第63話 悪役貴族VSエルフの里最強戦士

「さすが英雄の子と言えばいいのか……血の繋がりとは恐ろしいものだな」

「それは俺も思う」

 

 だって貴族って謂わば強い血統の者達の集まりだから、基本平民よりも強いわけだ。

 それに俺の父親の話を聞く限り、俺のこの規格外な魔法の才能も恐らく父親譲りの物だろうしな。


 しかし、俺は転生してからと言うもの、才能に慢心せずしっかりと努力はしてきた。

 才能に溺れて努力をせず、結果主人公に最初ら辺でボコされるジンの人生は回避できた。

 

「———俺の力が血統だけで無いと思い知らせてやろう」

「……なら此方は少し本気で相手をさせてもらおう!!」


 ユミエルは槍を器用に振り回して俺の槍の魔法を弾き飛ばしながら、物凄い勢いで此方へと接近してくる。

 しかし俺もタダで近付かせるわけにはいかない。


「———【落雷】」

「っ!? くっ———ッ!!」


 俺は今回初めての雷の魔法を不意打ち気味に放つ。

 炎は依然として使うつもりはないが、ユミエル相手に雷を使えないのは相当キツイので、多少森が焼けるかもしれないが我慢してもらおう。


 空に雲が出来ると、そこから一条の雷がユミエル目掛けて落ちてくる。

 その速度は光速にも迫る勢いで、流石のユミエルも無理な体勢で地面を蹴って回避するしかなかった様だ。

 だが———


「安心するのはまだ早いぞ」


 俺は更に複数の雷を指を鳴らして、正確にユミエルのいる位置に落としていく。

 しかし流石強キャラと言うべきか、徐々に俺の雷に適応して回避だけでなく、槍の電気を通さない柄の方で防御したりと余裕そうに捌き出した。


「ふむ……いつまで雷を落とすつもりだ? 我は完全にこの技は見切ったぞ?」


 ユミエルが言う通り、既に連続で落としても片手間で雷を対処している。

 ほんと、俺が言うのもなんだが随分良い才能をお持ちの様だ。

 まぁこの程度で俺が負けることは酔っていてもあり得ないが。


 ユミエルは依然として余裕そうな俺の表情を見て訝しげに言う。


「随分と余裕そうだな、英雄の子よ」

「当たり前だ。本気でないお前など俺の足元にも及ばん。来るならとっとと本気で来るんだな」


 本来、ユミエルの力はこんな物ではない。

 ゲームでのユミエルは【精霊降ろし】と呼ばれる恐ろしい力を持っている。

 

 【精霊降ろし】は文字通り自分の体に精霊を降臨させて、人間の体から解放されて一時的に人外の力を得るエルフの秘術だ。

 その力は凄まじく、降臨したのが下級精霊であっても普段の数倍の力を得ることが出来る。

 

 そしてユミエルが契約している精霊は———風の上級精霊である。


「そこまで言うなら見せてやろう。エルフの切り札を———【精霊降ろし】」


 その瞬間、一瞬辺りを静かさが支配したかと思うと、ユミエルの魔力が爆発的に増加し、風が渦巻く様にユミエルの体を包み込んでいく。

 しかしある時を境に風が一瞬にして止み、その風がユミエルの体と槍に収束していった。

 

 ユミエルの身体は実体を一時的に失い、魔力の身体を手にする。

 そして槍は輪郭をぼやけさせて風そのものに変化した。


「……少し待たせたな。これが我の全力だ」

「それでいい。とっとと始めるぞ」


 俺は《災厄の杖》を顕現させ、無詠唱で無数の光と闇の刃を幾重にも発動させると、その全てを一気に放つ。

 普段よりも威力も速度も強化された光と闇の刃だったが———ユミエルが風の槍を一振りしただけで消滅する。


 しかし俺は手を止めずに新たな魔法を発動。


「———【死神達の楽園】」


 俺が言い終わると同時に身体から魔力から変換された膨大な【死気】が具現化し、ボロボロのローブとフードを被り、黒いモヤの様な手には禍々しい大鎌を握る死神が何十と現れた。

 その異様な姿に観客の席からは唾を飲む音が聞こえる程の静寂が支配し、ユミエルも少し顔を歪めている。


「……何と禍々しい魔法だ。よもや、禁術ではあるまいな?」

「別に禁術ではない。俺が作ったからそもそも禁術に分類されるのかすら分からないがな」


 俺は「行け」と一言合図すると、死神達が大鎌を構えてユミエルに突撃する。

 この魔法は実体のない相手でも攻撃できる様に設計されているので、攻撃を受ければユミエルであろうとタダでは済まないだろう。


 しかし死神達の速度はそれほど速くないので、牽制も兼ねて闇の刃を幾つも発動して放つ。

 

「エルフの戦士、お前はこれを防げるか?」


 俺は敢えてそう問うてみる。

 するとユミエルは少し腰を落とすと力強く言葉を吐いた。


「———勿論だ!」


 その瞬間、ユミエルは鬼神の如き勢いで死神を一突きで消滅させると、動きを止めることなく流れる様に別の死神の下へと移動して大鎌を避けると再び一突きで消滅させる。

 牽制の闇の刃はまるで羽虫を祓うが如く一振りの元に破壊されてしまった。

 

 更には———


「はぁあああ———【絶風の槍撃】」

「チッ……」


 風の槍をあり得ない速度で投擲しきた。 


 更には風の槍は風を纏ってさながら超大型の台風の様な姿となり、あらゆるものを破壊する絶風となって俺へと迫って来た。

 その威力は超越級魔法にも届くかもしれない。


 俺はそんな災害級の魔法の前に———


「———シェイド」

『———ご主人様……ってアレ何!?』


 闇の精霊王たるシェイドを顕現させる。

 突然呼ばれたシェイドは目の前に迫る風の槍に驚いていた。

 そんなシェイドにユミエルを指差して告げる。


「俺達もアレ・・、やるぞ」

『やっと許可出たの!? わーい! それじゃあ早速———』





「『———【精霊王の目覚め】』」





 途端———全てを闇が覆った。



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