第61話 両親への挨拶ほど緊張するものはない

「……此処がメアの実家か……」

「うん。それじゃ入ろ」

「ちょっ、待っ———」

「———ただいま」


 俺が心の準備をする暇もなく、メアが玄関の扉を開ける。

 するとドタドタと慌ただしい足音が聞こえたと思うと、2人の30代位の美男美女が目に涙を溜めて現れ、そのままメアへと抱き付く。


「おかえりメア……っ! 随分と遅かったわね……心配したのよ……勿論ヤードもね」

「それは———いやもう良い。俺も心配してたんだぞ! いきなり家を出て行くなんてもうやめてくれ……」

「……ごめんなさいお母さんお父さん」


 2人はメアに抱きついたまま、ぼろぼろと涙を溢していた。

 まぁ100年も会えていなかったらしいし、それも突然だったのでしょうがないだろう。

 それにどうやらメアは両親にも愛されているようで、少しホッとした。

 ただ、この状況で俺はとてもじゃないが間に入れないので、暫しの間、影の様に気配を消すことに徹することにした。







 3人が抱き合うこと数分。

 皆泣き止んだ様で、メアの両親が目元を拭いながら優しい笑みを浮かべていた。


「済まないな……少し泣き過ぎた」

「私も久しぶりにこんなに泣いたわ……貴方もごめんなさいね? ずっと待ってもらって」

「いや、全然大丈夫です。俺は何年でも待てますので」

「ふふっ、人間が何年も待つものじゃないわ。所で……メア、彼は誰なの?」

「ん、私の夫。プロポーズは終わってる」

「「!?」」


 その瞬間、2人の目が———と言うより、お義母さんは何となく察していたと言う感じで、逆にお義父さんは初めて俺の存在に気付いたかのリアクションをとっていた。

 取り敢えず目もあったので会釈でもしておこう。


 するとお義父さんが何度か俺とメアを交互に見た後、恐る恐ると言った感じで震える指で俺を差しながらメアに尋ねる


「あ、あの人間がメアの恋人か……?」

「違う」

「ほっ、何———」

「私の夫」

「…………は? はぁあああああああああ!? エルフ一の神童であり、俺の可愛い可愛い愛娘のメアがこんな人間と結婚だとぉ!? 何故だ!? 何故彼なんだ!? 確かに人間にしては顔は整っていると思うが……」

「顔は関係ない。私には仁しかいない」


 お義父さんに対して一歩も引かないどころか、しれっと俺しかいない宣言してくれるメア。

 メアが此処まで言ってくれているので、俺も覚悟を決める。


「初めましてメアの御両親方。私の名前はジン・ディヴァインソードと申します。この度はお2人の娘さんと結婚させていただきたく、許可を貰いに此方にやって来ました。———娘さんを、メアをどうか私にください!!」


 俺は2人にこれでもかと頭を下げる。

 もう緊張し過ぎて完全にジンとしてのキャラ崩壊しているが、今回ばかりはしょうがないと思う。


 皆も陰キャが結婚挨拶に行くのを想像してみてほしい。

 杜撰なはずだきっと。

 ただでさえ普通に人と会話するのが苦手なのに、結婚相手の両親に娘をくださいと言わないといけないんだぞ。


 しかし此処で俺が日和ってはいけないことは俺が1番分かっている。

 1度死んで掴んだチャンスを棒に振ってたまるか。


「俺の初恋なんです……メアは本来なら絶対に俺と結ばれることのない人でした」


 当たり前だ。

 何故なら俺は3次元の人間でメアは2次元のエルフとそもそも住む世界が違う。

 だから俺がどう頑張っても俺のことを考えても見てくれることもない。

 

「彼女のお陰で……俺は2回も救われたんです」


 彼女が居たから前世で自殺しなかったし、この世界で今も生きれているのだ。

 彼女がいなければ1番に元の世界に戻る方法を探していただろうし、下手すれば自殺していたかもしれない。


「メアがいたから俺は生きれているんです」


 戦うのは普通に怖かったし、怪我すれば前世では想像もしなかったほど痛かった。

 心がポッキリ折れそうな時もあった。


 でも……彼女と一緒に居られるのなら頑張ろうと思えた。

 

 それに———


「メアはジンがどんなに闇に堕ちていこうとも見捨てはしなかった。世界の誰しもが俺を見捨てたと言うのに。ジンにとって世界で唯一の味方だった」


 だからジンはメアにだけは心を開いていたし、決して暴行を振るったり悪事を働きはしなかった。


 ジンは結局どんなルートでもメアとは結ばれなかったが、この世界の知識を持った同じメアを好きな者として、この身体を受け継いだ者として、絶対に幸せになってみせる。



「だから———メアは誰が何と言おうが俺達・・のだ。誰にも渡しはしない。例え世界を敵に回しても。これが俺の覚悟だ」



 俺はゲームで見た、自信満々で堂々とした佇まいでハッキリと言う。

 しかしその後で途中で敬語が取れていた事に若干焦るが、何故かお義父さんがエルフとは思えない程豪快に笑い出した。


「ガハハハハハハハハハ!! 骨のある人間が来たな!! メア! お前の見る目は良かったらしい!」

「当たり前」

「———だがダメだ!!」

「「…………は?」」


 完全に許して貰えると思っていた俺とメアの口から思わず困惑の声が漏れる。

 いや、完全に今の許可出る奴だったじゃん。

 

「ジンと言ったな!? あのディヴァインソードの親族なんだろうが、あの男程の力を持っていなければメアは絶対にお嫁にやらん! お前にはこのエルフの里の戦闘員全員と戦ってもらおう!!」


 ……やはり本人が言う、ウチの家族普通だから的な発言は信用できないなと心の底から思った。


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 フラグ回収。


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