ほのぼの小話① 人間になりたい魔獣
「おれ、人間になりたい」
ある日突然、ワンコが言った。
ワンコは魔獣なんだから、ある程度成長すれば、言葉を覚えて喋れるようになるんだけど。
今まで「わんわん」しか言わなかったワンコが、いきなり喋ったら普通にビビるわ。
オレとキースがビビり散らかす中、フェリックスだけは普通にワンコと話している。
「わんわん、おしゃべり出来たにょ?」
「うん。フェリックス達が喋ってるのを聞いているうちに、言葉覚えた」
「そうなの? わんわんは、おりこうさんだね」
フェリックスはにっこりと笑って、ワンコの頭を撫で撫でした。
ワンコも嬉しそうに笑って、しっぽを振り振りしている。
幼い子供とワンコが、お喋りしているのが、なまらめんこい(とても可愛い)。
オレとキースは、ふたりのやりとりを黙って見守ることにした。
「わんわんは、なんで、人間になりたいの?」
「人間になれたら、色んなことが出来るようになるから」
「わんわんだと、出来ないことがあるにょ?」
「おれは、魔獣だから、街を歩くことが出来ない」
「ボクも、出来ないよ?」
「フェリックスも人間になれば、街を歩けるようになる」
「え? ボク、人間じゃないの?」
「フェリックスも、『魔の者』じゃないの?」
「ボク、人間じゃなかったの……?」
ほのぼのしているが、会話が微妙に噛み合っていない。
ふたりとも、天然アホの子か。
アホの子は、
ツッコミ不在のふわふわした会話を見かねたキースが、ワンコに変身講座を教え始めた。
「人間に変身するにはな、まず、人間を観察するんだ」
「観察? 良く見るってことか?」
「そうだ。人間のカタチを良く見て、頭の中でしっかりイメージして、全身に力を込めるんだ。ちょい、俺がやって見せるから、見てろよ」
「分かった」
「よっしゃっ、行くぜ! 変身っ!」
半人半獣のキースが、謎の決めポーズを取ると、全身が黄色い光に包まれた。
徐々に光が消えていくと、人間の姿に変身したキースが現れた。
「――っと、まぁ、こんな感じだな」
「キースしゃん、しゅごい! カッコイイでしゅっ!」
「だっろ~?」
ふふんと得意げに笑うキースを、フェリックスが拍手をして
一方、ワンコは首を
「う~ん……良く分からなかったけど、真似すればいいのか?」
「そう、
「うん、分かった」
ワンコが踏ん張ると、
少しずつ、ワンコの姿が変わり始めたのだが……。
残念ながら、大失敗。
二足歩行している犬の体に、人間の頭が乗っている。
顔の表情があきらかに犬だし、耳のカタチも犬。
なにそれ……スゲェ中途半端で、めっちゃ気持ち悪いんだけど。
ワンコは、得意げに笑う。
「どうだ? 出来たか?」
「いや、どうもこうも、お前、全っ然出来てないから。
「そうか……ダメだったか」
残念そうな顔をして、ワンコは元の犬の姿に戻った。
しょげているワンコを、キースが撫でながら優しく言い聞かせる。
「お前、イメージが
「う~ん……難しいな」
「じゃあ、フェリックスを良く見て、『こうなりたい』ってイメージしてみろ」
「分かった、フェリックスを見ながらやってみる」
ワンコは、しっぽを振り振りしながら、フェリックスをじっと見つめた。
フェリックスは、ワンコを見つめ返して応援する。
「わんわん、頑張れ~っ!」
「うん、おれ、頑張るっ」
ワンコが力を込めると、再び体が緑色の光を帯び始める。
また少しずつ、姿が変わり始める。
「どう?」
「まだ、かなり遠いな」
今度は、頭と胴体は人間のカタチをしている。
でも、両手と下半身は犬のままだ。
さっきよりはマシになったけど、人間になりきれていない犬。
人間と呼ぶには、程遠い(ほどとおい=かなり離れている状態)。
その後も、何度か練習したが、人間にはなれなかった。
顔や胴体までは上手くいくんだが、どうやら指の再現が難しいらしい。
何度やっても、手首から先、足首から下が犬の足になってしまう。
それに、犬のしっぽも消せていない。
結局その日は、ワンコが力の使い過ぎで疲れ果てて終了。
「ボク、わんわんが好きだよ」
失敗続きで落ち込んだワンコを、フェリックスが抱き締めて慰めていた。
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