#20 勇者になりたい。
――業務連絡ッ!
私たちは謁見の間へやってきました。
玉座と同化する、我が主のもとに。
「なんじゃ、三人でぞろぞろと。掃除が終わった顔には見えんな」
はいその通り。
なんならもっと散らかりました。
ま、それは置いといて。
「……ガルム紳士の行き先が分かりました」
私はシンモラさん曰く『未知のお宝』を片手で掲げて見せる。
魔縄グレイプニル。
私を奈落に封印した、因縁の道具。
魔王さんはニヤリと口角を上げながら口を開く。
「フェンリルも奈落へ封印されたとき、このグレイプニルが使われたみたいだね」
「ああ、そうじゃな」
「魔縄が放つ強力な魔力を辿ったら、奈落にもう一つ、全く同じ魔力を発見したの。つまりそこにグレイプニルがある。魔縄に繋がれたフェンリルがいる」
ヘル様は俯きながら、深いため息をついた。
この反応、やっぱりヘル様は知ってたのね。
でもそれを私たちに教えなかったのは……。
「……確かにガルムが向かった先はそこじゃ。だがもう、行っても無駄じゃぞ」
「どういう意味?」
「その場所にガルムの魔力は無い。行っても奴はおらんということじゃ」
え、そーなの?
じゃあガルム紳士はいったいどこいっちゃったのよ。
「で、でも。そんなの行ってみなきゃ分からないよ! わたしと奈落ちゃんで、ヘルちゃんの代わりに確かめてくるから! だから行かせて、その場所に!」
うんうん、そうだよね。
魔力の感知っていうのがどういうものなのか私には分からないけど。
とりあえず実際に見てみないと、それこそ何も分からない。
ヘル様は俯いたまま黙ってしまった。
うーん。
ガルム紳士が言っていたよね。
過去にお兄ちゃんを探しに行って、戻ってきた者はいないって。
そしてそれが今や、ガルム紳士もその一人になってしまった。
それを考えたら、ヘル様が行かせたくないのも納得してしまう。
「……勇者、お主はどうなんじゃ? 魔王はこう言っておるが、お主も本当に同じ気持ちなのか?」
私……か。
私は結局、何が正しいのか未だに分からずにいる。
でも。
でも、それなら……。
『――そう、こんな時は反省だ! 大反省会、開催だ!』
私がこの奈落に封印されたのは、仲間を
自分本位に振舞って、自分勝手に旅をして。
一緒に旅をしてた仲間の名前すら憶えてなかった。
だから、私は変わらなくちゃいけないって思ったんだ。
変わらなくちゃ、ここを抜け出せたとしても、きっとまたいつかどこかで奈落に落ちる。
その時の反省を活かせているのかは分からないけれど。
でも今は、こんな私を友達と呼んでくれる人がいる。
それなら、信じよう。
信じて、後悔しない選択をしよう。
自分のことは信じられなくても、私を友達と呼んでくれているみんなを信じればいい。
「ヘル様、私も魔王さんと同じ気持ちです。……旅に、出たいです」
「奈落ちゃん……!」
「行っても無駄じゃと、言うておるのにか?」
ヘル様はまっすぐな視線をこちらに向けている。
「……実は私、旅に出たいなんて思ったの、生まれて初めてなんです。伝説の剣を抜いた時は沢山の人に背中を押されて旅に出て、よく分からないまま旅をして。そもそも勇者になろうなんて気持ちも自覚も、これっぽっちも無かった。……案の定その人たちの期待に応えることは出来なかったんですけど。……でも今は、そうじゃないんです」
『――わたしたち、もう友達でしょ?』
『――お二人とお友達になれて。ワタクシ、とっても幸せですわあ~!』
『――ヘル様をお願い致します。……我が友よ』
「……友達の願いを叶える。友達の危機を救う。……多くの人を救えないなら、せめてそんな勇者に私はなりたい。……だからお願いしますヘル様。私達に行かせてください。ガルム紳士を助けに。ヘル様の代わりに……!」
ヘル様は俯いたまま、さらに深いため息をつく。
しばしの沈黙。
そして、半ば諦めたように、呆れたように顔を上げて、笑った。
「友達を救う勇者、か。なんとコミュニティーの狭い勇者じゃ!」
「あう」
「……じゃが
ヘル様が、微笑んでいる。
ヘル様ごめんね。
勇者なんて呼ばれているけど、きっと私に人類を救うことなんて出来はしない。
ましてや、みんなを幸せにすることだって。
だからせめて、友達だけは守らせてください。
私はただ、友達が太陽みたいに笑ってる姿を見たいだけなんです。
笑顔を見ると、心が晴天みたいにスッキリして嬉しくなっちゃうんです。
ヘル様、今のあなたの笑顔みたいな。えへへ。
あれ。
結局私、自分本位なのは直ってないのかも?
それに、これを言ったら『誰が友じゃ!
やめとこ。
ヘル様は首を左右に振りながら、深い深いため息をついた。
「……仕方ない、旅に出ることを許そう。
「やったあ! やったね奈落ちゃん!」
「……はい! ヘル様、だーいすき!」
「ただし条件がある!」
「キタ!」
「
私と魔王さんは顔を見合わせる。
そしてゆっくり、大きく頷いた。
「「はいッ‼」」
――――#20 勇者になりたい。
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