第三十二話「永久(とわ)の愛」❖
その姿はいつの間にか、元の麗しい青年の姿に戻っていた。
「愛する者も守れず何が、地獄の官僚か! 私は今更、自身の保身などしない!ただ、愛する者を守るためならば。何百年でも、この身をささげましょう!」
篁の力強い瞳が、前を見据える。洞窟の温度が一気にさがる。
冥官小野篁イメージAIイラスト
https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818023214088828690
『ほう!
『見上げた根性だ。さすが、閻魔王様がお認めになられた人間と、いったところか……だが! こちら側としても今、そなた程の男を失うわけには、ゆかぬのだ!!』
何と、一振りの刀が出現し、雪花の腹をつらぬいた。
「かはっ……! た……かむら様」
「くそっ! 雪花!!!」
篁は、雪花を受け止めた。雪花の腹からは、血があふれ白いドレスを染めている。
「くっ!」
篁は刀を抜かずにそのまま、止血した。篁の胸に
「いけません」
雪花は篁の口をふさいだ。
「雪花!なぜ止める!?」
雪花の、白魚のようなきゃしゃな手を握る。雪花は、息を乱しながら言った。
「いけません。それを、おっしゃっては。本当に地獄へ落とされてしまいます!わたくしは何よりも、篁様の身を案じているのです。」
「わたくしの最期の言の葉を聞いていただけますか」
篁は泣きそうな顔で雪花を見つめた。
「最期などというな! オレが必ず、救ってみせる!」
「いいえ、無理です」
雪花は首を横に振った。
「わたくしをつらぬいたこの刀は、(死神の刀)と呼ばれるもの。刺されると、猛毒に侵され死に至るのですわ……」
そう、冥府の呪いの刀の一振り、死神の刀。雪花は並の鬼では無い為、即死せずに耐えられているのだろう。
「毒なら、オレの専門分野だ! オレが解毒剤をうってやる」
篁は、冥府製の注射器を袋から取り出すと、雪花の腕に注射した。
しばらくして、効果がないのをみると篁は、酷く動揺した。
「なんだこれ!? オレの最新の解毒剤だぞ! こんなはずはっ?」
「もっと、他の解毒剤をうってやる!大丈夫だ。雪花!希望を無くすな!」
篁は、雪花の止血を続けながら元気づけた。雪花はふっと、悲しげに微笑み。
「ありがとうございます。篁様、でもどんな、解毒剤も死神の毒の前では
無力ですわ。これが、罪を犯した者のさだめなのです」
「ああ……目が見えなくなってきました。わたくしの命、尽きる前にどうか、願いを聞いていただけますか?」
「雪花! しっかりしろ。元気になったらいくらでも、聞いてやるから今はしゃべるな!」
「いいえ、話させてください。わたくしの願い……それは、兄の炎獄鬼のことですわ。」
「兄様は自分の愛おしいひとのためにたくさんの混血を犠牲にしている…
過ちに気づいていない。お願いです。兄様に引導を渡してあげてください」
「ああ!オレと晴明で、引導を渡す。安心しろ」
篁はうなずいた。
「ありがとうございます。これで兄様も救われる」
「雪花。オレはおまえを妻にしたい! 幸せにする。愛している」
雪花は涙を流しながら微笑んだ。
「嬉しいっ……わたくしは、
篁と雪花の唇が重なった。
氷獄鬼、雪花は愛する篁の腕の中で静かに息を引き取った。
「雪花―――!!!!」
篁は雪花を抱き、悲痛な叫び声をあげた。
『小野篁よ。氷獄鬼は死んだ! 少々、我らの手をわずらわせたが
まあ、よかろう。引き続き、炎獄鬼、風獄鬼の抹殺の任にあたるが良い!』
篁は地面に手を付き、うなだれて顔面蒼白で震え始めた。
『うん? 何やらいいたげだな…』冷たく響く声。
篁の体から黒い殺気が立ち上った。
それに呼応してビリビリと空気が震え始める。
「ちくしょう! よくも雪花を! 許さねえ!!」
『口を慎め!小野篁。恩知らずめ! 恨むのなら、己の愚かさを恨むが良い』
「――キサマ! 覚悟は出来ているな?」
篁の激しい怒りと殺気が黒い霧となり、洞窟内に漂い始めた。
その時、篁の耳に雪花の声が聴こえてきた。
『だめです! 篁様。わたくしのために心を乱されては!』
「つっ! 雪花か!?」
篁は雪花の遺体を驚いて見た。どうやら、生き返ったわけではないようだ。
雪花の身体の上に光の玉が浮いている。雪花の声で篁から黒い殺気が消え始めた。
『わたくしはいつでも、篁様のお側におりますわ。ご心配なさらず、あなた様はあなた様の生き方を貫いてくださいませ』
「雪花!ありがとう」
篁は雪花の魂に微笑んだ。
『ふふふ……氷獄鬼の魂に救われたか』
声は中空に吸い込まれていった。篁は、声が消えた方をひと睨みすると雪花の方に向き直った。
「雪花……オレが必ず、おまえを転生させてみせる! それまでオレの
篁は、雪花の魂を抱きしめるように自分の身体の中に移した。篁の体が青白く光る。
「暖かい……これで、オレとおまえはいつも一緒だ」
篁は胸をさすり、涙をこぼして笑った。
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