一興かもしれぬな」


 そして、美夕と道満を見つめながらつぶやく。

「すまぬ、美夕、道満…お前達を救えなかった」

 晴明の瞳からひとすじの涙が流れた。

 その時、晴明の身体から守るように青白い狐火が立ち上り、妖狐の姿へと変化し始めた。



 炎獄鬼は晴明に近づいてきて、美夕に問いかけた。

「美夕よ。晴明の真名まなをお前は知っているか」

 うなずく美夕。

「はれ……あきら」

 なんと、美夕は操られているとはいえ、晴明の真実の名を炎獄鬼に明かしてしまった。



 真実の名を相手に明かすということは、陰陽道では命をにぎられるということ。

 炎獄鬼はニターと笑うと。

「あやかしのはれあきら殿!」

「さらばだ……!」



 力を吸い取った、晴明の腹に爪を突き立て一気に貫いた。

「ぐっ!?」

 晴明は真名まなを暴かれたことで変化が解け、力は弱体化して。膝をついて前にくずおれた。

 晴明の心臓の鼓動が止まる。

 操られているはずの道満と美夕の目から涙がこぼれ落ちた。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 晴明の死……。

 このまま、炎獄鬼の思い通りになってしまうのか?


 今回は短かったですが、とても重要な回でした。

 次回に続きます。

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