第19話 悪役貴族が口封じする様ですよ②

「な、何の話をするのだ……?」


 ディノテイルが瞳に恐怖を宿しながら聞いてくる。

 まぁ自分が無力だと分かった時は誰でも怖いよな。

 だが、コイツはコイツで結構悪さをしてるし、ゲームでも散々苦労させられたので全く良心は痛まないが。

 

「勿論さっきの魔力測定の事についてだ。俺の要求は2つ。魔力測定器が壊れていた事にして、もう一度受けさせろ。そして……俺の力については一切話すな。誰にもだ。話した瞬間―――お前の行っているモンスター研究や召喚陣を学園側にバラす」

「なっ!? な、何故その事を……」


 おー驚いてる驚いてる。

 まぁ誰にも知られずに十数年掛けて完成させていた事がバレてるんだもんな。

 しかも落ちこぼれで何も出来ないと思っていた奴に。


「で、どうする? もし俺の要求を飲むなら、今回の模擬戦もお前に勝たせてやろう。どうだ? これで対外的にはお前の面子も保たれるぞ?」

「くっ……だがこの要求を飲まれないと貴様の方が不利になるんじゃないのか……?」


 その言葉に俺は一瞬真顔になってしまう。

 それを見逃すほどディノテイルは馬鹿ではなかった。


「や、やはりそうか……! なら俺がこの要求を蹴っても何も問題―――ぐっ……!?」


 俺は奴の話を遮るように【水の鎖】の拘束力を上げる。

 体に食い込みそうなほどに巻き付いた鎖が首にもあるせいで、ディノテイルは呼吸が出来なくなっていた。

 だが俺にはコイツがこの程度で死ぬような人間でないことは知っているので緩めることなどしない。

 

 俺は再びニヤリと顔を歪める。


「ヒッ―――」

「貴様……俺に交渉しようとしているのか? 命が俺に握られている状況で? ―――だがそれは無意味だ。最悪の場合、今回の出来事について、全ての人間の記憶を消せば何も問題ない」


 実際にはギリギリ全員の記憶を消すことはできないが、大半の記憶なら消せるのでなあがち嘘は言っていない。

 多分今の俺なら例え軍隊女が来てもギリギリ勝てるはずなので、邪魔される心配もないからな。


「む、無理にき、決まっている……!! き、貴様の7000程度の魔力量でこの会場にいる全ての人間の記憶の改竄など……」

「―――誰が何時、俺の魔力量が7000だと言った?」

「…………は?」


 ディノテイルが理解できないと言った呆けた顔を晒して間抜けな声を漏らす。

 俺はそんなディノテイルの頭を掴み、近づける。


「なぁ……本当に俺の魔力量が7000程度だと思っているのか? 周りをよく見てみろよ」

「ど、どう言う意味―――ッッ!? ば、馬鹿な!? な、なぜ周りの水蒸気が未だに晴れていない!? ま、まさか―――」

「そのまさかだよ。俺が魔法で動きを止めてるんだ。魔力は結構食うが、俺たちの体を隠すのには最適だからな」


 俺は水蒸気爆発が発生した後、俺の魔力を使って水蒸気を固定していた。

 元々は、【魔力拘束】と言う無属性魔法なのだが、俺が多少改良したことにより、自然の魔力を拘束することによって、擬似的に物体の動きを止めることに成功したのだ。

 まぁその分魔力は結構使うが、そうと言っても俺の全体魔力量の10分の1以下なので、特に問題ない。


「さて、こんな魔力をバカ食いする魔法を常時展開しながら、上級魔法の【水の鎖】を使い、こうして余裕でお前と話が出来ている俺の魔力量がはたして7000程度だと思うか?」

「う、う、嘘だ……」


 俺はブルブルと震えて聞きたくないと言いたげな表情となっているディノテイルに告げる。


「―――これでも手加減してんだよ」


 俺のその言葉が致命傷となったのか、ディノテイルは完全に心が折れた様で、ガックリと俯いてしまった。

 そして諦めたかの様に小さな声でボソッと言う。


「…………分かった。お前の要求を飲もう……」

「よし、それで良い。なら【契約魔法】を使うぞ」


 俺が当たり前のように言うとディノテイルが驚いた様に顔を上げた。


「なっ!? それは既に失われた魔法のはず!? 何故貴様―――お前が使えるのだ!?」

「余計な模索は命を失うぞ? お前は黙って契約すれば良いんだよ」


 俺がそう言うと苦虫を噛み潰したかの様な顔に変わる。

 大方俺との約束は途中で破るつもりだったのだろう。

 だが俺はゲームでのコイツの屑さはよく知っているので、そんな危険な事はしない。

 やるなら万一にもバレる可能性を潰しておかなければならないのは常識だからな。


「……チッ。やるならさっさとやってく―――」

「俺に向かってタメ口か? お前……立場分かってんのか?」

「…………私と契約をしてください……」


 俺の眼力に負けたディノテイルが敬語に変わる。

 よしよし、しっかりと上下関係を刻んでおかないとな。


「じゃあぱぱっと終わらせるぞ―――我、ジンと愚か者、ディノテイルの魂を縛る、決して消えない契約を交わす―――【命約】」


 その言葉と同時に俺たちの魂に1つの鎖が巻き付く。

 これで契約完了で、もし破れば魂ごと消滅させられ、如何に蘇生魔法を使おうが決して生き返ることなど無い。


「これで完了だ。さて……よろしく頼むぞ、試験官殿?」


 恐怖に体をガタガタと震わすディノテイルに俺は笑顔で告げた。



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 今日はもう1話投稿します。

 18時3分頃に投稿するので、是非見てみてください。


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