第2話 シャーロット=ディザスターという女


 そのあと、言われるままに職員室に赴けば、どうやらは、本人を待たずに終了していた。

 どうやら先生方になって手に負えなくなって僕を呼び出したらしい。


 平和に終わったのはいいけど、人を身代わりみたいにするのはやめてほしい。

 というわけで再び平和な学園生活が返ってきたわけだが、


「今日も無事に乗り切った――」


 苦手な礼儀作法の補習が終わり、疲れた息を吐く。

 今回の試験は、自分でも自信のあるなかなかの手ごたえだった。


 入学したての頃より、だいぶ洗練されたんじゃないかな。


 さて、はやく屋敷に帰らなきゃ、と席を立とうとすれば、やけにきらきらしたお嬢様の集団がボクを取り囲んでいた。


「あら、ワトソンさん、ごきげんよう。そんなに急いで今日はどちらに向かうのかしら? 予定がないのでしたら少しお茶でもと思ったのですけど」

「あー、ごめんなさい。今日はシャーロットとお茶会の約束がありまして」


 嘘だ。

 だけどせっかく面倒な授業から解放されたのに、昼間みたいな面倒ごとはごめんだ。


 それに、この子ら、ボクをハメる気満々だしね!

 

 同じ下級令嬢に別れの挨拶をかわし、そそくさと教室を後にし、廊下を優雅に歩き、学園の門をくぐる。

 校舎を出るまでがお嬢様。

 いちいち貴族らしいことを意識しなくちゃいけないから面倒くさいけど、いつだれが自分の揚げ足を取ろうとするかわからないのだ。


「――っと、そうだった。おやつ買ってこないと」


 行きつけの洋菓子店により、おととい予約していたケーキを注文する。


「ええ、先日予約していたエマ=ワトソンですけど」

「はい、お待ちしておりました。特製ミルクケーキですね。二つ合わせて1000ポイントになります」


 学生鞄から生徒手帳を取り出し、店員に渡す。

 うう、毎月10万ポイント支給されるとはいえ、あと10日しのがなくてはならないとか地獄すぎる。

 生徒手帳に書かれた『9900ポイント』に視線を落とし、肩を落として店を出る。すると背後から、何かクスクスと笑う声が聞こえてきた。


「ご覧になって」

「予約制ですのに」

「笑っちゃ悪いですわ。あの方は下級令嬢。わたくしたちとは違うんですのよ」


 笑っている視線の先にいる女子生徒を見る。

 どうやら新しく補充された『新入生』らしい。

 見たところ下級令嬢みたいだし、お使いでも頼まれたのかな?


「あ、あのどうしてもお譲いただけないでしょうか?」

「申し訳ございません。こちら予約制になっておりまして。予約されている方しかお売りできない決まりになっておりまして」

「そんな!? 先ほどの方は予約なしでも買えたではありませんか」

「先ほどのお客様は上級令嬢でございます。申し訳ございませんがお客様のランクですと難しく――」

「レナーテ様にすぐに用意するように言われましたのに。どうにかなりませんか?」


 ああ、なるほど。

 彼女の反応からして、どうやら派閥内での嫌がらせを受けているのであろう。


 ありとあらゆる自由が許されているノブレスオブリージュ女学園。

 ここは、貴族の令嬢として貴族社会を円滑に回すにふさわしい令嬢を育成する場所だ。

 彼女たちが必要だと判断したのなら、他人を出し抜き、陥れ、権力にものを言わせ他人を操るといった具合に、ありとあらゆることが許されている


「それもこれも、すべてはこの学園を統べる王族の伴侶にふさわしい令嬢になるための資格を勝ち取るため、か」


 まぁボクには関係ないことだ。

 それに、ここではあんな風景はどこにでもある。

 いちいち気にかけていたらこっちが気疲れする。

 だけど――


「まぁ、しかたないっか」



 結局、特製ケーキは例の下級令嬢に渡してしまった。


 しきりに感謝されたけど、正直惜しいことをしたと思わなくもない。

 だって、特製ミルクケーキだよ?

 貧民街にいた頃は、あんなおいしいもの食べたことなかったのだ。

 どうしたって後悔のほうが大きくなる。

 なにより――


「買えなかったって言ったらまた不機嫌になるんだろうな」


 頭の中のわがままお嬢様を思い浮かべ、貴族らしくない溜息を吐く。

 まぁこの不幸体質もあるし、下級貴族だったせいで買えなかったとごまかせば、納得してくれる――わけないか。


 、それだけは絶対にありえない。


「はぁ、今度はどんな無茶ぶりを要求されるんだろ」


 この前は犬の散歩刑だった。

 今回は学園の食堂で裸踊りさせられる可能性だってある。


「正直、何を要求されるか考えただけで気が重いって」


 そうして第221学生街にあるひと際古い洋館――『シャーロット探偵クラブ』とデカデカと書かれた仮住まいの扉に手をかける。

 さーて、今日はオーガが出るかナーガが出るか。

 ええいままよ、と勢いよく間借りしている一階の私室の扉を勢いよく開ければ、そこには見知らぬ裸の令嬢がボクのベットの上で横になっていて、


「おや、ワトソンくん。ずいぶんと早いご到着だったね」


 まるで悪戯がバレたかのように唇を尖らせ、白い肌を惜しみなく晒す、すっぽんぽん銀髪美少女――シャーロット=ディザスターが組み敷く寸前のかたちのままボクを出迎えるのであった。


――

ここまでお読み頂きありがとうございます!

いよいよ、ヒロイン貴族令嬢の登場になります!

ここから激しく物語が動き出します。


今後の展開。素っ裸なお嬢様の裸体の続きが気になる方は、

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探偵令嬢は暴露したい。~貴族学園、平民、入学、とくれば何も起きないはずはなく~ 川乃こはく@【新ジャンル】開拓者 @kawanoue

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