第22話 主人公も転生者の様ですよ

 俺が教室の扉を開けると中に居た全生徒の視線が集まる。

 しかしその視線に好意的なものは一切なく、殆どが嫌悪や軽蔑の感情がありありと浮かんでいた。


「おい……あれって落ちこぼれのジンだろ? なんでSクラスに居るんだ?」

「模擬戦でもボロ負けしたって噂じゃないか」

「どうせ家の権力でしょ」

「ああ……アイツ一応公爵家の坊っちゃんだもんな」

「皆実力でここに入ったのにね……」

「さっさと消えてほしいわ」

「噂も悪いものしか無いし、クラスの雰囲気壊すだけだよ」

「屑はお呼びじゃないっての」


 予想していた通り散々な言われようだ。

 まぁ全然傷つかないと言えば嘘になるが、子供の戯言としてスルーしていれば、その内避けされはしても陰口は叩かれなくなるだろう……そう願いたい。


 俺は肩身狭くしながら、一番後ろの端っこのボッチにとって最強のポジションに腰を下ろす。

 そして教室を見渡しながら、主要キャラを探すことにした。


 やっぱりまずは主人公からだよな……っと居たな。


 俺は赤髪赤眼の美少女と、金髪金眼の美少女とイチャイチャしている黒髪黒目の超イケメンを半目で見つめる。

 正直教室でやるなと声を大にして言ってやりたい。

 そしたらワンチャン友達が出来るまである。

 

 あのクソムカつくイケメンがこの物語の主人公―――ユージン・ドレイクだ。

 男爵家の次男の生まれで、両親は父親が騎士団長で母親は魔法師長。

 更に兄は剣の天才と呼ばれているうちの兄と肩を並べる程に強い。

 まぁ正直兄程度なら一瞬で滅殺は出来るが。


 しかし主人公は―――既に兄よりは強いはずだ。

 流石に両親よりは弱いだろうけど、それでも15歳でその力を持っているのは十分神童と呼ばれるに値するだろう。

 初期ステータスもジンの10倍位あったし……まぁジンが弱すぎるのもあるけど。


 そしてその主人公にいちゃついているのが、先程新入生代表として演説した王女様と、伯爵家の令嬢で軍隊女の妹でメインヒロインの1人でもある―――アリア・ミリタリーだ。

 

 しかしおかしいな……アリアは元から幼馴染み設定だから好感度が高いので今の状況は分かるが、王女さんは確か俺との決闘で初めて関わりを持つはず……。

 さらに言えば、確かストーリー開始前に王女さんは誘拐されて強姦寸前まで追い詰められたから、この時はまだ男が嫌いなはずなんだけど……。


 もしかしてストーリーが変わっているのか……?

 だが一体なぜ?

 俺は此処まで改変させることが出来るほどの事はしてないはず……なら原因は主人公であるユージンか?


 俺はユージンを注意深く観察する。

 視線の先では、2人のスキンシップに照れと困惑の表情を浮かべており、ゲーム中盤の表情と非常によく似ていた。


 ……雰囲気はゲームのままか。

 しかし……これは不味いな……。


 俺はユージンを観察して気付いた事が1つある。

 

「……なんであんなに魔力があるんだよ……」

 

 それは俺の半分……はないものの、確実に当初俺が持っていた魔力量に迫る魔力を溜めていることだ。

 本来ゲームでは殆ど主人公に負けていたジン君だが、始めは魔力量だけは圧倒的に高かったのだが……ゲームと違って今は殆ど変わらない。


 そこで俺は確信した。


 

 ―――アイツも俺と同じく転生者だ、と言うことに。









「では自己紹介は後にして……まず序列戦を行うぞ」


 場所は変わって、入学試験の時にも使った訓練場で俺達は担任である軍隊女の話を訊いていた。

 

「序列戦は皆知っていると思うが、Sクラスだけが行う特別なものだ。これから1位から25位までを決める。対戦相手は自由だ。では適当に決めてくれ」


 軍隊女はそう言うと、結界の準備その他諸々をしだした。

 そして生徒たちは弱そうな相手を中心に組もうとするが、この中で一番弱い(ゲームでは)はずの俺の下には誰にも来ない。


「ははっ……相変わらずの不人気だな……」


 皆、公爵家である俺にもし勝ったとして、何をされるかを考えたら怖いのだろう。

 陰口を言う勇気はあるのにな。


 因みにゲームではそこそこ強くて家の階級が低い相手を脅してわざと負けさせて、序列7位の地位についていた。

 正直そんな事は流石に俺には出来ないので普通に負けようかと迷っていると1人の生徒が俺の所にずんずんと向かってくる。


 そう―――1番関わりたくない主人公のユージン君である。


 おいおいおいおいおい……来るなよ馬鹿!!

 絶対に俺じゃないよな!?

 俺の近くにいる王女様だよな!?


 俺は内心慌てふためくが、外には一切出さず、此方へやって来るユージン君を観察しようとして……バッチリ目が合った。


 ……今のは俺の見間違いだよな?

 そうだと言ってくれよ。


 しかし俺の願いは虚しく打ち砕かれた。


「―――ジン・ディヴァインソード様、俺と序列戦をして頂けませんか?」


 はい詰んだージン終了のお知らせありがとうございますー。

 はぁ……もうやだよコイツ……。


 

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