第十七話「浄化の能力」

「いやぁああっっ!! 晴明様ぁあああっっ!!!」

 美夕が青ざめ泣き叫んだ。

「晴明ちゃーん!!!」

 道満が駆け寄ろうと、結界から足を踏み出した。その時。

「待て! 助けることは、オレが許さん」

 篁が、道満の手首を握って止めた。

「ちくしょう! なんでだよ!! 篁、この人殺し!!!」



 篁の胸倉を掴んだ。美夕も必死にすがりつき

「篁様! やめさせてくださいっっ! 晴明様が、

 晴明様が食い殺されてしまいますっ!! 私は、どうなっても……

 鬼になっても、良いですから。晴明様を助けて下さい!!」

 パンッ!

 何と、篁が美夕の頬を突然打った。赤くなった頬を押さえ、涙を浮かべる美夕。



 篁はチッと舌打ちをした。

「馬鹿野郎! どうなっても良いだと!? あいつが、どんな気持ちで戦っているか。お前にわかるか! 全て、お前を護りたい。お前を失いたくないが為に、戦っているんだぞ!!」

「そうかもしれないけど何で、お前が分かるんだよ」

 道満が怒り気味に睨んだ。篁はフッと微笑み。



「地獄の官吏をしていると、知らなくて良い事まで流れてくるんだよ……

 それに、さっき言っただろう? 晴明とは、あいつが童子の頃からの腐れ縁なんだ。

 嫌でも、気持ちがわかってしまうのさ。

 だから美夕、お前の心の傷もわからないではないが。

 信じてやれ。好きなんだろ? 晴明という男が」と微笑む。

「はい。晴明様のことが好きです! 大好きなんです!」

 ぽろぽろと瞳から涙を溢れさせた。



 篁は美夕の頬を撫でると、優しく赤色の目を細め

「叩いちまって、悪かったな……

 ほら、晴明が無事生還出来るように祈ってやれ。

 お前の声が一番、あいつの力になるんだからな」というと。

 美夕はうなずき、「晴明様、晴明様。お願い! 負けないで!!」

 と強く願い。晴明に向かって祈った。



 その時、

 美夕の身体が白銀に輝き、晴明に覆いかぶさっている鬼どもを照らした。

 それは、美夕の巫女の能力。浄化であった。

「晴明ちゃん!!」

 道満も祈った。道満は、手のひらから光を放ち鬼どもに当てた。

 そのことにより、更に美夕の浄化の力が高まった。

『ギ!? グギギイイッッ!!』



 鬼どもは、浄化の力に照らされて苦しみだし隙が出来た。

 晴明は、その好機を見逃さず空中に光の五芒星ごぼうせいを描き、呪を唱えだした。

「バン・ウン・タラク・キリク・アク!!」

 晴明が描いた五芒星から、赤い光がほとばしり鬼どもを蹴散らした。

 鬼どもの山から現れた晴明は刀を肩にかつぎ、

 月光に照らされた姿は狐の化生の姿だった。妖絶ようえんな銀色のあやかし。天狐、安倍晴明。

「うおおおおおっっ!!」晴明は、雄叫びを上げ吠えた。



 青白い狐火をまといながら、突き進んでいく。

 人の姿の時とは違い、晴明はまるで鬼神のような気迫と電光石火の速さで鬼どもを

 次々と切り裂いていく。徐々に夜明けが近づいており、最後の一匹の首を刀ではねた時。篁が「そこまで!」と、高らかに告げた。その時、結界も同時に解けた。

「晴明様!」

 美夕はたまらず晴明に駆け寄った。



 美夕が晴明を見ると、白い尻尾が血で真っ赤に染まり

 衣と皮膚が裂け、いたるところから血が流れ出していてとても痛々しかった。

 美夕はぽろぽろと、涙を流し

「ああ、ごめんなさい。ごめんなさい。晴明様……

 私のせいで、こんなに傷ついて。手当てしなくちゃ」

 と震える手で晴明に触ろうとした時。



 晴明の真っ赤な血を見て、美夕は思わず生唾を飲み込んだ。美夕は首を振り、

「いやっ! いやっ! こんな時に血が欲しくなるなんて、いやぁああっっ!!」

 と泣き叫ぶと、その場から逃げようとした。

 晴明は、美夕の手首を掴むと抱き寄せた。

「せっ、晴明様! 放してください! 私は、私はここにいてはいけない。人間なんです!」



 顔を真っ赤にし、涙を流す美夕。

「混乱するな、美夕。俺の血が欲しいか? 欲しいのならくれてやろう……

 ただし、これが最初で最後だ」と紫色の瞳を優しく細めると、

 腕から流れている血を美夕に見せ、美夕の口に腕を近づけた。

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