第46話 蠢く悪意

 今回は敵側のお話です。

 それと少し短いです。

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 ジンとシェイドが瘴気を食い止め、精霊の森を守った後。


 王国のとある貧困街の一角に存在する小さなボロボロの小屋の地下にて、男女2人の人間が話し合っていた。

 1人の女が恭しく傅き、上座に座っている男に報告を述べる。


「主様、精霊の森の発現機が何者かに破壊されました」

「……それは事実か?」


 男から発せられる威圧の籠もった言葉にヒヤヒヤとしながらも、女は表情を崩さずスラスラと話す。


「はい。自身も向かってみましたが、聖域の瘴気の発生量が通常に戻っていました。更に、丁度そのタイミングで学園の生徒と選りすぐりの教師がモンスター討伐のために精霊の森に入ったことも確認済みです」

「そうか……」


 女の言葉に男は顎に手を当てて考える。

 しかし直ぐに顎から手を離すと、女に幾つか質問をし出した。


「聖域の中に入って確認したのか?」

「そうしようとしたのですが……どうやらより強固に結界を張り直したらしく、私達の《解除魔導具》ですら開けることが出来なくなっていたため直接は見ていません」

「当時近くに居たのは? あの『炎帝』のルシアか?」


 ルシアは裏社会でも有名な強者で、大体の裏組織が彼女がいると言う事で学園には手を出さない。

 例え強大な組織であっても、出来るだけ敵対はしない様にするほどである。


 そのことから男は彼女なら止めれると思ったのだ。

 しかし女は男の言葉に首を横に振る。


「いいえ違います。彼女は常に森の周りで学生の補助や偵察をしていたと言う報告があります」

「何? なら誰だ?」

「主様はとある噂をお聞きになられたことがありますか?」

「とある噂……?」

「学園での噂ですよ」

「……?」


 男は知らないのか首を傾げる。

 そんな男に女は「これは私も本当なのか分からないのですが……」と言う前置きを置いてから話す。


「噂の内容はかの有名な団長貴族男子生徒と子爵貴族令嬢、剣術名家の落ちこぼれの決闘です」

「ふむ……聞いた感じ3人いる様に聞こえるのだが、決闘なら1対1が基本だろ?」

「はい。ですが、落ちこぼれが1対2で戦うと言ったらしいのです。勿論落ちこぼれが1で」


 そこまで女が言ったところで、男が初めてその話に興味を示した。


「それで?」

「はい。誰もが落ちこぼれが負けると思っていたのですが……結果は落ちこぼれの勝ちだったそうです」

「ほう……それは凄いな。なら落ちこぼれではなく、実力を隠していたのか?」

「恐らくそうですが、その隠していた実力が異常だったのです」


 女は自分で言っているのにどこか釈然としないと言った感じで話す。


「噂によると……本気を見せた落ちこぼれの力に、2人が殺されてしまうと判断した『炎帝』が止めに入ったらしいのですが……完封されたらしいです」

「……何? 一介の生徒が『炎帝』を完封だと?」

「はい。しかもそれだけでなく、並行して全観客に向けて同じ人数分以上の魔法を発動して牽制したらしいのです。そこには国王も学園長も居たとされています」

「…………クックック……フハハハハハハ!!」


 女が口を閉じると同時に男が声を上げて大笑いする。

 そしてそれをみていた女はいきなりの事で固まっていた。


 結局数分笑い続けた男はやっと笑いを止めると嬉しそうに言う。


「なるほどな。全ての辻褄が今合った!」

「!?」

「その噂は本当だ! だからこんな中途半端な時期に我らの標的である第2王女を学園に送ったんだ! その落ちこぼれ……いや、稀代の魔導師を他国に渡さないために籠絡させようとしたのだろう」

「なるほど……それなら確かにいきなり第2王女が入学したのにも説明がつきますね。今の国王がやりそうな事です」

「ああ……アイツなら必ずやるだろうな。しかし……一度ソイツに会ってみるのも良いな。よし、今から俺はその稀代の魔導師の所に行ってくる」


 男はそう言うと、その場から突然姿を消した。

 まるでルシアやジンが使う【転移】の様に。


「……相変わらずなお方ですね……私は招集でもしておきましょうか」


 女は主と敬う男の無鉄砲さに小さなため息を吐くと、通信魔導具に手を掛けて言う。


『全幹部に次ぐ。今すぐ主様の部屋に集まる様に。———我ら『神人創生会』の目的の為に』



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