第二十九話「急げ!一路、南の村へ」
「くそっ! くそっ! 私が、美夕を守ると約束したのに守れなかった!」
晴明は唇を噛みしめ、悔しそうな表情をして、地面を殴り続けている。
拳から血が流れている。もう一度殴ろうとした時。見かねた道満が止めた。
「もうやめろよ。晴明ちゃん! こんなの晴明ちゃんらしくないよ!自分を責める前にどうしたら、美夕ちゃんを救えるか。考えようよ!」
篁もうなずきながら、晴明の
「そうだぞ。晴明よ。まだ、追えないと決まったわけではない」
はっと晴明は顔を上げた。
「本当か!? 篁!」
興奮して篁の両肩をつかんだ。
晴明は焦っていた。自身で立てた、黒幕のふところに入るという
あげくのはてには、守るべき存在の美夕も、敵に奪われてしまった。
突然現れた、氷獄鬼によって道をふさがれて、俊足しゅんそくの白虎でもすぐには、追えなくなっていた。
空を飛べる朱雀は、深手を負い。頼みの綱の
まだこの頃の晴明には、鼻のきく式神はいなかった。
足の速い犬神に距離を離されて、追えなくなっていたのは明白だった。
そんな晴明を知ってか、篁は肩を叩いた。
「オレの
篁は気を落とす晴明に笑いかけ、壁を見上げた。
そして、晴明と道満に自分の式神で一番、力の強い者を呼び出すように言った。
晴明は白虎。道満は大猿の式神、赤猿。
篁は一つ目の大犬、蓮獄犬を呼び出し、いっせいに壁に向かって体当たりをさせた。
最初はびくともしなかったが、徐々ににヒビが入り力が加わると壁はガラガラと
大きな音を立てて崩れた。
「やった! やったよ。晴明ちゃん! 篁っっ!」
道満は、晴明の手を取り嫌がる篁の手を取って喜んだが、一瞬微笑んだものの。
正直晴明はまだそれだけでは、喜べる心境ではなかった。篁は蓮獄犬に飛び乗った。
「こいつで美夕の後を追う! 晴明、乗れ!」
晴明は吹っ切るように手を差し出した。
力強くうなずき、篁の手を掴んで飛び乗った。道満も後ろによじ登っている。
篁が、美夕の着物の切れはしを、
同時に蓮獄犬は、地面に残っている犬神の獣臭い臭いと、美夕の残り香をかいで感じ取った。
『ワン! ワン!!』
蓮獄犬は主人の篁に知らせた。
「そうか! 南かよし、
蓮獄犬の蓮星に命じると、蓮星は猛スピードで走り出した。
一路晴明一行は、美夕が連れ去られたと思われる南に向かった。
「美夕! 必ず助ける。無事でいてくれ!」
晴明は美夕の無事を祈った。
一方、美夕は南の村の空の下。恐ろしい犬神の背中の上で、光栄に捕らわれて縄が切れずもがいていた。
「いやーっ! 放して! 放してー!!!」
泣きながら叫ぶ美夕。
すると、光栄は美夕の髪の毛を強く、引っ張った。
「キャアッ!」
「うるさい! あまり騒ぐと、振り落として、殺してしまうぞ!!」
涙をこらえて、恐怖で思わず黙り込む美夕。
「晴明様……道満様。どうか、助けに来てください」
悲しげに、ぽつりとつぶやく。
「晴明もあの法師も、化生だ。お前と同様。
美夕は気丈にも、光栄をにらんだ。
「晴明様も道満様も、父様に負けないわ!そして必ず、助けてくれます!」
「クックク……小娘、強がりもいいかげんにしろよ? まるで、父上みたいだ」
その言葉を聞いて、美夕ははっとした。
「そうだわ!
「父上? 父上ねえ……ああ、ここだよ」
光栄は首から下げているガラスの首飾りを指さした。
美夕は、目をこらして見てみると、小人のように小さくなった保憲がもがいていた。
「ああっ! 保憲様!?」
美夕が青ざめて首飾りを奪おうとすると、パンッと美夕の手を叩き落とした。
「だめだよ! この人は、せっかく炎獄鬼様にこの中に封じていただいたんだ!僕が晴明より上だと、認めるまでね! あははははっっ!!」
「よくも、実のお父様を! この鬼!!」
美夕は、激しいいきどおりを覚えてにらんだ。
いきなり光栄は、美夕の頬を平手打ちした。
「調子に乗るな! お前は、生け贄という立場を理解して、いないみたいだな?僕はあの狐を殺すためなら、鬼にも邪にもなるさ。晴明、早く来い!無残に殺してやる。この犬神の力でな!!」
「晴明様、道満様。来ては、だめ!」
美夕は涙を浮かべて、強く祈った。
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