「出会い」のフェリックス視点
【魔女と初めて会った後、行き倒れるまで】
森の魔女にも、見捨てられた。
魔女は、ボクの仲間じゃなかったらしい。
最後の希望だったのに。
ここも、ボクの場所ではなかった。
もうどうしたらいいのか、わからない。
とりあえず、魔女に教えてもらった道を、トボトボと歩く。
しばらく歩いて行くと、見慣れた街並みと街の人々が見えた。
聞き慣れた街の音、どこかから漂ってくるご飯の匂い。
見慣れた光景に、ホッとする。
その時、教会の人の言葉を思い出した。
『無能力のお前は人間ではない。だから、街外れの森に住む魔女の仲間だろう。お前の住む場所は人間のいる所ではない、本来居るべき場所に帰りなさい』
ダメだ、街には戻れない。
「奇跡の力」を持ってない、ボクは人間じゃない。
魔女の仲間でもない。
じゃあ、ボクは何?
『本来居るべき場所』って、どこ?
魔女からも、戻って来るなと言われた。
じゃあ、どこに行けば良いの?
街から離れ、魔女がいる森からも離れ、ひたすら足を動かすしかない。
木も草も、虫さんも鳥さんもウサギさんも、みんな自分の場所があるのに。
ボクには、どこにも場所がない。
ボクの居るべき場所は、お父さんとお母さんのおうちじゃなかったの?
三歳までは、お父さんとお母さんは、とっても優しくて幸せだった。
街の人々も、みんな優しかった。
でも、ボクが「無能力の子」だと分かると、みんな冷たくなった。
お父さんとお母さんも、ボクを捨てた。
みんな「無能力の子」だって、ボクをいじめる。
なんで、ボクだけみんなと違うの。
ねぇ、誰か教えてよ。
悲しくて寂しくて、泣きながら歩く。
目が痛い、喉が痛い、頭が痛い、足が痛い。
ヒドい耳鳴りがする。
全てが、ぼやけてゆがんで見える。
空は白、木と草と地面は黒。
いつから、白と黒以外の色がなくなっちゃったのかな。
体が重くて、思うように動かない。
喉が痛くて、口の中が乾いて痛い。
水が飲みたい。
水の匂いを嗅ぎとり、匂いをたどって歩く。
早く水が飲みたいと、気ばかり焦る。
足を引きずるように、のろのろ動かす。
森が開けて、小さな泉が見えた。
やっと、水を見つけた。
でも、あと一歩が届かない。
気が付くと、うつ伏せで倒れていた。
いつのまに、ころんだんだろう。
もう、うごけない。
あたまがおもくて、ぼんやりする。
ねむい。
おみずだ……おいしい。
でも、たりない。
もっとちょうだい。
口に触れたものに、必死にチューチュー吸い付いた。
「お? 分かった分かった、やるから」
男の人の声が聞こえて、抱っこしてくれた。
あったかくって、気持ち良い。
抱っこなんて、いつ振りだろう。
ボクが「無能力の子」だって、分かってから?
あれから誰も、手すら繋いでくれなかった。
人肌の温かさが、たまらなく恋しい。
抱っこって、こんなに気持ち良かったんだ。
こんなに優しくしてもらえるのは、本当に久し振り。
とっても嬉しい。
もっと、優しくして。
お願い、離さないで。
優しい男の人の胸に、しっかりとしがみつく。
そしたら、美味しいお水をまた少しずつ飲ませてくれる。
何度も何度も、いっぱいくれる。
本当に優しい人だ。
こんなに優しくしてくれる、この人は誰?
目を開けたら、いなくなったりしない?
恐る恐る、目を開けてみる。
目の前にいたのは、黒いローブを着た、知らない男の人だった。
なんだか、優しそうな人。
ううん、ボクを抱っこして、美味しいお水をくれた、とっても優しい人。
ボクみたいのに、優しくしてくれるなんて。
もしかして、ボクが「無能力の子」だって、知らないのかな。
ボクが「無能力の子」だって知ったら、この人もきっと嫌いになる。
イヤだ、嫌いにならないで。
ずっと、抱っこしてて。
絶対に「無能力の子」だってことは、隠さなくちゃ。
男の人は大きな手で、頭をよしよしと撫でてくれた。
撫でられるのも、久し振りで気持ち良い。
もっと撫でて欲しくて、手に頭をすり寄せた。
男の人はくすくすと笑って、撫で続けてくれた。
やっぱり、とっても良い人。
男の人は、柔らかい声で聞いてくる。
「お前、お父さんとお母さんは?」
「捨てられました」
首を横に振ると、男の人は悲しそうな顔になった。
「そっか、捨て子か。お前、名前は?」
口を閉じて、もう一度首を横に振る。
名前を言ったら「無能力の子」だと、分かるかもしれない。
この人に、嫌われたくない。
どうしても、名前を言うワケにはいかなかった。
男の人は、少し怒ったように顔をしかめる。
「何? お前、名前もねぇのかよ? 捨てるわ、名前も付けねぇわ、ヒデェ親だな」
ひとつ大きくため息を吐くと、力なく笑った。
「しょーがねぇなぁ、オレが拾ってやるよ」
「えっ? 拾ってくれるんですか?」
信じられずに聞き返すと、男の人はニカリと笑ってくれた。
「持ち主がいねぇなら、拾ったオレのもんだべや。イヤか? イヤならやめるけど」
「イヤじゃないです! 拾ってくだしゃいっ!」
「よし。今からお前は、オレのもんだ。お前の名前は……あとで考えればいいか」
男の人は、ボクを抱っこしたまま立ち上がった。
どこかへ向かって歩きながら、名前を教えてくれた。
「オレの名前は、アーロン。アーロンでいい」
「あーりょんしゃん」
思い切り噛んじゃったら、アーロンさんが「ふはっ」と吹き出して笑った。
※初期設定では、フェリックスは敬語で喋っていました。
アーロンのことも、「アーロンさん」と呼んでいました。
「幼児なのに、敬語を使うなんておかしい」と思い、子供らしい口調に訂正しました。
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