第17話 悪役貴族が盛大にやらかす様ですよ(改)

「実技試験の内容は、まず魔力量測定、次に試験官との模擬戦だ。別に何方か1つが低かったとしても、それ以外で補えていれば受からないことはない。更に試験官との模擬戦は勝つことだけが全てではないとだけ言っておこう」


 そう言った後、ルシアは突然何処かに消えてしまった。

 まぁ大方、空間魔法の【指定座標転移】でも使って転移したんだろうが。


 俺にとっては転移が見慣れたものでも、他の受験生はそうではないようで皆目を輝かせていた。


「すげぇ……あれがルシア先生の魔法か……」

「転移とか高位魔法使いの象徴じゃん! 俺も使ってみたいなぁ」

「私、ルシア先生の様にかっこいい女性になりたい!」

「私も! そして私を捨てたあの男を見返してやるの!」


 ……1人めちゃくちゃ私怨の奴居るな……絶対にヤバい奴だろうから関わらないでおこ……俺が言うのも何だけど。

 それに転移位で騒ぎ過ぎだよな。

 確かにゲートを出現させずに無詠唱で使用できるのは凄いのかもしれんが、その程度俺もメアも出来るので、正直メインヒロインの最強魔法師って意外と弱いんだなと思ってしまう。

 だが―――

 

「これなら隠すのも楽で良さそうだ」


 俺は誰にも見られない様にニヤリと笑う。


 しかし、この後自分が盛大にやらかすなどと、この時の俺は微塵も思っていなかった。






 


「次―――受験番号260番!」

「はいっ!!」

「―――フガッ!?」


 俺が永遠に思われる待ち時間に睡魔に負けて爆睡をかまし、自分の頭がガクッとなった事で起きると、俺の順番である263番まで残り3人となっていた。

 それに気付いた俺は、もう焦る焦る。


 やべぇ……今までの受験生のレベル見て平均目指そうと思ったのに完全に寝てたわ。

 いや幾ら何でも2時間寝てたら誰かしら起こしてくれるよな普通。

 ああそうか、悪役貴族だから俺の周りに全然人居ないだよなちくしょう!


 俺が心の中で悪役貴族であった事を久しぶりに恨んでいると、魔力量を測る水晶型魔道具に手を置く、黒髪黒目の珍しい少女に視線が吸い寄せられた。


 そうだな……せめて少しでも受験生のレベルを確認しないといけないよな。

 

 少女が手を置いた水晶と繋がっているモニターみたいな所に、魔力量が数値化されて表示される。

 目の前の少女は12000だった。


 うーん……凄いのか凄くないのかさっぱり分からん。

 ゲームでの入学試験は朧げにしか語られなかったからな。

 それに他の受験生は自分のことで頭いっぱいらしく、他の人の結果に見向きもしないから余計に分からないんですが。

 まぁ後2人いるし、ソイツら合わせた3人の平均位にするか。


 俺はそう考えて残りの2人の数値を見ていたら、261番のチャラそうな男が6200、262番の如何にも魔法が苦手そうなムキムキの男が6800だった。


 ふむ、平均すると8333……多分これは普通に高いな。

 多分あの黒髪黒目の少女がずば抜けて高いんだろう。

 なら他の2人が平均と見ていい気がする。


 他の2人は如何にも努力大嫌いです〜みたいな見た目の奴と、如何にも魔法苦手です! と言った様な奴だったしな。


「次―――263番……」

「はい」


 俺の番が遂に来たのだが……あの試験官の男、俺を見た瞬間にあからさまに嫌そうな顔しやがった。

 まぁ俺が悪役貴族だから仕方ないのもあるが、せめて大人なら少しは隠そうとしないもんかね?

 

 俺はいつかこの教師しばいたる……と思いながらも敵意は出さない様にして魔道具の前に立つ。


「……この水晶に手を置いてください」

「はーい」

「……チッ―――屑が調子に乗りやがって……」

 

 聞こえてますよ教師殿。

 ほんと、いつか完膚なきまでに叩きのめして自信喪失させてやるからな。


 俺は目の前の教師を軽く睨んだ後、水晶の上に手を置く。


「……【魔力感知】【魔力封印】……」


 俺はボソッと誰にも聞こえない様に先程の2人の魔力を感知し、その後にその2人よりも少し多いくらいに魔力を封印する。

 これで絶対にバレることはないだろう。

 あの軍隊女さえ居なければ。

 

 するとどんどん数値が上昇していく。

 今回俺は7000程度で止めるつもりだ。

 本当は6000位にしようかと思ったのだが、目の前の教師が物凄くムカつくので、せめて少し良い結果を出してやろうと思った所存である。

 まぁ此処で多少ヘマしても、次の模擬戦でバランスを取ればいいので問題ない。


 俺は意識して魔力の流れを遮断して数値の上昇を7000ぴったりで止める。

 

 ふっ……どうよ俺の完璧な魔力操作は!

 みたか試験官兼教師!

 さて一体どんな顔して―――――――え?


 俺が少し驚いた表情を思い浮かべていると、そこにはあんぐりと口を大きく開けて呆然としている教師が居た。


 あ、あれぇ?

 ねぇ君何でそんなに驚いてんだい!?

 これでも、受験生の平均より少し高いだけだろ!?


「ば、馬鹿な……あの落ちこぼれがツヨーイ伯爵家とスゲェイ侯爵家の天才児より上だと……!? きっと何かの間違いだ……そうに違いない! 相手はあの屑の落ちこぼれだぞ!?」


 テンパってるんだろうけどせめてもう少し隠す努力はしようよ。

 俺が傷付くぞ、ほんの少しだけな。 

 ……なんてふざけている場合じゃ無いな。


 あのクソ教師がまぁまぁな大声で叫んだせいで、周りの注目が集まってきたのだ。

 そして皆、俺の記録を見ては驚愕に目を見開いている。


 俺は目の前の驚きに顎が外れてそうな教師と先程の言葉、受験生達の反応で、今この瞬間に気付いた事が1つある。

 それも重大な事に。



 ―――――俺氏、完全にやらかしちゃいましたよねぇぇぇええええ!?(大正解)




 拝啓、メア様。


 どうやら俺は開始早々派手にやらかしてしまった様です。

 どうすれば良いでしょうか……?


  

 俺は皆の注目を浴びる中、乾いた笑みを浮かべながら天を仰いだ。



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