第36話 悪役貴族VS親友兼暗殺者(改)

 俺の休暇もいよいよ最終日になってしまった。

 そして今日はルドの実力を知る為に、とある森の中に【転移】して手合わせをする事に。

 

 俺の近くにいると言うことは必然的に敵が増えやすいのと、元々家的に敵が多いらしく、婚約者を守る力が欲しいとルドが願ったためだ。

 しかしいざ俺を目の前にすると、ルドが途端に引き腰になってしまった。


「なぁ本当にやるのか……? 俺的にはお前に勝てる気しないんだが?」

「五月蝿い。貴様からやりたいと言ったんだろうが」

「それはそうなんだが……」

「なら文句言うな。文句言うならこっちから攻撃するぞ?」

 

 俺が魔法を展開させてそう言うと、ルドが思いっ切り首を横にブンブンと振る。


「分かった分かったって! やるから! だけど攻撃魔法は下級までだからな!」

「まぁ……それでいい」


 俺達はお互いに構える。


 ルドは2刀の短剣を。

 俺は『災厄の杖』を。


 先程までビビリだったルドは今は鋭いナイフの様な雰囲気を醸し出していた。

 俺も気を引き締めて目を細める。


 開始の合図など無い。

 しかし動き出すタイミングはピッタリ同じだった。


「―――【隠密】【透過】【同化】―――」

「―――【多重展開:水球アクアボール】―――」


 ルドの姿が一瞬にして探知不可になると共に、俺の周りに何十もの水の球が浮かび上がり、俺を守る様に展開される。

 しかし俺はルドのあまりの高度な気配隠しに少し驚いていた。


 これは……凄いな。

 マジで場所が分からないぞ……。


 現実で何回か暗殺者は見ていたけど、此処まで何の探知にも引っ掛からない者は居なかった。

 その証拠に、一応全て俺が暗殺者や見えない敵のために開発した追尾式の水球を発動しているのだが、迷っているかの様に俺の周りをぐるぐると回っている。 

 更に森の中という事もあり、森のざわめきや小鳥たちのさえずり、動物たちの鳴き声に呼吸音は聞こえるのだが、近くで動く音は全く聞こえない。


 何発か適当に撃ってみたりもしたが、全く掠りもしなかった。

 それどころか何処から取り出したのか、小さなナイフが何個も飛んでくる。

 全て結界を発動したり避けたりしているが、明らかに形勢は此方が不利。


 ……これは大分ルドに有利な場所にしてしまったかもな……。


 俺が少し後悔していると―――ふと小さな気配を探知した。

 それはもはや直感と同等くらいの反応だったが、迷わず【簡易結界】を張る。


 ―――バリンッ!!


 するとどうやら正解だったらしく、結界が一瞬にして壊された。

 それとほぼ同時に水球がルドに向かって放たれる。

 

「―――【魔法無効】―――」

「!?」


 俺はルドの囁いた言葉に心を乱す。

 そのせいでルドを見失ってしまったが、それどころではない。


 ―――【魔法無効】。

 それは名前の通り魔法を完全に無効化する魔法系の天敵のようなスキルだ。

 しかしこれは先天的で、スキルと言うよりは体質に近いイメージ。

 

 あらゆる―――それも超越級であろうと、完璧に使いこなしているのなら無効化出来る。

 そんなチート能力をルドが持っていたとは……。

 

 見た所、殆ど完璧に使いこなしている。

 何故分かるかと言うと、始めはこの体質を持っている人間は魔法が使えないからだ。

 因みに他にもヒロインの中で1人持っている……がソイツが登場するのはまだ先である。


 これは正しく逸材と言えよう。

 俺は自分の魔法がどれだけ通用するのか気になり、少し嬉しくなりながらも、魔法を連発する。


「―――【氷結】【多重展開:水球・土弾】―――」


 その瞬間に俺を中心として周りの温度が下がり、地面に霜が生え、草木が凍った。

 本来なら自分の移動速度も低下するのであまり使わないのだが、ちゃんとこの魔法を使ったのにも理由がある。


 俺が周りを注意深く観察していると、一部分から白い霧のような物が発生。

 まるで人の白い息の様な。


「そこだ―――」


 俺の言葉に呼応する様に土の弾丸と水の球が白い霧が発生した所に向かって高速に飛んでいく。


「くっ―――【魔法無効】ッ!」


 ルドの姿が視認出来るようになり、苦虫を噛み潰したかのような顔が晒される。

 そう―――魔法無効は自分の魔法さえも無効にしてしまうため、諸刃の剣となり得るのだ。

 今魔法を対処しているルドは動かないし魔法で隠れることも出来ない。

 こういう所は後々直してもらうとしよう。


「―――【身体強化】【武術模倣トレース】―――疾ッ!!」

「―――!?」


 俺は驚くルドの目の前まで一瞬で移動する。

 そして拳を握り、完璧なタイミングで鳩尾を狙って振り抜く。


 意表を突かれたルドは大きく目を見開いていたが、ギリギリの所で俺の拳を避けやがった。

 それどころか短剣を俺の心臓目掛けて突き出していた。


 ―――まぁこれも予想通りなのだが。


 パリンッ!!


「なっ―――!?」


 俺の心臓に当たりそうだった短剣が、俺の予め展開していた簡易結界によって弾かれる。


「はっ!!」


 俺は動揺している隙に蹴りを繰り出すが……一瞬で動揺を消し、冷静に俺の蹴りを手で受け流した。

 その動きと精神力は明らかに常人では不可能な領域で、流石暗殺者の家系だと思わず感心してしまう。

 下手したら主人公よりも強いのではないだろうか。


「何でッ……こんなに近距離戦が強いんだよ……ッ!」

「これも魔法だ」

「何でもありだ———なッ!!」


 ルドが体を一気に屈め、足を掛けようとしてきた。

 しかし俺の魔法はこの程度で遅れを取るほど軟弱ではない。


 俺の体が足を避けるように軽くジャンプし、カウンターの踵落としを繰り出す。

 しかしそれをルドは転がることによって避けた。


「意外とすばしっこいな」

「まぁ一応暗殺者の家系だからなっ!! 一度も暗殺はした事ないけど!!」


 ルドは転がりながらナイフを俺に正確無比に投げ付ける……が、俺はそれは気にせずに突っ込み、もう1段階ギアを上げる。


「そろそろ終わらせるぞ」

「いや、速っ———」


 俺は地面を思いっ切り踏み抜き、空中に浮いたルドの鳩尾に拳を突き刺す。

 今度はルドも避けることが出来ず、モロに食らって吹っ飛んでいった。


 ルドは木を何体か薙ぎ倒してやっと止まる。


「―――はっ!? しまった!? 大丈夫かルド!!」


 俺は急いでルドの下に駆け寄り、回復魔法を施す。

 すると直ぐに血が止まり、傷が逆再生されているかの様に治っていく。

 そして完全に治ったルドが俺を軽く睨んで来た。


「……お前……魔法使いだよな?」

「ああ。だが、そこらの魔法使いとは一線を画す魔法使いだけどな」


 俺がそう言ってニヤリと笑うと、


「ほんと……お前は敵に回したくねぇよ」


 そう言って安堵のため息を吐いていた。


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 次回から新章です!

 また明日!!


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