第23話 主人公対悪役貴族(手加減)ですよ①

 主人公―――ユージンの言葉に俺だけでなく、殆ど全ての生徒が驚いたようにユージンに目を向ける。

 しかし皆の視線が集まっている当の本人は涼しそうな顔をしていた


「…………」


 そして俺は……終始無言である。


 いや正直めちゃくちゃやりたくない。

 コイツと戦った時点で負けなきゃいけないこと確定じゃん。

 だってコイツ実技は試験官倒して1位だったらしいし、間違いなくSクラスでも上位の実力者なのは間違いない。

 そんな奴に俺が勝ったら……間違いなく目立つ。

 目立てば面倒なことが舞い込んで来そうなので出来る限り避けたいのだが……

 

「どうしたのですかジン様? 黙っていないで僕と序列戦をしていだけないでしょうか?」


 ユージンが笑顔でそう言って地味に圧力をかけてくるので、非常にピンチである。


 取り敢えず……ゲームのジンを意識して追い返してみるか?


「何だ貴様は。なぜ俺が貴様と戦わなければならない? 不快だからとっとと失せろ」

「そんな事言わないでくださいジン様。でも……断っていいんですか? 僕は知っているんですからね?」


 そう言って笑みを深めるユージン。

 何を知っているのか知らないが、適当に驚いていてやるか。


 俺はわざと一瞬目を見開き、その後で敵意を孕んだ瞳を向ける。

 

「……一体何の事だ?」

「勿論貴方の悪事についてです」


 はい確定。

 コイツ絶対俺と同じ転生者ですわ。

 だって俺、魔法の修練とメアとの楽しいお出かけしかしてなかったんだから。


 きっとコイツはゲームでジンがやっていた悪事のことを言っているのだろう。

 でなければ、噂程度しか知らないだろうしな。

 そもそも原作の主人公は、ジンにできるだけ近づかないようにしていたのが何よりの証拠だ。

 実に滑稽な話だな。


「……ほう……俺が悪事を働いていると? 何処からそんな根拠が?」

「それは僕に勝ったらお話しますよ。―――勿論しますよね?」


 俺が乗ってくると確信を持っているのだろう。

 その余裕を持った表情から自信がありありと感じれる。

 

 さてどうしようか……断れば絶対に怪しまれるだろう。

 それに……仮にコイツが転生者なら、どんな目的を持っているのか知っておいた方が良いかもしれん。


 ……しゃーない、やるか。


「―――いいだろう。貴様に格の違いを見せてやる」


 こうして結局主人公と戦うこととなった。

 

 

 


 





「それではユージン・ドレイク対ジン・ディヴァインソードの序列戦を始める。お互い準備はいいか?」

「はい」

「ああ」


 軍隊女の言葉にお互いが頷く。

 ユージンはゲームと同じく木剣のみを持っており、俺も一応剣を持っているが、正直使う予定はないので、殆ど素手の様なものだ。

 

 正直今まで剣の鍛錬など全くしたことがないので、適当に構える。

 そしてユージンは……うん、何か物凄い強者オーラ出して剣の切っ先を俺に向けて構えているが、あれがちゃんとした構え方なのかは分からない。


 しかし観客の生徒は違うようで、上流階級の貴族以外は頻りにユージンを褒め、上流階級の奴らも「ほう……中々やるではないか……」的な顔をしている。

 更に王女さんやアリアも、


「ユージンさーん、頑張ってください! 絶対に勝ってくださいね!」

「あんな小悪党なんかに負けるんじゃないわよユージン!!」


 と言った風にユージンばかり応援していた。


 まぁ逆に俺に向けられるのは失笑と嘲笑だけだが。

 なんてアウェイな空間なんだ。

 俺じゃなかったら普通に逃げ出しているよ。


 そんな感じで圧倒的敗北感を感じながら試合が始まる。


「それでは―――試合開始!!」


 軍隊女の合図とともに、ユージンが一直線に接近してくる。


 ふむ……まぁ確かに結構速いけど……メアよりは大分遅いな。

 此処で身体強化を使えば余裕で避けれるが、今回は使わない。


「ふっ、何処見ているんです……か!!」

「チッ……」


 ユージンの木剣が俺の脳天目掛けて振り下ろされるが、ギリギリの所で俺とユージンの木剣の間に剣を滑り込ませて防御。

 しかし素の身体能力では俺が劣っているため、受け止め切れずに後ろへ飛ばされた。


 俺は予め格闘家の模倣魔法を掛けているので、受け身を取りながらほぼノーダメで地面を転がり、直ぐに起き上がり剣を構えようとすると―――


「遅いよ」


 既に俺の目の前にユージンがおり、剣で受け止めることすら出来ずに横薙ぎが俺の腹へと打ち込まれる。


「ぐはっ―――!?」


 やはり身体能力が低いせいで目では追えるが体が反応せず、俺はくの字になりながら結界にぶつかるまで吹き飛んだ。

 打ち付けられたことも相まって、全身が死ぬほど痛い。

 

 あー体痛ぇ……なんで俺がこんな目に遭わないといけないだよクソが……。

 

 俺は心の中で文句を言いながらも立ち上がり、この試合を受けた理由となる目的をユージンに聞く。


「はぁはぁはぁ……貴様……一体なぜ俺と試合をしようとした? 俺が弱いからか?」

「違うよ」


 ユージンが俺を見下ろしながら首を横に振る。

 まぁこの反応は予想していた。

 こいつの強さなら誰にでも勝てるからな。


 だからこそ……理由が分からない。


 そもそも今俺に挑まなくても、ストーリー的には後で俺が挑むのだから自らが動く必要など無いはずだ。


「うーん……まぁ特別に教えてあげようかな」


 そう言って少し考える素振りを見せた後、「まぁ別にこれくらい良いよね」と小さく呟いた。


「ただ……必要な事だからかな?」


 必要な事……?

 必要な事なら別に今でなくても……まぁコイツがストーリーを完全に破壊しようとしていない事だけは分かったから今回はこれでいいか。


 俺は「意味の分からない事を……」と取り敢えず呟き、特にこれ以上続ける意味もないので降参する。


「チッ……いつか必ずこの借りは返す」


 俺はそれだけ言うと、結界を抜けて1人教室に戻った。


 …………体痛ったぁ……メアに後で回復魔法掛けてもらおう……。

 


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