第8話 僻地への誘い⑧
「どう思う?」
「かわいい娘ね。」
「何の話だ?」
「あの瞳って娘のことでしょ?」
真知子は態とそう返した。浩太を揶揄っているのだ。
「確かに可愛い娘だよな。」
浩太も判っていて応える。
「もう、いい加減にしなさい。さっさと行くわよ。」
浩太も実は火野と会った時の真知子の反応が気になってはいた。元々一緒に行動することが多かった二人だ、何かしらの感情が湧いていても不思議ではない。ただ今の所二人ともにそう言った何かしらの感情の起伏は見受けられなかった。
二人はレンタカーでタウンジー周辺をドライブがてら流してみた。自然豊かな風景が広がっている。近くに湖もいくつか点在してはいる。ただし、その中にアラオザルが見つけられるような湖は無かった。
「タウンジー近辺というのが間違っているんじゃないの?」
「タウンジー、というよりシャン州を中心に探しているんだと思うけどね。いずれにしても中々見つかりそうにはないな。マークさんからの情報を待つしかないか。」
そこへ綾野祐介から国際電話が入った。
「浩太、現地に入ったかい?」
「はい。火野さんとも、もう会いました。今は真知子とタウンジー周辺を探索しているところです。」
「探索と言う名のデートってやつか。ほどほどにしておかないと火野君や瞳君に怒られるぞ。」
綾野の洞察は鋭い。全部お見通しのようだ。
「それで先生、マークさんから何か連絡がありましたか?」
「いやまただ。珍しく手間取っているようだな。いずれ何らかの情報をくれるとは思っているんだけどな。まあ、それまではみんな仲良くやっていてくれたまえ。当座の資金は送っておくから大切に使うように。」
綾野の活動の結構な時間が金策に取られているのが現状だった。浩太は申し訳なかったのだが金を稼ぐことが出来ていなかった。真知子も同様だ。なので二人は現場で綾野の役に立つことが使命だと思っていた。金策は綾野と結城良彦に任せっきりだった。
二人は車を停めて商店が並ぶ辺りを歩いてみることにした。この辺りの言語はタイ語が多いので、事前に真知子はタイ語を習得していた。風間真知子は元々日本語、英語、スペイン語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、アラビア語、ラテン語、北京語、韓国語が話せた。特に一生懸命勉強したことはないらしい。耳から聞けば覚えられるのだそうだ。浩太が真知子を連れて来た理由の一つだった。
真知子は片っ端から聞き込みをしてみた。シャン州にある湖に浮かぶアラオサルと言う都市を知らないか、と問うとみんな知らないと答える。緘口令でも引かれているかのようだ。
「駄目ね、誰一人知らないか、誰も知ってても教えてくれない。自力で探すしかないのかしら。」
誰もがアラオザルの名前を出した途端、余所余所しくなって何も応えてくれなくなる。やはり知らないと言うよりは知っていて隠している、と言う感じが強い。それだけに話を聞くのは難しそうだった。ただ、情報が得られないことと反比例してこの近くにアラオザルはある、ということは確信に近づきつつあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます