第49話 悪役貴族VS悪役首領
「———【発射】」
俺の言葉と共に周りに浮遊していた全属性の槍がブレイン目掛けて空を駆ける。
その初速は銃弾の秒速300mにも達する程の速度で、普通の者なら反応すら出来ずに串刺しにさせるだろう。
しかし相手は時間と空間を操るスペシャリスト。
「この程度は効かない。———【空間歪曲】」
ブレインが詠唱破棄で目の前の空間を歪めると、槍がまるで壁に当るかの様に轟音を上げて消滅していく。
……チッ……この程度じゃやっぱり体に届かせることすら出来ないか。
まぁまだ手は沢山あるからいい。
「はっ! この程度かジン・ディヴァインソード!」
「そんなに焦るな。まだまだこれからだ———【落雷】」
ゴロゴロ……ゴロゴロ———ピシャッッ!!
その瞬間に澱んだ空に雲が現れ、ブレインに向けて雷が落ちる。
雷の速度は時速10万キロにも達し、銃弾の速度とは雲泥の差だ。
その圧倒的な速度に人間が反射で対抗する事は不可能……の筈が、異次元の速度で回避された。
そしてブレインはその速度のまま俺の後ろへ回り込み、蹴りを入れようとしてくる。
しかし———
「———【思考加速】【時間操作】」
俺はブレインと同様に、自身の思考の時間を速くし、体の動く時の時間も同時に速くする。
そのお陰で景色がゆっくりと動き、ブレインの攻撃ははっきりと視認できる様になり、動きの時間も速めたので余裕で回避。
更には【
しかしブレインは掠めながらもギリギリの所で回避した。
「チッ……貴様も使えるのか……」
ブレインは自分しか使えないと思っていたのか、攻撃を回避した後に少し距離を取り、忌々しそうに呟いた。
「当たり前だろ。俺には
俺が
そして先程までの余裕な雰囲気は霧散し、怒気が溢れ出す。
「貴様———俺の前でその言葉を口にするなッッ!!」
ブレインの姿が掻き消え、加速した思考の中でも見失ってしまうほどの速度で俺に接近してきた。
そしてその勢いのままブレインが俺の顔面目掛けて拳を振り抜く。
光よりも速い速度で繰り出される殴打は、一般人が受ければ【身体強化】を使おうが一瞬にして弾け飛ぶ。
俺は即座に避ける事は不可能と判断して、自身とブレインの間に結界を何重にも張って威力を半減させる。
更に迫る拳をトレースした技術で受け流しながら衝撃を緩和させ、最後に自分から後ろに飛んで威力を更に緩和。
「ぐっ……【
お陰で吹き飛ばされはしたものの、何とか骨折程度で済んだ。
そして骨折も【治癒】の上位魔法である【回復】で即座に治った。
「まだまだ行くぞ———オラッッ!!」
ブレインがさながら狂戦士の如く、狂った様に俺に攻撃を仕掛けてきた。
しかし2度もやられる程俺は馬鹿じゃない。
「【空間捕縛】」
その瞬間に、俺の半径20メートルの空間の全てがピタッと時が止まったかの様に動きを止める。
勿論ブレインも例外ではない。
流石に心臓を停止させるには至らなかったが、動きは完全に封じることが出来た。
「チッ……何故だッッ! 俺の体の周りは【空間歪曲】で全ての魔法は通らない筈だッッ! それは時空魔法も例外じゃない! 何をしたジン・ディヴァインソード!!」
動こうともがいている———実際は全く動いていないが———ブレインに俺は何でもないかの様に言う。
「———貴様の魔力量を遥かに超える魔力で魔法を発動させただけだ」
「………………は?」
ブレインが間抜けな声を漏らす。
「き、貴様……俺の魔力は人間の限界を超越しているんだぞ!? そんな戯言を抜かすな!」
「事実なのだから言って何が悪い? そもそも貴様の魔力量程度で人間を超越……ふっ、井の中の蛙だな」
ブレインの魔力量は確かに多いが、俺の10分の1以下だし、軍隊女や主人公の方がまだ多い。
主人公も弱かったが魔力はしっかり鍛えていた様だしな。
だからあの……えっと……誰だっけ?
あの俺の元婚約者。まぁいいや。
兎に角俺の元婚約者よりも死ぬ回数は少なかった。
そう考えると如何にブレインが井の中の蛙かがよく分かるだろう。
俺が鼻で笑った事により、ブレインは更にキレていたが、それでも俺の魔法を解除する事は出来なかった。
「くそッ……何故だ……何故だ何故だ何故だ何故ッッ!? やはり才能なのか……? 此処まで足掻いてもダメなのか……?」
1人独白に耽るブレインに非情に言葉を浴びせる。
「凡人がいくら努力しようが、それと同等以上の鍛錬をした天才に追いつく事など永遠に不可能だ。幾ら人を辞めようと、才能まで変える事は出来ない。世界は不条理なんだよ」
俺がそう言い、先程見せた魔力よりも遥かに多い最大魔力を解放する。
その瞬間に魔力の奔放が起こり、その魔力にあてられた、ブレインの魔法によって澱み歪んでいた景色はミシミシと亀裂が入り———
———パリンッッ。
呆気なく割れた。
「あっ…………」
ブレインは絶望した様な表情に変わる。
だがこの程度で許してやらないぞ。
「此処からが本当の審判の時間だ」
俺は吹き荒れる魔力を集結させ、1つの魔法を発動。
「———【
その瞬間に世界の時間が止まった。
さて……後片付けと行こう。
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