第47話 悪役貴族とメイドと悪役ヒロイン

 校外授業から1週間。


 俺はすっかり元気になり、いつも通りの学園生活を送っていた。

 そして今日は学園がなく、久しぶりにメアとデートでもしようと思っていたのだが———


「……何故お前が此処に居る」


 俺は宿のソファーに座ってメアに紅茶を入れてもらっているシンシアを半目で睨む。

 因みに今日コイツと会う予定も約束もしていない。


 遂に昔から危惧していた事が起きてしまった様だ。

 と言うか———


「メアに紅茶を注がせるな馬鹿」

「あいたっ!?」


 俺はシンシアの頭を叩く。


「ジン様、私から『紅茶はいりませんか?』と聞いたのです。なのであまり責めてあげないでください」

「メアさんすきーー!!」


 そう言ってシンシアの頭を撫でるメア。

 撫でられて嬉しいのかシンシアも顔をデロンデロンに緩ませてメアに抱きついている。


 ……おい、そのポジは将来の俺のだぞゴラ。

 一度ボコボコにしてやろうかアァン?


 俺は額に青筋を浮かべて魔法の準備をする。

 すると流石にまずいと思ったのか、シンシアは急いでメアから離れると、俺の足に縋って言い訳をし出した。


「ち、違うのですししょー!」

「ほう……一体何が?」

「え、えっとですね……今日は王女としての仕事とかも課題とかもないので……暇だったんです。それで、どうせならししょーの魔法を見せて貰おうと思いまして……」

「お前に家が何処か教えていないが?」


 俺がそう言うと、シンシアはビクッと体を震わして、スッと目を逸らしながらモニョモニョと言った。


「……ルドさんに教えてもらいました……」

「今度ルドは絞める」

 

 あの野郎……なんで教えやがったんだよコイツに。

 マジで来てしまったじゃないか。


「……はぁ……まぁもう来たことには何も言わん」


 俺がそう言うと、シンシアがパァと顔を輝かせるが、何か勘違いしていないか?


「よし、お前は今すぐ帰れ」

「ええっ!? 今のは『いても良いぞ』って言う流れじゃないんですか!?」

「違う。何を期待しているんだお前は。約束もしていないのに誰が遊ぶか」


 俺が慈悲なくそう言うと、シンシアはガーンと効果音が付きそうなくらいに落ち込んでしまう。

 正直俺が何もしていないのに悪いことをしているみたいで腹立つが、今日はメアとのデートの予定なので絶対に帰って貰わないと困る。


 しかしメアは落ち込んで膝を抱えシンシアを見て、俺にこう言ってきた。


「……せめて午前中だけでも3人で遊びにいきませんか? 折角ジン様に会いに来てくれたのですし……」


 むぅ……メアにそう言われては俺も強くは言えない。

 確かにメアは、ルドが初めて遊びに来た時は、俺に初めての友達ができたと知って涙を流していたくらいだからな。

 学園入学まで友達ゼロの俺を心配していたのだろう。

 ……仕方ない。


「はぁ……なら午前中だけだぞ。昼からはメアとのデートだから邪魔するな」

「了解ですししょー! では早速いきましょう!」


 シンシアが俺とメアの手を握って外へと連れ出そうとする。

 俺とメアはそんな楽しそうにしているシンシアを見て、お互いに小さく笑ってなされるがままに引っ張られた。








「うわぁ……王都の外れにこんな所があったのですね……」


 シンシアは辺り一面に広がる花畑を眺めて目を輝かせながら走り回っていた。

 

「シンシア様、あまりお走りにならない方がよろしいかと」

「大丈夫ですよメアさんっ! このくらいでこけるほどドジではありませ———ふぎゅ!?」


 メアを見ながら後ろ走りしていたせいで、足に躓き盛大にこけるシンシア。

 フラグ回収するの早すぎだろ。


 俺は呆れながらも【治癒ヒール】を掛けて傷を治してやる。


「おい、大丈夫か?」

「いたたた……だ、大丈夫です……メアさんの言う通り次からは走りません……」


 自分が言っているそばからかけたのが恥ずかしかったのか、顔を手で隠しながらそう言った。

 そんなシンシアの頭にメアが花の冠を被せる。

 

「……メアさん、これは一体……」

「これは此処にあるお花を少し摘んで作った冠です。大変お似合いですよ」

「そ、そうですか……?」

「はい。御伽話に出てくるプリンセスよりもお綺麗ですよ」

「あ、ありがとうございます……えへへ……」


 シンシアは嬉しそうに顔を綻ばせると、メアに抱き付く。

 そしてメアはそんなシンシアを優しく抱き止めた。


 ……何か俺蚊帳の外だけど、めちゃくちゃ目の保養に……あれ? 

 全然保養にならないぞ?

 何故だ……って相手がシンシアとメアだからか。


 よし、決めた。

 もう2度とシンシアをメアと会わせない。

 メアとイチャイチャして良いのは俺だけなの。

 


 しかし、そんな俺の小さな願いが叶うことはなかった。


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