第35話 悪役貴族に最も遠い行事、ダブルデート

 それは俺が停学と言う名の休暇を満喫していた頃、その日は学校が休みだった様で、朝からルドとサーシャのバカップルが俺の宿に来ていた。

 始めは俺の部屋を遊び場にするなと思っていたが、こうしてわちゃわちゃするのも悪くないと思い始めている。

 まぁそんな事を言えば毎日来そうなので絶対に言わないが。


 何でも2人の親は公認らしいが、周りの貴族が五月蝿いらしく、2人で出歩くのは色々と危険なんだとか。

 そこで俺の宿だ。

 これでも俺は公爵家なので、大抵の奴らは俺がいるとなると何もしてこなくなるからな。


 そしていつも通り俺とメアが2人で自然の魔力の支配し合いの特訓をしていると、ルドがふとこんな事を言い出した。


「なぁ……最近全く外で遊んでないよな」

「それはしょうがないよルド。私達は此処を使わせてもらっているだけ感謝しないと」


 そう言ってルドに「メッ」と言うサーシャは、メア一筋な俺からしても可愛いと思う。

 ほんと、ルドはいい奥さんを手に入れたよな。


「そうだぞ。貴様らを毎日入れてやっている俺に感謝しろ」

「部屋の片付けなどは私がしていますけどね」

「それは言わないお約束っ!」


 俺は小さな声でツッコむ。

 そんな俺の姿を見てメアがふふっと笑う。


 ああ……何て素晴らしい日常……。

 これだよこれ、俺は転生してから常々これを望んでいたんだよ。

 しかしルドの言う通り……確かに最近外で全く遊んでいないな……よし!


「今日は買い物とするか! ルドが荷物を全部持ってくれるらしいからな」


 俺がそう言うと、呑気にお茶を飲んでいたルドが咳き込み、目に涙を溜めて俺を睨んできた。


「くそっ……覚えていやがったか……忘れていると思ったのに……」

「誰が忘れるか。俺はもう2度と荷物持ちはしたくない」

「それは俺も———ひっ!?」


 ルドが小さく悲鳴を上げて横を見ると……そこには真っ黒な笑顔を浮かべたサーシャが。


「ルド……そんなこと思ってたの……? 私は貴方の為に買っていたのに……?」

「も、勿論持たせてもらうさ。あは、あはははは……」


 苦笑いを浮かべるルドを横目に、俺はメアを見ると……


「? どうしたのですか? 私の顔に何か付いていますか?」


 キョトンとした顔で首を傾げていた。


「いや……ただ今日もメアが超絶美人だなぁ……と思っただけだ」

「…………不意打ちは卑怯ですよジン様」


 仄かに顔を染めて照れるメアは非常に可愛らしい。

 俺がニコニコとメアを眺めていると、何処かからこんな声が聞こえた。


「……あの2人付き合ってないのに物凄い付き合いたての初々しさを感じるね」

「ああ……近くにバカップルがいると居心地悪いな」


 それはお前が言うな。


 俺は2人のバカップルの会話を聞きながらそう心でツッコんだ。










「……それで来たはいいが……何がしたい?」


 俺達は結局、部屋にいても暇だから……と言う理由で王都に繰り出していた。

 しかし目の前では恋人繋ぎでラブラブのバカップルが居るため、大変イライラする。

 ちゃっかり俺の言葉スルーしてるし。


 見せつける様に手を繋ぐなよな……こちとらまともに手すら繋いだ事ないんだぞ……。

 

 正直言って目の前の2人が羨ましい。

 この世界に来て、他人を羨ましく思ったのは初めてかもしれないと思う程には。


「チッ……リア充爆発しろ」


 俺は衝動を抑えきれずにボソッと呟く。

 幸い誰にも聴かれていない様で、特に反応されることはなかった。

 まぁそれはそれでムカつくのだが。


 俺が目の前の光景から背けようと顔を横に向けると、そこには俺の手をジッと見るメアの姿が。


 ……え、何この生き物、可愛すぎでは?

 もう天使超えて女神だよ女神。

 ああ……そのもどかしそうな顔もまた良……あ。


 俺がだらしなく顔を緩ませて見ていると、それに気づいたメアとバッチリ目が合う。

 しかしお互いに目は逸らさない。

 更には2人同時に自分の手を見てしまう始末。


 ふぅ……此処は男の俺がリードしなければ。


 俺はドキドキと高鳴る胸の鼓動を聴きながら、覚悟を決めてメアの手を握る。

 流石に恋人繋ぎはできなかったが、その手はとてもあったかくて小さかった。


「!? …………あ、ありがとうございます……」

「い、いえ、こちらこそ……?」


 俺がしばし手に集中していると、目の前には真っ赤に顔を染めたメアがボソボソと何故かお礼を言ってきた。

 いつもなら「何でお礼なんて言うんだよ」と茶化していただろうが、今の俺は緊張し過ぎていたため、おかしな返答になってしまったが、しょうがないと思う。


 俺達はお互いに恥ずかしがりながらも、手を離さずに目の前のバカップルについて行った。






「……やっぱり付き合いたての初々しさに溢れているな」

「確かに2人とも恥ずかしそうだもんね。でも手は離さない……バカップルって実在したんだねぇ……」


 だからテメェらにだけは言われたくない。


 

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