第二十七話「絶望の座敷牢」

 晴明、美夕、道満達は道長に捕らわれ、ほらあなの座敷牢に、入れられた。

 そこには、たくさんの混血たちも、捕らわれていた。


 美夕は捕らわれている人々を見ながら口を開いた。

「この人たちは、私たちと同じですよね?

 でも、目の色が普通の人もいます。どうしてですか」


 その言葉に道満が反応した。

「それはね、美夕ちゃん。俺の目の色は普通だろ? それだけ人の血が濃いということなんだ」

「そうですか……私たちはこれから、どうなるのですか。このまま、殺されるの?」


 瞳から涙がこぼれる。その時、一人の男がつぶやいた。

「そうさ! おれ達は狂った道長に殺されるんだ! あははははっっ!!!」

 狂ったように笑い出した。

「なんだと?」


 道満は怒って、男に馬乗りになった。

 殴ろうとした道満の腕を引っ張り、晴明は慌てて止めた。

「やめろ道満!この男も、自暴自棄じぼうじきになっているのだ」


 道満ははっと我に返り、男の上からおりた。

 しかし今度は突然、晴明に掴みかかった。

「晴明、お前…! 村人が、人質に取られていると言ったよな? 俺も三吉や村人は助けたい、だけど。村人のためなら美夕ちゃんをも、見殺しにするのか!?」


「それならば、私もお前に問おう! あの状況で何ができた。

 私は両方救うつもりでいたお前は美夕さえ、助かればそれで良いのか? 答えてみよ!」

「ぐっ、そんなこと言ってないだろ!?」

 視線と視線がぶつかる。



 道満は晴明を見ながら怒りに悲しみが混ざった表情でつぶやいた。

「美夕ちゃんと俺が家族と言ったのは嘘なのかよ……」

「それは……嘘ではない。許されないことだと思っている……

 お前にも、美夕にもすまない。覚悟は出来ている。殴れ」


 晴明はぐっと、歯を食いしばった。

「よーし! それじゃ、いくぞ!!」

 道満はこぶしを振り上げた。

 その時、美夕がツカツカと近づいて来て晴明の頬を軽く打った。


 ペチンと鳴った、頬を抑えて美夕を見る晴明。

 美夕らしからぬ、行動に目を見開いてびっくりしている道満。

「晴明様! おひとりで、こんなことをなさるなんて! もっと、もっと、

 私や道満様を信用してください!」


 美夕はうなだれて、ぶるぶると震えている。

 晴明は恐る恐る、美夕の肩を触った。

「だって……私達、家族じゃありませんか!」

 美夕は顔をあげて、晴明を真っすぐに見た。



 涙をためて、見つめている美夕をみて晴明の胸はきゅうっと締め付けられた。

 道満も美夕の肩を抱き、晴明の目を見た。

「美夕……道満、私は」

 晴明は、二人に頭を深く下げた。



 その時、牢の格子をすり抜け、黒い蝶が迷い込んできた。

 その蝶が、美夕のくちびるに触れる……


 蝶はみるみる、人の姿になった。その蝶は篁だった。

 たちどころに、真っ赤に変わる美夕の顔色。


 篁は美夕から離れると片目をつぶり。

「待たせたな! 助けに来たぜ?」と笑った。

「きゃ――!!!」

 美夕は驚きと衝撃で、悲鳴を上げる。

「このタヌキ! よくも、口づけしたな!?」


 晴明と道満は、ぶるぶると震え、つかみかかろうとした。

 口をあんぐりと開けて、見ている周りの人達。ひょいと、かわしながら篁は言った。

「まあ、待て。せっかく、助けに来たんだ。そう、いきりたつな。弾みだ弾み。

 口づけの一つや二つ、良いじゃないか! 減るもんじゃなし」

「うわーん! 減るもんっ!!」


 美夕が泣きながら、さけんだ。

 篁は牢の見張りから奪った鍵で、牢を開けて捕らわれの人々を開放した。


 捕らわれていた人たちは、篁達に礼を言って逃げていった。

 座敷牢の外には見張りが二人いたが、すでに篁が片づけていた。


 森の中を歩きながら晴明達は篁と話し合っていた。

「篁、まずは礼をいう。どこで私たちが捕まっていると知った?」

「それはな。屋敷に三吉という、童子が駆け込んできて慌てた様子だったのでな。

 たずねてみると、お前達が藤原道長に捕まったというじゃないか。お前達の気を

 たどってここまで、来たんだよ」


「そうか……三吉には、後で詫びと礼をしなくてはな」

「ああ、そうだな。それとオレは、重大な事をお前に伝えに来たのだ。


 実は、炎獄鬼が南にあるという村に潜伏しているという、情報をえたんだ」

「それとだな。お前達にはまだ、言っていなかったが。

 地獄から脱走した鬼は、炎獄鬼だけではない。

 兄弟の氷獄鬼、風獄鬼の二匹の鬼もいるんだ。炎獄鬼と共にいると、思われる……

 それらもあわせて、討伐して欲しい。オレも、もちろん力を貸そう!」



 美夕が篁に悲しそうなまなざしでたずねた。

「あの篁様。なぜ、地獄を脱走しただけで殺されなければ、ならないのですか?

 もし、二人の方は良い方だったら。討伐されるなんて、酷すぎます!」

 篁は少し困り気味にため息をもらした。

「それはな。美夕……それが、地獄の掟だからだ。

 あやつらは、地獄の官僚や四天王の一人をも殺めて反乱を起こした。

 このまま行けば、現世も冥府もひっくり返されてしまう……」

「炎獄鬼、氷獄鬼、風獄鬼は地獄の四天王の三匹だ。

 そんな鬼が、世に放たれたというだけで十分危険でこちら側の重大な責任なんだよ」


 すると、今まで黙り込んでいた道満が思いつめた表情で口を開いた。



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 ここまでお読みいただきありがとうございました。

 第五章に突入します。よろしくお願いいたします。

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