第二十五話「藤原道長」
ある日の昼間、美夕は庭の掃除をしていた。
「美夕ちゃん」
ふいに後ろから声を掛けられた。振り向くと道満が立っていた。
「ちょっと、散歩に行こうよ」
「良いですよ」
美夕は散歩に誘われて京の街のはずれの小さな村まで来た。
そこには、裕福ではないが心優しい人々が暮らしていた。
村の奥から小さな男の子が駆けてきた。
男の子は道満の姿を見つけると「道満兄ちゃーん」と飛びついてきた。
道満は人のよさそうな顔をさらにほころばせて
男の子の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「元気だったか? 三吉!」にかっと歯を見せて笑った。
「うんっ元気だよー!」
「これ、みやげ。唐菓子だ」
道満は甘い菓子を手渡す。
「わあいっ、ありがとう。」
三吉は、みやげを受け取り元気よく礼を言った。
「おっかさんは?」
「うちでご飯作ってるよ! 兄ちゃんと姉ちゃんも食べてく?」
「そりゃ、いいな! 頼むよ。美夕ちゃん行こう!」
美夕を振り返ると嬉しそうに「はーいっ」と答えた。
三吉は走りながら美夕と道満を導く。
その後ろ姿を見ながら道満は話しかけた。
「美夕ちゃん……三吉はとても、いい子なんだ。
普段はああやって明るくしてるけどまだ、小さいのに」
「まだ小さいのに」美夕は聞き返した。
「実はね……三吉の父親は藤原道長の家来に殺されたんだ!
父親が年貢が高いと抗議してそれで、見せしめに殺されたんだよ。
俺は絶対許せない!」握りこぶしを震わせて怒りの表情を見せた。
「何て酷い……」涙を浮かべて声を詰まらせる美夕。
その時、一人の村人が叫んだ。
「藤原道長公の牛車が来たぞーー! ひれ伏せーー!!!」
慌てて美夕、道満、三吉もひざまずき地面にひれ伏した。
藤原道長の乗った牛車が警護の武士達に囲まれている。
武士の一人が手ぬぐいを首に巻いている男性に近づいてきた。
村人一同に戦慄が走る。
「貴様の所は、年貢が少ないぞお! どう補うつもりだ?」
武士は嫌味たらしく言うと、男性の胸倉を掴み無理やり引っ張り上げた。
「ひいいっ! お許しくださいませ!」
男性は武士に許しをこうた。
「見せしめに殺せ!」
牛車の中から武士に声が掛かった。武士の鞘からギラリと鈍く光る刀が抜き放たれた。
武士は刀を振り上げて非情な刃で男性の首をはねようとした、
その刹那。どこからか小石が飛んできて腕に当たると刀を落とした。
「むっ!? 何奴!」眼球を血走らせ、視線をその方へ向けた。
その先にいた人物は、道満だった。
「お前ら! 三吉だけじゃ、飽き足らず。
その父親の子も、父なし子にするつもりか!」
鋭い眼光で睨んだ。
「うわーん。父ちゃーん!」
三吉は殺された父親を思い出して泣き出した。
「三吉ちゃん……」
美夕はたまらず、三吉を抱きしめた。
藤原道長は牛車の中から美夕を見ていた。
「金色の目…。化生か。なんとも美しく、
なんともうまそうな娘よ……
さぞかし、炎獄鬼様もお喜びになるに違いない!」
べろりと舌なめずりし何と、目が光った。
一方では、道満が武士を殴ろうとしていた。
「待たれよ」
牛車の方から声がして、あごひげをたくわえた、男性が現れた。
「藤原道長!」
道満は鋭く睨んだ。
「まあ、そう睨むな。化生の法師、蘆屋道満よ」
にやりと笑った。美夕はそれを聞いて、驚いた。
「道満様? 道満様が、化生!?」と道満を振り返った。
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◇今回の登場人物紹介◇
晴明をひいきにしている時の権力者。何かに取り憑かれている?
小さな村の子供、道満の友人。父親を藤原道長に殺された。
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