「邪悪な魔の者」のボツ小話
【邪悪な魔の者】
「では、始め!」
「はいっ!」
俺が号令を掛けると、整列した候補生達が声を合わせて力強く返答した。
体力作りと身体強化の為、候補生達には街の肉体労働の手伝いをさせる。
たくましい若者達の力が、街の発展に貢献する。
街の人々にも、候補生達の顔と名前を覚えてもらえて、一石二鳥。
候補生って、何の候補生かって?
そりゃもちろん、勇者候補生さ。
森に住む邪悪な魔女を倒す、未来の勇者達。
勇者ってのはさ、強いだけじゃダメなんだよね。
人々を守れる優しさ。
人々に信頼される人望。
共に戦う仲間達と、協力して信じ合う絆(きずな)。
厳しい自然環境で生き抜く、知識と技術。
自分に合った武器防具の選び方。
壊れた武器の直し方。
怪我を負った時の応急処置。
食べられる動植物の見分け方と調理法。
ピンチをチャンスに変える戦略。
過酷な状況でも、くじけない根気。
弱音を吐かない強い心。
自身が持つ奇跡の能力を、最大限活用する方法。
候補生達を、心身ともに立派な勇者へ育て上げる。
それが、俺の役目。
「勇者養成所」ってとこの、指導員をやってんの。
つまり、学校の先生だな。
なんで俺が、勇者の育成なんてやってるかっていうと。
立派に育った勇者どもを、森に住む邪悪な魔女へ挑ませる為。
だって、ザコを何匹倒しても、つまんないっしょ。
弱い勇者より強い勇者の方が、倒しがいがある。
強い勇者を多少苦戦しながら倒した方が、楽しいもん。
未来ある若者の未来をぶっ壊すって、達成感もあるじゃん。
ここまで言えば分かると思うけど、俺の本性は魔の者。
弱い勇者じゃ歯ごたえがないから、自分で育てることにしたってワケ。
それに、勇者が来るのを待ってるだけってのも、退屈だしね。
だから、ヒマつぶしに人間に変身して、勇者を育成してんだよね。
特に目を掛けてんの(お気に入り)は、
「能力鑑定所」で「勇者の素質を持っている」と、鑑定されたそうだ。
それだけで、十分すぎるぐらい価値があるんだけどさ。
なんとコイツ、フェリックスの弟なんだって。
人間達の話では、「無能力の子は、魔女に喰われた」ってことになってるらしい。
エリックは「兄さんの
兄の
バカだねぇ、フェリックスは今も生きてるのに。
エリックは何も知らず、自分と同じ人間の作り話に
可哀想なヤツ。
真相を知った時が面白そうだから、今は黙っとこ。
※初期設定のキースは、今と全然違いました。
人間に擬態して自分の手で育て上げた勇者を、魔の者として殺すのが趣味の
「魔女と無能力の子」の蛇足小話集。 橋元 宏平 @Kouhei-K
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます