第9話 僻地への誘い⑨

 岡本浩太と風間真知子が戻って来た。結構な時間ドライブに行っていたのでタウンジー周辺は粗方見れたかも知れない。


「特にそれらしき場所や情報はありませんでしたね。」


「たった一日で諦めると言うの?他人事たと思って気持ちが入ってないわね。」


 瞳は少し苛ついて辛辣になっている。自分では理由が判っていない。


「とりあえず見える範囲は、ってことだね。なんとなくだけど、知っていて隠している風にも感じることが有ったんで、近くはないかもしれないけど遠くもない、ってとこかな。」


 最後の詰めはマーク=シュリュズベリィからの情報だろう。その辺りは火野も期待していた。一緒にセラエノで本を漁った仲だ、マークならなんとかしてくれるはずだ。


「綾野先生はもう少し待って欲しい、と仰っていました。それまで仲良くやっててくれとも。」


 浩太はわざと瞳に向きなおして言った。どうも真知子に敵対心を顕わにしているように見える。浩太としては辞めて欲しいと思う。真知子はまったく気にしていないようだが。


「まあ協力してくれるのは有難い。情報もな。正確な情報だともっと有難い。」


「そうなることを僕も心から期待していますよ。」


 とりあえず今日のところは、と浩太と真知子が部屋に戻って行った。それが同室なのを見て瞳は安堵の表情を浮かべるのだった。


「やっぱりそうよね、とういう事よね。」


「何?どうかした?」


 瞳の独り言を亮太が聞きつけて反応する。瞳は少しにやにやしながら無視して自分の部屋に戻った。


 タウンジー大学から戻った時の打合せ場所になっていた火野の部屋は、火野一人になった。


 コンコン。


 ドアがノックされた。


「どうぞ、開いていますよ。」


 入って来たのは早瀬宗一郎だった。


「そろそろ来られるんじゃないかと思っていました。あなたか本山さんでしたか、若しくは西園寺さんが。」


 早瀬宗一郎は日本の内閣情報室11課長で本山は早瀬の部下だ。ツ―マンセルなので本山も来ているのだが、ホテルの別の部屋で待機させている。西園寺とは警視庁公安五課(公式には五課は存在しない)の課員だった。


「まあ、はいそうですかと自由にさせる訳にも行かないのだよ、判っているとは思うが。」


「俺は警告しましたよ。覚えていますか?」


 早瀬は当然覚えている。火野たちの行動に枷を掛けることはナイ神父と敵対することに直結するのだ。ただ、それで何もしない、という訳にも行かないのが早瀬の立場だった。


 元々ナイ神父や星の智慧派と同盟関係にあるわけではない。彼らの目的からすると必ず敵対することになるだろう。それが火野の件でも敵対することになるだけだ。それが早瀬が行動を起こした唯一の理由だった。上司に逆らえない、という側面もある。上司は早瀬や本山の命など全く気にしていなかった。もちろん自身の命も、だが。それが日本国のためになるのなら、当たり前の話なのだ。


「勿論覚えている。だが立場的には無理なのもまた事実なのだよ。君たちを自由にさせてはおけない。拘束しろ、というのが上の判断だ。大人しく従ってはくれないか。事を荒立てたくはない。それは君も同じだろう。」


 確かに火野には事を荒立てる気はない。だがそうなってしまっても仕方ない、と割り切っていた。


「会いに来るだけなら特に何もないでしょうがあからさまに邪魔をされるなら、覚悟してもらわないといけないと思いますよ。」


 火野にしても確信がある訳ではない。ナイ神父の介入が無ければ無いで自分たちだけで切り抜けるだけだ。今は特に岡本浩太もいる。軍隊でも来ない限りなんとかなりそうだし、さすがに内閣情報室二人ではどうしようもないと思われた。


「その自信が裏目に出ないといいがな。」


 早瀬は捨て台詞を残して部屋を出て行った。今日直ぐに拘束しようとしている訳ではないようだ。話し合いで、というのが政府の方針だとすると、たちまちは大丈夫だろう。明日からは気を抜けない日々が続きそうだった。

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