第34話 ジンの代わりに―――

 学園長室で面倒な会話をされているとは全く知らないジンは、【座標指定転移】でメアと共に寝泊まりしている宿に帰ってきていた。


 ん? メアと一緒で大丈夫なのかって?

 勿論大丈夫じゃないに決まってるだろ?

 だって俺はやりたい盛りの男子高校生と同じ年齢だし、前世の記憶があると言っても何歳かなんて覚えていないから精神年齢は高校生程度なのだ。

 普通に無理……と言うか嫌われたくないから全理性を総動員して耐えている。


 だが10年間一緒にいるせいで、メアが俺にだけはガードが緩い。

 それはもう、狙って居るのかと思ってしまうほどに。

 例えば、普通に俺の風呂の途中にタオル1枚だけ巻いて入ってくるし、寝る時はノーブラで薄着1枚の姿で俺の近くで寝るとかね。


 いや、俺が信用されているんだろうなとか、俺にだけ見せる姿は非常に優越感を感じるけど……正直苦しい。

 ラブコメの主人公が皆さっさとヤラないのにイライラしたものだが……そう思った皆全てに謝りたいと思う。

 俺もお前らと同じヘタレなのに調子乗ってごめんなさい。


 俺が心の中でラブコメ主人公達に土下座で謝っていると、奥からメアがやって来た。

 まだ朝のため、メイド服を来ている。 

 

「……処罰の方はどうでしたか……?」 

「1週間の停学という名の休暇だった」

「そうですか……それは丁度いいと言いますか、運が悪いといいますか……」


 メアが微妙な顔で歯切れ悪くそう言うので首を傾げていると、メアが俺に一通の手紙を渡してきた。

 誰からだ? と不思議に思いながらも手紙を開くと、簡潔にこう書いてあった。


―――――――――――――――

 ジン、我が家に帰って来い。

 これは当主命令だ。


 ブラック・ディヴァインソード

―――――――――――――――


 …………ふぅ……すぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。


 俺は大きく息を吸うと―――


「誰が帰るかボケええええええええええええ!! お前ら俺を捨てただろうがああああああああ!!」


 全力で手紙を破り捨てた。










「よく来たなジンよ」

「流石私の子供ねジン!!」

「久しぶりだなジン!! 会いたかったぞ!!」


 はい、俺は結局あんな事言いながら帰ってきました。

 【転移】で一瞬だったので大して時間もかかっていない。


 今回俺が家に帰ろうと思ったのは、今まで俺にしてきた数々の事への賠償金をふんだくろうと思ったのと、今後俺とメアに関わるなと言う警告をしに来たのである。

 メアにはもう話しており、メアは特別な地位らしいので何時でもディヴァインソード家を辞めれるらしく、『もう何も言いません。好きな様にやってきてください』と笑顔で言われた。


 なので此処に戻ってきたというわけだ。

 だが……それにしても掌返しがえげつない。


 父親は大して変わっていないが、母親は常に俺に暴力を振るう狂気は綺麗に鳴りを潜めており、兄は今まで見たことも無い様な笑顔を浮かべている。

 正直言って気持ち悪い以外の感情が沸かない。


 俺は抱きしめる母親と肩に手を置く兄を無造作に振り解き、ゴミを見る様な目を向ける。


「……触るな屑共。俺の体は貴様らが触れられるほど安くは出来ていない」

「なっ!? 貴方は私の子供よ!? どうして触ってはいけないの!?」


 俺に振り解かれた母親がそんな巫山戯たことを抜かすので、この体の持ち主であるジンに代わって言ってやろう。


「貴様……よくそんな事が言えるな。俺に剣の才能が無いと分かった途端に『お前は私の子供ではない』と暴言を吐き殴るわ蹴るわの暴行しかせず、一度も貴様から母親らしい事はされていない。どれだけ努力しようが褒めてもらったことなど1回もないぞ」


 俺は母親に近づくと、目線を合わせて睨む。


「俺の母親はメアだ。彼女は俺を愛情を込めて育ててくれた。貴様は俺を産んだだけに過ぎない。だから―――俺の母親ぶるのは辞めろ屑女、反吐が出る」


 俺が殺気を放ってそれだけ言うと、俺は気絶した母親(偽)から目を離し、今度は兄に目を向ける。


「それに貴様もだ兄上よ。会いたかった……だと? それは俺をサンドバッグにシたかったのか? それとも俺に報復されるのが怖いから媚を売っていたのか?」

「い、いやそれは……」

「まぁそんな事はどっちでもいい。ただ―――一発ぐらいやり返させて貰おう」


 俺は【身体強化】を発動すると、当主が邪魔できない様に魔法を何十も展開してから全力で顔面を殴る。


 ボキッ―――ドカァァァンッ!!


 顎の骨が折れる音と共に全く反応出来なかった兄が吹き飛び、執務室の壁を突き破って外へと落ちていった。

 この世界の人間は体が丈夫なので、3階から落ちた程度では死なないので放っておこう。


 俺は最後に当主であるブラックに目を向ける。

 40歳位の俺に似たイケメンが、俺の魔法に囲まれて顔を歪めていた。


 因みに俺の父親であり当主のブラックは、この中で1番何もしていなかった。

 別に暴言を吐いたり、殴られたりしたこともない。


 ―――只々ひたすらに無関心だった。

 しかしそれがジンの幼い心を何よりも傷付けた。


 そもそもこの男が俺に暴行を働いていれば、今頃俺は生きていないだろう。

 これでも王国元最強の剣士だからな。


「……貴様が俺を捨てたのは知っている」

「あれは仕方がなかったんだ。両家の関係とジンと言う天秤で、落ちこぼれを助けるより両家の関係を改善した方が良いと考えた」

「勿論そんな事は分かっている。だから貴様にはあの2人の様になにかすると言う訳でははい。―――これはあくまで警告だ」

「!?」


 俺は魔法を一旦消し、その代わり【短距離転移】で父親の後ろを取ると、【模倣魔法トレース】を発動して、父親が持っている剣を弾き飛ばして短剣を頸動脈に添える。


「ジン、貴様……」

「―――俺とメアに近付くな。そして俺が卒業するまでの生活費と学園に通う費用を今直ぐ出せ」

「……断ると言えば……?」


 俺は頸動脈に短剣を当て、薄く切る。


「1回殺して蘇らせて同じ要求をする」

「……分かった。今直ぐ持ってこさせよう」


 そう言うと執事長が部屋を出て、少し経つと大きな革袋パンパンに金貨を詰め込んで持ってきた。

 俺は魔法でそれを亜空間に仕舞うと、ゆっくりと当主から離れると、1つの魔法を発動させる。


「―――【強制契約】―――条件:ジンとメアに一切危害を加えない―――これで貴様らは俺に何も出来なくなった。では―――永遠にサヨナラだ」


 俺は【転移】を発動させると同時にこの家の座標を解除した。


 

 ……これで少しは気が晴れたかジン?




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