第六章「残酷な別れ」
第三十四話「炎獄鬼の策略」
ごめんなさい、晴明様……あなたは、私の分まで生きてください。
父様……父様の罪は、娘の私の罪でもある。まして、地獄に命を取られるくらいなら。いっそ、一緒に……私はずっと、ずっと。父様と母様の娘だからっ!
その頃、美夕は
そこには久方ぶりでも若いままで、時の流れが止まったままの父、炎獄鬼が待っていた。
「くふふ! 待ちわびていたぞ。我が娘、美夕よ」
炎獄鬼の後ろには一人の鬼女が、犠牲者の生き肝をむさぼり食っていた。
美夕は吐き気を覚えながらも鬼女の顔を見た。
何と、それは美夕の母親。
「か、母様あ――っっ!」
美夕はぼろぼろ涙をこぼして、母親に駆け寄った。
『ぐうう…アアアーーー!』
「きゃあっ!」
美夕は頬を美朝にはたかれた。
「母様……? くっ!」
「母様はお前が、食らったのを確かに私は見たわ! これはどういうことなの!?」
美夕は恐ろしさに耐えながら炎獄鬼を睨んだ。
「フン! 小生意気な小娘め! 良いだろう。話してやる」
炎獄鬼はあの日、食ったのは美朝の人面その部分で、美朝自体ではないことを話した。
母はずっと、人面そという人面のあざが出来る病にかかっていた。
「これを治すには、百人の化生の生き肝が必要だ!あと、三匹で美朝は救われる……。安倍晴明。蘆屋道満。そして、お前だ!美夕。優しいお前なら、母の糧となってくれるだろう?」
綺麗な顔で冷酷に笑う炎獄鬼。
「父様……犠牲は、私だけで良かったのに。罪のない人びとをたくさん殺めて。晴明様や道満様までっ!」
美夕は涙を流して短刀を抜いた。
「大切な晴明様や、道満様達を罪で汚させない! ここでもう、終わりにしてください。お願い。父様! 一緒に死んで!」
決死の覚悟で美夕は、炎獄鬼に向かって行った。
その時、背後に道満が現れた。
道満は刀を奪い取り、美夕を羽交い絞めにした。
「あっ!道満様!」
驚きながらも嬉しそうな表情を見せるが。その目は操られ正気を失っていた。
「道満様……そんな」
「ハハハッ! 道満の奴は、うるさかったから俺の人形にしてやったぞ!」
「よくも、実の息子にこんな酷いこと! もうやめて! こんなことをしたって、
母様の人面そは治らないわ! その証拠に鬼になってる!私、晴明様に聞いて知っているの!」
「黙れ! ガキが。たかが、短い時しか生きていない、あの男に何がわかる?
地獄の禁書からえたものだ。小僧にはわかるまい! さあやれ! 道満。美夕の腹を切り、生き肝を取り出すのだ!」
道満は短刀を振りかざした。
「待て!」
あわやという時、洞窟の奥から晴明が走り出た。
「私の家族にそんなことはさせん!」
晴明は道満の短刀を叩き落して、手首をひねりあげた。
「晴明様! 来てくださったのですね?」
「ぐおおっ! 放せ!」
道満は激しくもがいた。
「美夕、無事で良かった! 安全な場所までさがっていろ」
「はい!」
美夕は岩陰に身を隠した。晴明は、美夕から炎獄鬼に視線を移した。
「お前が炎獄鬼か! 私の美夕や道満をこのような目に遭わせ、罪もない人々の命をもてあそんだ罪、覚悟せよ」
「くふふっ! それが、どうしたというのだ。その分では、妹も人間の小僧も倒したのか?炎・風・氷・獄・呪! 強制覚醒! ゆけ。道満、美夕! この小僧を美朝に差し出せ!」
炎獄鬼はせせら笑いをして呪文を唱えた。
「うっ!?」
「ああっ!」
道満と美夕はぶるぶると震えだし身体をかきむしり始めた。
「ぐおお! 身体が熱い!!」
一瞬、道満の目に光が戻る。
「嫌だ! 殺したくない、晴明ちゃ……ん」
「道満!」
美夕は涙を溜めて晴明のほうに手を伸ばした。
「晴明様、いやっ!」
「美夕!」
道満と美夕は金色の目、赤い髪に二本の角が生えた、鬼に変貌して晴明に襲いかかってきた。
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◇ちょこっと言の葉◇
・
人面瘡とは、妖怪、奇病の一種で架空の病気の事。
食物を食べたり、話しをしたりする人面のアザのことである。
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今回、急展開ですね。晴明達はどうなってしまうのか?
次回もよろしくお願いいたします。
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