第18話 悪役貴族が口封じする様ですよ①

 どうも悪役貴族のジンです。

 現在大変ヤバイ状況に直面しています。


「おい263番、少し待て」


 一番近くで見ていて、ついさっき俺をボロクソ言った教師が呼び止めてきた。

 正直無視して行きたいが、そうすれば余計に目立つのは目に見えており、誤魔化すことすら出来なくなるので即座に考えを改める。

 

 しかし……現時点での上手い誤魔化しが思いつかない。

 魔導具が壊れていた、と言う必殺技は難しいだろう。

 もしこれで直ぐに確認してみますとか言われて試されたらもっと俺が不利になってしまうからな。


 となると……よし、口封じだな。

 俺が壊れていたと言えば信じてもらえないだろうが、試験官だと話の信憑性はダンチだ。

 と言うかもうそれ以外に誤魔化す方法を思いつかない。


 俺はゲームでのジンの話し方を意識して口を開く。


「……何だ? 俺は次にとっとと進みたい。貴様の話を聞いている時間はない」


 確かこんな感じだったはずだが……煽り性能高すぎないかジン君!?

 目の前の教師が驚きと怒りで顔を真っ赤にして固まってるよ!?

 まぁ狙い通りではあるんだけどさ……俺も自分で言って軽く引いてるよ。


「き、貴様だと……!? わ、私は侯爵当主の甥で教師で試験官だぞ!? 少し口の聞き方を改めろ!!」


 ごもっともですよ先生。

 でも許してください……これがジン仕様なんです。

 まぁわざとだけど。


「五月蝿い、貴様はまだ俺の教師ではないだろ。それに貴様が侯爵家の甥だろうが、俺は公爵家の子息だ。貴様よりも階級が上なんだよ。分かったらとっとと俺を次に行かせろ」

「き、貴様あああああああ!! もう許さん―――」


 貴様しか言うことの出来なくなった教師が、ビシッと俺を指差すと仰々しく声を張り上げる。


「落ちこぼれで不正をした分際で良く俺に舐めた口を訊いてくれたな!! ―――今から私直々に貴様の模擬戦の相手をしてやろうッッ!! 光栄に思うんだな!!」


 ―――よし掛かった!

 

 俺は心の中でガッツポーズを何度も繰り返す。

 今回執拗に煽り性能の高いジンの口調で話していたのはこのためだ。


 コイツは先程の発言からも解るように、相当に自尊心が高く、自分が大好きなナルシスト系だろう。

 だからこの様に子供の戯言と流せず真に受けて直ぐにキレる。

 まぁ今回はその性格のお陰で助かるのだけど。


 俺が上手く行った事にホッとしていると、何やら模擬戦の試験官と話をつけてきたらしい教師が、意地汚いニヤッとした笑みを浮かべ、その瞳に侮蔑を宿して俺に言う。


「さっさと結界の中に入れ! 直ぐに始めたいのだろう? だからお望み通り直ぐに始めてやろう!」


 多分俺を煽り返そうとしたのだろうが、本当にお望み通りの結果になっているので全く怒りが湧いてこない。

 逆に俺の失敗を挽回できそうなので感謝まである。


「ふん、それでいい。ではとっとと始めよう」


 俺は呆けた顔を晒す教師を尻目に結界の中へと入った。


 

 

 





 

 結界の中は周りの音が完全に遮断されていた。

 【遮断結界】でも張っているのだろうか?

 

「おい教師」

「だから口の聞き方を―――」

「俺達の声は外に聞こえているのか?」

「―――せめて最後まで人の話を聞け!! …………聞こえていない。魔法は耳に響くモノもあるのですべての音を遮断しているが、開始の合図は聞こえるようになっている」

「そうか」


 俺は又もや心の中でガッツポーズをキメる。

 

 よし……これならお話・・もしっかり出来るな。

 それにあの軍隊女も居ないから、バレない魔法使えば目の前の教師程度には勝てるだろう。


『それでは受験番号263番対試験官ディノテイル―――試合開始!!」

「!?」

「何を驚いている!! それが戦闘では死を招く行為になるぞ! ―――【火炎球ファイアボール】」


 俺が驚きで固まっている所に20センチ位の火炎球が飛んでくるが、今はそれどころでは無かった。


 教師ディノテイルだと……!?

 ゲームの序盤に主人公に何かと嫌がらせして、最終的に学園にモンスターを放つも主人公に止められて、結局学園を追い出される典型的な悪役じゃないか!!

 確かにゲームでの顔と似ている気がする。

 よし、同じ悪役として少し同情するが……俺のために此処ではボコボコになって貰おう!

 ―――が、一先ず既に目の前に迫ってきている火炎球からなんとかするか。


「―――【魔眼:支配】」


 俺はジンが生まれ持っている最強の魔眼を発動させる。

 この魔眼は、極めればあらゆる物を支配できる最上位の魔眼で、現在は魔力と対象1人のみなら自由に権能を使える。

 本当ならこんな所で使うものではないが、現在俺のミスを挽回しないといけないし、如何に観客に俺の強さかバレないようにするにはこれが最も最適なのだ


 その魔眼の力で火炎球の軌道をほんの少し逸し、俺は動かない。

 こうする事によって、ディノテイルが怖気づいた俺に敢えて魔法を外した様に見せかけれるってわけである。

 まぁディノテイルは当たらなくてめちゃくちゃビックリしているが。


「な、何故外れて―――チッ、運のいい奴め。これならどうだ! ―――【水球アクアボール】✕5!!」


 その瞬間に魔法陣が5つ出現し、水球が撃ち出される。

 まぁ教師と言うだけあり、まぁまぁ強い。


 だが―――


「―――我が敵に炎撃を放て―――【火炎球】」


 俺はわざと詠唱をして、水球が俺に当たるギリギリに発動させる。

 すると高温の火が水に触れ―――


 ―――ドカンッッ!!


 水蒸気爆発を起こして結界内の視界が水蒸気で霧のように見えなくなる。

 これで舞台は整った。

 外からは何も見えない・・・・・・

 結界の中は基本、外からの魔力感知も遮断するため、俺が魔法を使ってもバレない。


「な、何だこれは!? クソッ、取り敢えず風魔法で吹き飛ばして―――」

「———【身体強化】【時間加速】———それは止めてもらいたいな」


 俺は魔法を発動させようとしているディノテイルに2つの魔法を使って一瞬で接近すると、即座に魔眼の力で魔力を霧散させる。

 

「!? ま、魔力が……」

「―――【水の鎖】」


 水の鎖が複数本現れ、ディノテイルの全身に巻き付き締め上げる。


 この魔法を解除するには俺よりも高い魔力が必要。

 しかしディノテイルは魔力量で俺に遠く及ばないどころか、現在魔力自体を俺が支配していることによって使えなくなっている。

 これらから導き出される現在のディノテイルの状況は―――


「―――詰みだ」

「ッッ!? き、貴様は……落ちこぼれではないのかッッ! ま、まさか……力を隠していたのか!?」


 俺は俺を睨みながら喚くディノテイルにニヤリと笑う。



 「まぁそれも踏まえて……楽しい楽しいお話を始めようか?」



 その時の笑みは、きっと悪役にお似合いの不気味な笑みだっただろう。

 


 

———————————————————————————— 

 今日の投稿はこれで終わりです。

 また明日お会いしましょう!!

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