第十六話「化野の死闘」

 晴明、美夕、道満、篁は化野あだしのの林の中にいた。

 ここは、罪人達の墓が多い場所。カラスが飛び、薄暗く昼間でも不気味な雰囲気だ。

 時刻は昼過ぎになっていた。いよいよ、安倍晴明の試練が始まろうとしていた。

 それは篁が一万匹の野蛮で、残忍な血に飢えた冥道の鬼を呪術で呼び出し。

 晴明と戦わせるというものだ。



 夜明けまで戦い抜き、一匹残らず滅せられれば晴明の勝ち。

 逆に晴明自身が、殺害されたら負けである。

 その場合は篁が美夕を引き取り、冥府へ連れて行くことになっている。

 だから晴明は死んでも、負ける訳にはいかなかった。

 式神を使役する事は禁じられており、黒月や白月を呼ぶ事は出来ない。

 真の晴明の力が試される。連戦のため刀を使うことになった。



「―――冥道の鬼どもよ! 我の声に応えよ。ぬしらのにえはここにあり!」

 篁は呪を唱え、冥道の鬼を呼び寄せた。

 次々と地の底から、現れる血に飢えた異形の恐ろしげな鬼達。

 晴明は腰に下げている刀の柄を握ると、勢い良く抜き放ち構えた。

 篁は鬼どもが襲ってこないよう。自分達の周りに結界を張った。



『ウオオ~ン……我ラニ、血ト贄ヲ。血ト肉ヲ。ヨコセエエエッッ!!』

 鬼どもは口々に吠え、晴明に襲い掛かった。


「来いっ! 醜悪な冥道の鬼ども!!」晴明は語気鋭く叫んだ。

「晴明、死ぬなよ。」

「晴明様、死なないで!」

「晴明ちゃん。負けるな!」

 篁、美夕、道満は祈り固唾を呑んで見守った。



 晴明はまず、右から襲ってきた鬼を一太刀浴びせた後、右足で蹴り飛ばし

 左から来た鬼を一刀両断した。刀に呪力をまとい。

対魔たいま天空斬てんくうざん!」と叫びながら、気合と共に大勢の鬼目掛けて刀を振るった。


 すると、刀身から破魔の光の刃が発生し、鬼どもを呑み込み、切り刻んでいった。

「――強い! 晴明様が呪術だけじゃなく。剣術も使えたなんて!」

 と美夕が、興奮して思わず身を乗り出す。

 それと同時に、鬼どもの血肉を求める姿に青ざめた。



「私も、私も鬼になったら、のようになってしまうの?」

 道満が美夕の肩を抱き。

「大丈夫だよ、美夕ちゃん。晴明ちゃんを信じよう!」

『血ト、肉ヲ! 血ト肉ヲ!!』


 まるで、不死者のように地から這い出て、襲ってくる鬼達。

 晴明は、鬼どもを次々と切り捨てて浄化し尽くし

 辺りに鬼の血と肉が焼け焦げる異臭が漂う。



「はあ、はあ、はあ……力が! 力が足りぬ!!」

 烏帽子は取れ、長い黒髪が汗と鬼の返り血で肌にへばり付き、

 晴明自身も傷ついて、血が流れていた。

 もう、戦い始めてから数時間が経つ。晴明は片膝を付き疲労ひろう困憊こんばいしていた。



 しかし、ここで自分がやられてしまったら、美夕が地獄へ持っていかれてしまう。

 いくら篁が付いているとはいえ、大罪人の娘とあればどんな扱いをされるかわからない。そんな所へ行かせたくはない。晴明は、力を振り絞り立ち上がると、

 頭上から襲ってきた鬼を横一閃よこいっせんに切り裂いた。



『グギャアアアア!!』

 青い血飛沫ちしぶきをあげて、真っ二つにされる鬼。

 その時、長時間の戦いの疲労で晴明の目がかすみ、鬼への攻撃が外れた。

「しまった!」

 晴明はそう思った。その好機チャンスを逃す鬼ではなかった。



 鬼どもは晴明の右腕、左腕、右脚、左脚に鋭い牙で噛み付いた。

「うああああっっ!!!」

 顔面蒼白になり絶叫する晴明。晴明から、真っ赤な鮮血がほとばしる。

 鬼が次々と、晴明に群がり晴明の姿を隠してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る