「名前のない子供」のフェリックス視点
お父さんとお母さんは、ボクをたくさん愛してくれた。
「大好き」って、いっぱい言ってくれた。
ボクも、お父さんとお母さんが大好き。
「無能力の子」だって分かったら、ふたりともボクを嫌いになった。
笑ってくれなくなった。
手を繋いでくれなくなった。
抱っこしてくれなくなった。
頭を撫でてくれなくなった。
名前を呼んでくれなくなった。
「大好き」って言ってくれなくなった。
話し掛けても、聞こえないふりをされた。
冷たい目で、冷たい声で、ボクを責め立てた。
「なんで『奇跡の能力』を持っていないんだ」
「お前のせいで、私達はとんだ大恥をかかされた」
「お前なんか、生まなきゃ良かった」
「『ごめんなさい』って、一生謝り続けろ」
「無能力の子」で、ごめんなさい。
お父さんとお母さんに、恥をかかせて、ごめんなさい。
生まれてきて、ごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。
ボクは何度も謝ったけど、お父さんとお母さんは許してくれなかった。
真っ暗な部屋に、閉じ込められた。
お父さんとお母さんがボクを嫌いになったのは、ボクが悪いんだ。
「無能力の子」だった、ボクが悪いんだ。
「奇跡の力」を使えたら、きっとまた好きになってくれる。
それからボクは、色んなことをやってみた。
もしかしたら、ボクにも何か出来ることがあるんじゃないかって。
体に力を込めてみたり、何か出せないかと想像してみたり。
前に読んだ絵本みたいに、能力を使うマネをしてみたり。
いっぱいやってみた。
でも、何も出なかった。
これじゃ、お父さんとお母さんは、ボクを好きになってくれない。
悲しかった。
なんで、ボクは「奇跡の能力」を持ってないんだろう。
みんな、持ってるのに。
なんで、ボクだけ。
きっと、ボクが悪い子だから、「奇跡の力」を使えないんだ。
お父さんとお母さんに大好きになってもらえるように、良い子になりたい。
お父さんとお母さんに、「『無能力の子』なんていらない」って言われた。
お父さんとお母さんに嫌われて、教会ってところへ連れて来られて、ボクを置いて行った。
お父さんとお母さんから「絶対に、家へ帰ってくるな」と、言われた。
それを聞いて、ボクは捨てられたと分かった。
街のみんなは、ボクを「無能力の子」と呼んだ。
「フェリックス」って名前は、お前にふさわしくないって。
「無能力の子」には、もったいない名前だって。
そして、「フェリックス」は「無能力の子」って、意味になったって言われた。
「フェリックス」は、言っちゃいけない言葉に、なったんだって。
だから、誰も名前を呼んでくれなくなった。
呼んでもらえないのが、当たり前になった。
ずっと呼んでもらえなかったら、自分の名前が分からなくなった。
ボクの街では「フェリックス」は「口に出しちゃいけない言葉」だった。
「無能力の子」って、意味になったから。
お父さんもお母さんも、ボクの名前を呼んでくれなくなった。
ずっと、誰も名前を呼んでくれなかった。
でも、アーロンさんとキースさんとが、呼んでくれた。
「フェリックス」って。
嬉しい。
「名前」って、みんなあるのが当たり前だと思ってたけど。
呼ばれなくなったら、寂しかった。
名前を呼ばれるだけで、こんなに嬉しいものだったんだね。
「フェリックス」が有名な作曲家の名前だなんて、全然知らなかった。
キースさんが言うぐらいだから、きっとスゴイ人だよね。
そんな立派な人の名前を付けてもらっちゃって、良いのかなぁ。
でも、お父さんとお母さんが付けてくれたのも「フェリックス」だし。
また「フェリックス」って呼んでくれるのが、嬉しい。
たぶん、アーロンさんとキースさんは、街の人じゃないんだ。
だから、ボクが「無能力の子」だって知らないんだ。
ボクが「無能の子」だと知ったら、呼んでくれなくなるのかな。
こんなに優しいアーロンさんもキースさんも、ボクを嫌いになるのかな。
お父さんとお母さんも、優しかった。
街の人達も、みんな優しくしてくれた。
でも、「無能力の子」だって知ったら捨てられた。
街のみんなも、教会のみんなからも、嫌われた。
また、嫌われる。
また、捨てられる。
ひとりぼっちは、寂しい。
もう、ひとりぼっちはイヤだ。
絶対に「無能力の子」だと、知られてはいけない。
良い子にします。
ワガママ言いません。
言われたことは、全部守ります。
好き嫌いしないで、なんでも食べます。
悪いところがあったら、全部直します。
苦手なことも、出来るように頑張ります。
だから、お願いです。
嫌わないで下さい、捨てないで下さい、どうかお願いします。
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