第54話 お家を探そう②

 結局あれから30分程抱き合っていたが、流石にそれ以上は色々と不味いと言うことになったので、準備をして家の下見と気分転換も兼ねて2人で郊外のとある場所に来ていた。

 

 此処は前回ブレインと出会った花の沢山咲いている丘だ。

 だがその近くに小さな森があるので、家の候補地としてその中に俺たちは居た。


「うーん……森は良いなぁ……落ち着く。やっぱり人が多い所は嫌だしなぁ」

「うん。どうせなら静かな所で2人で暮らしたい。偶にルド様達を呼ぶのもいいかも?」

「そうだな。アイツらにも報告しておいた方が良さそうだしな」


 アイツらは何かと俺のこの世界での唯一の友達だし。

 友達と家で遊ぶのには前世で隠キャだった者としては少し憧れる。


「……仁、モンスターが沢山いる」

「そうだな……此処は結構気に入ったしとっとと倒すか」

「うん。エルフの特性上、森はとても落ち着く。近くにお花もあるし私も此処がいい」


 と言う事で俺達は早速モンスターの気配がある所へ向かう。

 気配があるのは森の中心。

 数は1匹だが、まぁまぁ強力そうだ。


 俺達はほんの数十秒で着くと、そこには1匹の狼が居た。

 銀色の毛並みをした体長5メートル程で、岩の上から俺達を見下ろして居た。

 何故かは分からないが、2つの赤い瞳からは敵意は感じない。

 どちらかと言うと俺達を見定めている……と言った視線を感じる。


「……多分この森の支配種だな。これは殺さない方がいいかもしれん」

「……仁に似てるね」

「えっ?」


 突然のメアの言葉に俺は少し驚いてメアの横顔を眺める。

 

「あの狼が俺に似てる……?」

「うんっ! だって仁は基本一匹狼だし同じ毛の色だし雰囲気が何処となく似てる。後可愛い」


 少しテンションの上がったメアが、的確に俺の心を抉り修復を繰り返す言葉を言った。

 

 ぐっ……悪意は無いのは分かるんだが普通に心に刺さる……。


 俺が胸を押さえていると———


『其方達は何者だ? 精霊を連れた人外の魔力を持った人間に、人間嫌いで滅多に現れないエルフまで』

「え、喋れるのかお前?」

『当たり前だ。我はこれでも500年生きているのでな』


 めちゃくちゃ長生きじゃん。

 そんなに長生きの狼のモンスターって居たっけ?

 パッと思い出すのはフェンリルだけだが。


「……失礼ですが、貴方様の種族名と固有名を教えて頂けませんか?」


 メアがいつもの敬語に直して狼に向かって言う。

 確かに俺も気になるのでナイス質問だ。


『……まず名乗る前に其方の此処にきた理由を教えてくれ』


 まぁいきなり怪しげな男女2人が来たら警戒とするか。

 だが仮に此処に家を建てるとなれば必然的にお隣さんになるわけで……仲良くて得はあっても損はない。


「突然申し訳ない。俺はジン・ディヴァインソードと言う。今回此方のエルフのメア———」

「メアと申します」

「———と結婚する事に決めたので、此方の森の一角に家を建てたいのだがいいだろうか?」

『…………』


 俺は相手の顔色を伺いながら———全然分からないが———メアと一緒に頭を下げる。

 すると狼は少しの間無言になるが、


『———我はトルデォン。人間の知る名で言うとサンダーウルフと呼ばれるものだ』


 と頭を少し下げてそう言ってきた。

 どうやらお許しを得る事が出来たようだ。



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