#23 ボーイ・ミーツ・ガールズ。

 ――……。


 ……ん?


 お、もう朝か。

 ふあーあ、良く寝た。


 久しぶりに土の中で寝たけど、やっぱり悪くないね。

 日の出と同時に光を浴びる感じがなんかこう、すごくスッキリ。


 私はふと、地面を見下ろす。


 お。


 おおおおおおお!


 ま、魔王さんがまだ寝ている!


 うわあお!

 魔王さんの寝顔初めて見た!

 でもそれはそうだよね。

 いつも私の方が早く寝て、朝日と共に起きるんだもん。

 見れるわけがない。

 

 やったあ!

 可愛いー!

 なんだあ!

 いたずらしちゃおっかなあ!

 えへへへえ~。


 え。


 あれ?


 ちょっと待てよ。


 魔王さんが寝てるのに、どうして太陽が出てるんだろ?


 んん??


 ……。


 そうか。


 魔王さん、とうとう太陽の予約が出来るようになったんだ!

 ただでさえすごいのに、さらに進化しているなんて!

 まだ伸びしろがあるなんて!


 はああ、魔王さんってホントすごいなあ。

 

 私も早く立派な太陽を作れるようにならなくちゃ!

 伸びしろだけはあるわけだし!


 よーし!

 それじゃあ早速朝練だあ!


「さあ私の筋肉! 朝だよねえ! 朝なんだよねえ!?」


 よし!

 効いてるよ効いてるよ!


 じゃあお次は魔法の練習をしよう!

 えーと。

 両手を前にかざして。


「朝日を浴びたらぽっかぽか! うーん、眩しくて何も見えないよ……。爆ぜろ天! 轟け地! 我が肉体を、粉々に打ち砕けええええええッ‼」

「ストップストップ! 奈落ちゃん、また滅茶苦茶な詠唱になってるよ?」

「うわあああ!」


 ま、魔王さん!

 いつの間に!


「魔王さん、お、起きちゃったんですね」

「うん、なんかすごい喋ってたから……」

「あう。起こしちゃいましたか」

「気にしないで! おはよう、奈落ちゃん!」

「おはようございます、魔王さん」


 がばっ。


 へ?


 突然、魔王さんに抱きしめられた。

 そして、ふわりと香る、バラの匂い。

 

 うん、いい匂い。

 すごく落ち着く。


「それにしても、すごいね! この太陽!」

「……あ、はい。そ、そうですね」

「魔法覚えたてでここまで出来るなんて! 奈落ちゃんは天才だよ!」

「え? て、天才? そ、そうですか? いやあ、えへ。えへへへへへ」


 抱きしめられた上に褒められたあ。

 嬉しい。

 えへへへえ。


 ……。


 あれ?


 いや違う違う、そうじゃない。


「あの太陽って、魔王さんが予約したタイマー太陽じゃないんですか?」

「え、わたしタイマー太陽なんて作れないよ。奈落ちゃんじゃないの?」


 おろろろろろ。

 魔王さんが作ったんじゃないの?

 じゃあいったい誰が?


 魔王さんが、太陽に手をかざす。


 あれかな。

 魔力感知とかいうやつで、誰が作ったか分かったりするのかな?


「あ。これ……!」


 するみたい!


「……ヘルちゃんだ。あの子が作ってくれたんだ……」


 へ、ヘル様!?

 なんで!

 どうして!?

 

「たぶん、わたしの負担を減らそうとしてくれたんだね。それならそうと、王宮を出る前に言ってくれればいいのに」


 いいや、ヘル様は言わないだろうなあ。

 そういうところ、素直じゃなさそうだもの。


 そして魔王さん。

 言ったら言ったで、きっと魔王さんは『大丈夫だよ!』って言って断っている気がするよ。

 想像できる。


 でも、魔王さん嬉しそう。

 なんか、私も嬉しい。

 

「あ! 見て、奈落ちゃん!」


 突然、魔王さんの顔が険しくなり、前方を指差した。


 カー。カー。


「いだ! いだだだだだ!」


 あーっ!

 カラスどもが誰かを襲ってる!

 私以外にも襲うのかカラスどもは!


「大変! 助けなくちゃ!」


 魔王さんは走り出しながら、両手で火球を作る。


「コラー! フギンちゃんムニンちゃん! やめなさーい!」

「あ、ま、魔王さん!」


 警告と共に放たれた火球は、見事カラスどもを追い払うことに成功した。


 ボォォォォン。


「うぎゃああああ!」


 襲われていた人は火球の直撃を受けて、真っ黒になりながらその場に倒れ込む。


「ふう、危ないところだった」


 魔王さんが達成感に満ちた表情をしている。


 ……。

 

 うん。

 よ、よーし。

 救出成功だ!

 やったね魔王さん!

 

「大丈夫? ケガはない?」


 どう見てもケガはありそうな丸焦げの人に、魔王さんは手を差し伸べる。

 こんなのマッチポン……。

 ……ううん。

 ……やっぱり魔王さんは優しいな!


「うん、大丈夫! 助けてくれてありがとう、おねーちゃん!」


 ああ、大丈夫なんだ。

 良かったあ。


 カラスどもに襲われてた人、よく見たら子供かな?

 身長は、私たちの腰くらいまでしかない。

 でも横幅はすこし大きめ。

 魔物かな。

 人間ではなさそう。

 目がつぶらでかわいい顔してる。

 手には金槌を持ってる。


 うーん。

 凶悪な魔物には見えないなあ。


「キミはどこから来たのかな? おうちはどこ?」


 魔王さんは腰を落として、目線を合わせながら笑顔で問いかける。


「分かんない。探検してたら知らないとこ来ちゃった」


 ありゃりゃ、迷子かあ。

 うん、とりあえず凶悪な魔物ではないよね。

 確信!


「ちなみに、キミは魔族、なんだよね?」

「うーん、どちらかというとボクは人間が好き! だからちっちゃいおねーちゃんのことは好きだよ!」


 質問と回答が噛み合ってないけれど、とりあえず私を指差している。

 ちっちゃいおねーちゃんとは私のことらしい。


「でも、おっきいおねーちゃんも優しいから好き!」

「ふひひ、ありがと!」


 おっきいおねーちゃんは魔王さんのこと。


 ちょっと待って。

 私と魔王さんの身長は大して変わらないですよ。

 何を見てちっちゃいおねーちゃんなんです?

 んんん?


 あ。

 

 そんなことよりも。

 片手に金槌……?

 

『――お小人族は道具作りの天才! 金槌一つでどんなものでもお作り遊ばせるのですわ~!』


 あ!

 この子、もしかして!


「キミ、お名前は?」

「ボクはスルト! 偉大なるムスペル族のスルトだよ! 夢は英雄になることなんだあ!」





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